実写映画化が発表された『近畿地方のある場所について』は、「白石晃士監督なら間違いない」「過去作のような禍々しさが期待できる」と、大きな期待を集めています。その理由を記していきましょう。



書籍『近畿地方のある場所について』映画化発表ビジュアル 著者・背筋(KADOKAWA)(C) 2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

【画像】え…っ? 松本まりか(公開時20歳)出てる!? こちらが『近畿地方のある場所について』に影響を与えた(?)2005年の衝撃ホラーです

今見ても衝撃的な配信なしのフェイクドキュメンタリーホラー

 背筋さん原作のホラー小説『近畿地方のある場所について』(以下『近畿地方』)の実写映画化が発表されました。原作はWeb小説サイト「カクヨム」で累計2000万PVを超え、単行本の発行部数は30万部を突破し、コミカライズもされている人気作です。

 監督を務めるのは過去何作もホラー映画を撮ってきた白石晃士さんで、ホラーファンからは「最高の人選」「安心感が半端ないって」などの声が相次ぎました。なかでも、白石監督のとある過去作との共通点を挙げる意見が多くあったのです。また、映画化発表前から類似点について触れるコメントはSNSでいくつか出ていました。

 しかも、背筋さんは、今回の映画化決定の報に併せて「私は長年白石作品に魅了され続けていました。それに飽き足らず、作品から得た恐怖を再現するべく、自ら書いてみようと思いました」とコメントしています。

 原作者自ら『近畿地方』が白石監督作に強く影響されていることを明言するばかりか、「最大級のラブレターを白石監督がどのように料理してくれるのか」と大きな期待を寄せているのです。

 ほかにも、背筋さんは「ねとらぼ」のインタビューで『ノロイ』のほか、小野不由美さんの小説『残穢(ざんえ)』やゲーム『SIREN』などの好きな作品から着想を得ており、「複数の情報を繋ぎ合わせていくと全体像が見えるというもの」「受け手に考察してもらう作品」を書きたかったとも語っています。

 その白石監督は2024年8月に劇場公開され絶賛を浴びた『サユリ』(原作:押切蓮介 現在はDMM TVで見放題配信中)や、心霊体験を後述もする「フェイクドキュメンタリー」手法で追った『コワすぎ!』シリーズなど、エンターテインメント性の高い作品でも支持を集めています。

 ただ、そういった近年の人気作よりも白石監督作のなかで『近畿地方』に影響を与えたと思われるのは、2005年公開で現在はどの配信サービスにもない映画『ノロイ』です。

『ノロイ』は「禍々しい」「暗黒路線」「フェイクドキュメンタリー」「考察系」という風に、なるほど『近畿地方』の読み味に近い内容であり、映画もその方向性での傑作になることが期待できます。『近畿地方』と『ノロイ』の内容を振り返りつつ、両者の具体的な共通点も記してみましょう。

『近畿地方』は、「週刊誌の記事」「ネットの掲示板」「配信動画」「インタビューのテープ起こし」などに残された実話をつないでいく体制をとった小説です。それらは「消息を絶ったオカルト雑誌の編集者が調べていたもの」で、「近畿地方のある場所」にまつわる「何か」が共通していることも示されています。

『ノロイ』は、「失踪した怪奇実話作家が遺した映像を検証し完成させた」という体裁をとった「フェイクドキュメンタリー」です。若手時代の松本まりかさんやお笑いコンビのアンガールズも本人役で出演しており、「子供たちの透視能力などを検証するテレビ番組」や「民俗学の教授の見識を聞く」場面なども挿入されるなど、「本当の映像らしさ」を突き詰めた内容となっていました。

 その『ノロイ』と『近畿地方』の大きな魅力および共通点は、やはり「本当にあったこと」という体裁で進むからこそのリアリズムでしょう。しかも、短いエピソードの連なりであり、それぞれで「腑に落ちない」ことがまた恐怖を呼び起こすのです。

 さらに、聞きなじみのない意味深な言葉や土着信仰的な儀式といった謎、もしくは「積み重なる断片的な違和感」が、別のエピソード、はたまた時系列と場所を同じくする別の人物の視点で回収されたり、もしくは別の謎や不条理な事実につながったりもします。そして、作品全体を俯瞰して見てこその、根底にはおぞましい何者かの悪意があると想像、または考察させる面白さも共通しており、謎が明かされた後の後味の悪さも共通点でしょう。



コミカライズ版『近畿地方のある場所について』1巻(KADOKAWA)

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小説ならではの仕掛けはどうする?

 さらにピンポイントで類似点を挙げるのであれば、「ダムと(に沈む)村」「幼い少女が失踪する」ことなどもあります。個人的には、『近畿地方』で繰り返し言及される「これでおしまいです」という文言は、『ノロイ』で失踪する少女の「たぶんね、もう全部ダメなんだよ」というセリフと、シンクロしているように思えました。

 一方で、映画『近畿地方』の懸念点を挙げるとすれば、「文章から想像することでの恐怖があった原作」だからこそ、映像化ではその恐怖が薄れてしまいかねない、ということがあります。

 ただ、『ノロイ』は「主観視点」ゆえに見切れている部分もある不安感や、「VHSの荒い質感の映像」など、フェイクドキュメンタリーという特徴を活かした、いい意味で「全部を鮮明に見せ切らない」作品になっていました。そういった見せ方を心得た白石監督だからこそ、『近畿地方』の映像化でも、原作にあった「受け手の想像力を喚起させてこその恐怖」を表現してくれることが期待できるのです。

 白石監督は「原作の得体の知れない黒い魅力を、世界中の人々に感染させるべく、映像化という呪術を仕掛けていきます」ともコメントしており、その通りの禍々しさも期待できるでしょう。背筋さんも「私も原作者として力添えができればと思ってます」とコメントしており、その監修があれば、期待できそうです。

 とはいえ、原作には終盤で文章ならではの「仕掛け」もあり、これはどうあっても単に映像化するのは不可能とも思えます。映画ならではの新たなサプライズも、期待できるかもしれません。