女性たちが「ステキ!」
脳科学者の茂木健一郎さんなら、画期的な解決策を示してくれるはず。脳と髪の毛は近所だから、きっと造詣も深いことでしょう。「僕はハゲています。若ハゲです。コンプレックスで自分自身つぶされそうになります」と悲痛な叫びをあげる32歳男性。「僕はどのようにハゲをとらえていけばよいでしょうか」という相談に対して、茂木先生は女性を笑わせることができる人はモテると説きつつ、「『若ハゲ』は、実はチャンス!」と断言します。
〈すべての笑いの中で、もっとも価値があるのは、自分の欠点、ダメなところを乗り越える笑いです。(中略)若ハゲになってしまったこと自体は、残念かもしれませんが、メタ認知(自分を外から見ているかのように客観的に観察する脳の働き)の階段を上がって、自分の劣等感を見つめ、笑いを通して生きるエネルギーに変えるチャンスであるとも言えます。最初は難しいかもしれませんが、少しずつ、チャレンジしてみてください。必ず、女性たちが「ステキ!」と目を輝かせるような、魅力的な人になると思いますよ!〉
※初出:月刊誌「第三文明」(第三文明社)の連載「茂木健一郎の人生問答――大樹のように」。引用:茂木健一郎著『脳科学者茂木健一郎の人生相談』(第三文明社、2014年刊)
そんなに念入りに「ダメ」とか「残念」と言わなくてもいい気はしますが、救いを与えてくれる回答ではあります。茂木さんはカツラの人を例に、どう劣等感を乗り越えればいいかを指南。夏の暑い日に、待ち合わせた喫茶店に入ってきたとたん、さっとカツラを外して「暑い日には、カツラはつらいねえ」と言いつつ、おしぼりで頭を気持ちよさそうにふく――。「こんな人がいたら、私たちは、この人は乗り越えている、さすがだ、と思うんじゃないでしょうか?」と言います。思うでしょうけど、実行するのは容易ではありません。
人間がいまひとつアテにならないときは、動物に頼ってみましょう。「最近、髪が薄くなってきました。まだハゲと呼ばれたくありません」という37歳男性の悩みに希望の光を与えてくれるのは、「赤ハゲ珍獣」とも呼ばれているハゲウアカリ。南アメリカ北西部に棲息する小型のサルです。ハゲでブレイクした“成功例”をあげて、代弁者がハゲましの言葉を贈ります。
〈薄毛・尻顔・赤ら顔という三重苦を抱えるのは猿界広しといえどもわれわれだけでしょう。でも驚くなかれ、メスに人気があるのはより赤ら顔のオス。これは血色の良さの表れで、「健康そう!」と、強い子孫を残したいメスにモテまくるわけです。毛が薄いほど顔の面積も大きくなるので、ハゲも大切なモテ要素。(中略)最近はその強烈なビジュアルから人間界でも人気急上昇中です。何の特徴もないフツーな顔より、薄毛でも個性があったほうが印象に残りますし、思わぬきっかけでチャームポイントに転じることも。〉
※引用:小林百合子・文、今泉忠明・監修『いきもの人生相談室 動物たちに学ぶ47の生き方哲学』(山と渓谷社、2018年刊)
「『ハゲ=カッコ悪い』という先入観を捨て、ひとつ個性が増えたと思って前向きに捉えてみては?」とも。たしかにそのとおりです。本人が否定的に捉えている限り、ハゲてしまうことは悲劇ですが、言ってみれば毛がなくなるだけのこと。命が脅かされるわけではありません。「ハゲウアカリの世界ではハゲているほうがエライ」と念入りに自分に言い聞かせれば、ハゲをプラスの個性として捉えることができるでしょう。たぶん。
何人かが言ってくれているように、ハゲたらモテなくなるわけではないし、毛があればモテるわけでもありません。ハゲること以上に怖いのは、ハゲに強いコンプレックスを抱いて卑屈になったり暗くなったりすることです。そして、ハゲをバカにしたくなる誘惑にも、男女を問わず十分に警戒したほうがいいでしょう。天は「ハゲ」という存在を通して、すべての人間に大切なことを教えてくれているのかもしれませんね。
(イラスト、マンガ/ザビエル山田)