月のべ700人参加!ド素人スポーツ練習会にみる現代人の隠れたニーズとは

見る・する・支える、3つの楽しみ方を可能にするド素人スポーツ


“する”人に加えて“見る”だけの人も。さまざまなかたちで参加できるのがド素人スポーツのユニークな点

「健康のために」運動をしようとしても続かなかった渡辺氏は、こうして仲間を募り、したい人がしたい方法でスポーツを楽しむ場を作ることにより、ボールで「遊ぶ」ことがいい運動になっていることに気がついた。いつの間にかマッサージの回数券も不要になっていたのだ。しかし、人数が増えれば、ある程度の決まり事を設けスケジュールなどの管理をする必要が出てくる。

「任意団体として4年ほど活動していたんですが、コロナ禍で活動を中断したら心身共に不調になり、やっぱり運動は大事だと再確認しました。自分と同じ働き世代の方々で同じように健康のために運動をしたいけれど続かない。仕事や家庭の事情でクラブなどに所属するのは難しいというような方が一定数いることはわかったので、そういう方を対象とした安心してストレスなく参加できるスポーツプラットフォームを作ろうと、私は仕事を退職して2022年に本格的に“NPO法人ド素人スポーツ”を設立しました」

専任は、代表の渡辺氏、副代表の児玉氏の2名。そのほかに役員が5名、「ドスポ応援団」という名称の支援者が100名ほどおり、法人を様々な形で支えている。ジムやバスケットボールのクラブはなかなか長続きしなかったと言う渡辺氏は、この場作りに関して、どのようなことを心がけているのだろうか。

「練習会は2時間半から長くて3時間程度。一人で来ている人が多く、夢中で身体を動かして、終わったらそのまま帰るケースがほとんどで、プライベートな話をする時間はあまりありません。話さなければいけないというと余計なストレスになりかねないので、それでいいのではないかと思っています。ただ、初めて参加した方に関しては、私が“今日初めて来てくれましたねこちゃんです。ド素人さんです。よろしく! イエーイ!”ぐらいの紹介はします」

ちなみに“ねこちゃん”というのは、渡辺氏がその方に付けたあだ名だ。つまり、この場では本名を名乗る必要もない。あとはその場の雰囲気任せだ。合間合間に“どうですか? 疲れたら抜けちゃって大丈夫ですよ”などの声がけは適宜行うと言う。まさにちょっとスポーツに挑戦してみたいと思ったら、すぐに参加できそうだ。渡辺氏が練習会を始めた当初、種目はバスケットボールだけだったが、現在ド素人スポーツにはそのほかバレーボールやビーチバレー、フットサル、異色なところでは“見るド素人スポーツ”なるものまである。


ビーチバレーの練習会の様子。バスケットボールから始まり、競技の幅は広がっている

「スポーツ庁が見る・する・支えるという3つのスポーツを提示しています。まさに私たちの推しはこれだなと思って。スポーツをできない方でもいろいろな方法で楽しむことはできます。見て応援する、審判をするとかスタッフとして支える、お金を出して支援することによっても十分楽しむことはできるんです。寿命が延びている現代は、昔よりも健康を重要視してそれなりにお金をかける人が多くなっていますが、健康のために“頑張って”スポーツを続けるのではなく、“ド素人スポーツで遊んでいたらいつのまにか、健康になっていた!”“楽しいからつい来てしまう。気がついたらいつのまにか、週1でスポーツしている!”くらいのゆるい感覚で参加してもらえるような環境を整えていきたいと思っています」

運動の効用、スポーツも上手にプレーできれば楽しいことは誰もがわかっている。しかし、継続するにはハードルがある。時間・費用の問題、さらには人目もあるかもしれない。失敗したら笑われるのではないか、チームメイトに迷惑をかけるのではないか……など。そんな大小さまざまなハードルを一切取っ払ってしまったのが、このド素人スポーツだ。練習会に集まる人が多いのは、そんなハードルさえ取り払えばスポーツを楽しめるという人がいかに多いかを示しているのかもしれない。

text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
写真提供:平田悠馬、Shota Takehara、NPO法人ド素人スポーツ