最終節の涙の意味。広島FW加藤陸次樹が明かす苦しい時に救われた先輩からの温かな言葉と優勝を逃したからこその新たな決意

 2024年12月8日、広島は敵地でのJ1最終節・G大阪戦に1-3で敗れ、9年ぶりのリーグ優勝を逃した。

 その瞬間、主力としてチームを牽引してきたFW加藤陸次樹の胸には、熱いものが込み上げていた。

「今日は1年間やってきた集大成の場で、みんながすごく戦っていたし、頑張っていた。ただ、それが結果に結びつかなかった。結果はすごく残念でしたけど、(今季限りで引退する)青山(敏弘)さんと一緒に戦えたことがすごく幸せだったなと、改めて思いました」

 戦い抜いた達成感と、戴冠を果たせなかった悔しさ、憧れの人と最後まで戦えた幸福。加藤の涙には様々な感情が混ざり合っていたが、それは今季が濃密な1年間だったことを示している。

「新スタジアム(エディオンピースウイング広島)でリーグ制覇ができるように、ひとつでも多く勝ってファン・サポーターの皆さんと喜びを分かち合いたい。そのためにふた桁ゴールはマストで、15点を目指す。アシスト数もふた桁に到達したい」

 どん欲に結果を求めてスタートした2024年は、数々の苦難も経験した。シーズン序盤はシュートが決まらない苦しさに苛まれ、ようやく初得点を挙げた10節の川崎戦(△2-2)の後には、安堵の表情を浮かべていた。

「もう、マジで吹っ切れていました。点が取れなくてもチームのためにできることはあるし、献身的に戦っていれば、そのうち点も取れるだろうと割り切ってプレーしていた」

 チームの勝利のためなら、加藤は攻守両面で身を粉にして戦い続けた。だからこそ、ミヒャエル・スキッベ監督は加藤をピッチに送り出し続け、チームメイトからの信頼も揺らがなかった。
【画像】最後の最後まで選手と共に闘い抜いたサンフレッチェ広島サポーター
 7節の湘南戦(〇2-0)で決定機を逸した後、加藤は経験豊富なチームメイトからの温かい言葉に救われた。

「(佐々木)翔くんは『(初ゴールを取るのは)時間の問題だから』と笑い話にしてくれ、『続けてくれ』と言ってくれた。シオくん(塩谷司)は『俺は厳しく言う。お前が決めなかったから今日は2-0だった。お前が決めとけばもっと楽だった』とハッキリ言ってくれた。ふたりからの言葉は嬉しかったです」

 周囲に支えられながら走り続けた加藤は、シーズン終盤に広島で最も危険な選手へと進化を遂げ、自身も逞しさが増したことを実感していた。

「シーズン序盤は苦しかったけど、今は良い経験だったと感じています。今年は色々なポジションでプレーして、固定概念がなくなった。どこで起用されようが、ひとりの選手として活躍するのが大事だと思っています。連戦もほとんど出し続けてもらって、キツかった時期もあったけど、タフになれました」

 充実したシーズンだったからこそ、来季のチームに、そして加藤個人にも期待が高まる。

「ファン・サポーターの方々は僕たちの背中を最後まで押してくれた。とても感謝しているので、タイトルを取れず責任を感じています。来年は必ず期待に応えたいし、僕は目標を達成できると思っています。来年はさらに成長して、必ず広島にシャーレをもたらしたいです」

 より一層、自らを磨き上げ、今度こそ広島を頂点へ導く。そう決意した加藤はしばし身体と頭を休ませながら、来季の船出を待っている。

取材・文●寺田弘幸

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