「小児性犯罪が起きるのは“水”に関する場所が多い」は本当か? 職業や立場を利用した卑劣な性暴力の実態

子どもの体に触れられる水泳教室

日本国内では2023年、水泳教室での小児性被害が相次いで報道されました。そのなかには全国200店舗以上を誇る、国内最大規模のスポーツクラブで起きた事件もあります。

水泳のレッスンが終わり、母親が娘の着替えを待っていたところ、娘はいつもより20分近く遅れて更衣室から出てきました。母親に理由を聞かれた娘が返したのは、「先生の〝どじょうさん〞をペロペロした」「苦くて、ペッとした」─。

先生というのは大学生の水泳指導員のことで、その男は2カ月後、強制わいせつの疑いで逮捕されました。最初の報道の時点では、スポーツクラブから親に謝罪もなかったとのことです*4。

加害した本人が罪に問われるべきであるのは当然のこととして、クラブにも、組織としてそれを防ごうとしていたのか、今後はどう防いでいくのかを説明する責任があります。

小児性被害者の支援者である弁護士さんから聞いた話では、「小児性犯罪が起きるのは水に関する場所が多い」そうです。トイレ、お風呂(銭湯などの公衆浴場含む)、そしてプールです。

更衣室が死角となりやすく、水泳教室となれば、指導者が子どもの身体に触れても、子どもも親・保護者も不自然だと思いにくい。加害者はそうした状況を利用し、実行に移せるタイミングを待ちます。環境さえ整っていれば、彼らとしてはあわてる必要はありません。

逆にいえば、そのどこかの段階で性加害の実行をブロックする必要があります。それは、スポーツクラブや商業施設といった組織の役目でしょう。

また、教員や指導員といった職業でなくとも、立場を利用して子どもに近づくことは可能です。2017年、ベトナム国籍の9歳の女の子が性被害の末に殺害された千葉小3女児殺害事件。

逮捕された40代(当時)の男には、女児と同じ学校に通う子どもがいました。男は、立候補して保護者会の会長を務めたり、毎日のように通学路で児童の登下校を見守る活動をしたりしていました。そのため周囲からは、子どもが好きで、地域の活動にも熱心な人という印象があったようです。

しかしその実、見守り活動は子どもに近づき、ターゲットを見定めるための手段だったのではないか─。そう考えると、背筋が凍ります。

男の古い知人らは、彼が子どもを性の対象としていることを知っていたという報道もあります。そうとわかる発言をして憚らなかったそうです*5。やはり、どこかで事件につながる道をブロックできたのではないかと思わずにいられません。

小児性暴力をくり返しながら、まだ発覚していない人物。子どもに性的関心があり、機会があれば実行に移したいという願望をもつ人物─。彼らを子どもにかかわる仕事に就かせない、子どもに近づけないのがいちばんですが、現実にはむずかしいことです。

加害したことが発覚するまでは、その本性はわかりません。しかし、そうした人物が子どもたちのいる環境に入り込んだとしても、そこが〝性加害を実行に移しにくい場所〞であれば、子どもは守られます。

加えて、一度でも子どもに手をかけた人物を、二度と子どもに近づけないことはできるはずですし、やらなければなりません。日本の現状では、環境づくりも、近づけない対策も甚だ不十分です。学校や習いごとといった組織内部で起こる性暴力は、個人ではなく組織で予防に取り組まないとなりません。

図/書籍『みんなで守る子ども性被害』より
写真/shutterstock

*1 Falkenbach DM, et al. Sex Abuse 2019;31(5):524-542.
*2 BBCウェブ版2018年2月1日配信「Larry Nassar case: USA Gymnastics doctor ’abused 265 girls’」https://www.bbc.com/news/world-us-canada-42894833
*3 Deutsche Sportjugend. Safe Sport 2016.
*4 SmartFLASH 2023年4月16日配信「【独自】セントラルスポーツ水泳指導員が『3歳女児』に強制わいせつで逮捕!父親が悲憤「娘はトイレを怖がるように」」https://smart-flash.jp/sociopolitics/231262/1/1/
*5 週刊文春2017年4月27日号「リンちゃん殺害凌辱鬼渋谷恭正(46)の素性」

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小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る子ども性被害

今西 洋介

2024年12月5日発売2,090円(税込)四六判/280ページISBN: 978-4-7976-7456-9

1日に1000人以上の子どもが性被害に遭っている――。(厚生労働省調査 令和2年度、推定)
小児科医「ふらいと先生」がエビデンスベースで伝える、
まだ知られていない小児性被害の「本当」と、すべての大人が子どもを守る方法。

旧ジャニーズ性加害問題などによって、世間の関心をますます集める子どもへの性暴力。
実際、性被害に遭う子どもは多いの? 少ないの? うちの子は大丈夫?
被害を受けた子は何か「サイン」を出すの? 心と体にどんな「傷」を負う?
結局、子どもを守ったり助けたりするには、どうすればいいの?
医療・育児インフルエンサー「ふらいと先生」として知られる小児科医がエビデンスにもとづき、
誤解も多い小児性被害の実態や、パパ・ママから先生まで大人のみんなができる「予防法」を、やさしく伝えます。

大人が小児性被害の「真実」を知れば、大切な子どもを守れる!
●厚生労働省は「1日1000人以上の子どもが性被害に遭う」と試算
●アメリカの研究では「未治療の性犯罪者1人が生み出す被害者は380人」
●男性100人のうち1人がペドフィリア(小児性愛障害)の可能性
●性被害を受けた子どもの男女比は1:2
●加害者は子どもの「知らない人」より「知っている人」のほうが多い
●被害経験のある子が生活習慣病や肥満になりやすい理由
●子どもにスマホを持たせると「デジタル性暴力」に遭うのか?
●「日本版DBS」だけでは小児性被害は防げない