バスケットボールやバレーボールなどのスポーツは、贔屓のチームや選手を応援するのも楽しく、自分もあのように仲間と一緒にスポーツに取り組むことができたら……と思うことはないだろうか。けれども、経験がない、体力に自信がないなどを理由に諦めてしまうケースは多いはず。しかし、そんなド素人でもバスケットボールやバレーボールなどに取り組める場を作っている団体がある。それがNPO法人ド素人スポーツだ。この一見地味に見える地域スポーツクラブが、今密かに盛り上がりを見せているという。同法人の渡辺亜美氏に、その魅力について伺った。
月会費なし、プレッシャーなし。いつでも好きな時に参加OK
年齢性別さまざまな人たちが、思い思いに身体を動かす
ある平日の東京都大田区某所の体育館。午後7時から始まったのは“ド素人スポーツ練習会”だ。年齢は下は10代(10代の場合は、年齢制限や保護者同伴、保護者の同意書が必要なことも)から上は60代まで、競技経験問わず、誰でも一人からでも参加ができる。参加費は1人1回500~1500円。持ち物は競技によって異なるが、持っていなければ貸し出ししてもらえるものもあるので、参加へのハードルは低い。ホームページから希望の日に予約を入れ、当日その場所に行くだけでバレーボールなどのスポーツが楽しめるのだ。
「私たちのクラブに参加される方は20代から50代の方が多いのですが、働き盛りであったり、結婚や出産などで、継続してどこかのチームに所属するというのが難しい世代なんです。そこで好きな時にいつでも来て良いようなスポーツの場所を作ったところ、みなさん“こんな場所を探していた”っておっしゃいます。仕事が繁忙期に入ったら、それが終わってからとか、出産してからとか、気軽にやりたいように参加できる。都度参加型をとり、月・年会費などもなく、行かなければいけないというプレッシャーもありません。そういうものをすべてなくして、スポーツ素人さんが、気軽にやってみたい、ドリブルをついてみたいという軽い気持ちで来ちゃって大丈夫な場作りをしています」
と語るのはNPO法人ド素人スポーツの代表理事の渡辺亜美氏。
「都度参加」
「月会費不要」
「会員登録不要」
「専門的な用具を揃える必要は無い(一部用具が必要な練習会もあり)」
「ルールがわからなくても参加できる」
「疲れたらいつでも休んでよい」
「遅刻、早退OK(施設によっては不可のケースあり)」
「当日キャンセルOK、ペナルティなし」
このように良い意味で緩い決まり事だけの練習会のリピート率は80%と非常に高い。月にだいたい50~70人ほどの新しいメンバーの参加があるそうだが、その半分以上は2回目、3回目と回を重ねて参加するのだという。何度も参加したいと思わせる、ド素人のためのスポーツ練習会の魅力は何なのだろうか。
「参加する皆さんがまずおっしゃるのは、健康的な効果ですね。体重が減った、風邪をひきにくくなった、体力がついたとか。それは想定内ではあったんですが、それ以外で印象的だったのは精神的に前向きになれるという声でした。年齢も職業もバラバラな人たちが集まって身体を動かし、点が入ったら大いに喜び、ミスをしたら“悔しい! でも次は絶対に点を入れるぞ!”と大いに悔しがる。そもそもド素人のスポーツなのでミスは多いです。むしろミスは当たり前という空気なので、誰も責めたりしません。その代わり、それまでできなかったことができたりすると全員で喜び、みんなで大声を出したりものすごく笑ったりして、感情を外に出すのでストレス発散になり、ひいては前向きな気持ちを生み出すのかもしれません」(渡辺氏、以下同)
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運動は得意じゃないけれども身体を動かしたい……そんな気持ちから始まった練習会
近年競技人口が増えていると言われるバスケットボールも、ここなら誰でも気軽に楽しめる
ド素人スポーツの練習会は、職場の同僚や友達同士ではなく家族でもない、何のしがらみもない人々が集まる場所だ。そういった人たちがスポーツというひとつの共通項を通して笑ったり悔しがったり喜んだりするユニークな交流の場となっている。渡辺氏はどうしてこのような場を作ろうと思ったのだろうか。
「今から10年ぐらい前なんですが、運動不足もあって太ってきたなと感じていました。さらに肩こりや腰痛もひどく、通っているマッサージは回数券を買わないといけないほどの深刻な状態。運動をしなければいけないなと思ってジムに通っても続きません。ただスポーツを見るのは好きで、アメリカのあるバスケットボールチームを応援するコミュニティに入っていたところ、みんなでなんとなく自分たちもやってみようかという話になりました。でも、私は運動音痴でしたし、すぐに息切れして何もできなかったんです」
悔しくて一念発起した渡辺氏は、体育館のコートを借り自主練習を始めた。一人で始めたのは、指導してくれるサークルに入ってみたものの周囲が上手過ぎて、ジム同様に続かなかったからだ。しかし、一人での練習にも高いハードルはある。
「料金の安い公共の体育館のコートを借りるには、平日の朝に現地に行って予約をしなければならないので、仕事をしている私には不可能です。でも民間のコートを借りると、1~2万かかります。金銭的な負担を軽くするため一緒にやる人を見つけようと思いました。“本格的にではなくバスケットボールをやりたい人のみ、体育館代を割り勘にしてやりませんか?”という感じで友人に声をかけたり、ネットで募集をしたりしました」
すると“プロの試合を見てやりたくなった”“以前真剣に取り組んでいたけれども体調を崩し、以前のようにはできないけれどもリハビリがてらやってみたい”“50代で子育てが落ち着き、体力的にはこれがラストチャンスかも”など、動機はさまざま。1回に5人、10人と集まり始め、ひと月に200人も集まるようになってしまったのだという。運動は得意じゃないけどシュートができたら楽しいかも……ぐらいの感覚で始めた練習会だったが、渡辺氏と同じように、ド素人でもスポーツをしたいという人たちがどんどん参加するようになったのだった。