制作時は、ドキュメンタリーとはひと味違う〝自分の心のパンツを脱ぐ〟的な気持ちだったという

——『ありきたりな言葉じゃなくて』は、記念すべきテレビ朝日映像の長編オリジナル映画第一弾作品です。今まで渡邉さんが手がけられてきたドキュメンタリー番組であったり、ワイドショーとは異なる制作スタイルだった部分もあったと思うんですよ。苦心されたことがありましたら、教えていただけないでしょうか。

本当の初期段階の僕の心情を述べると…。テレビ番組をディレクターとして作る時で言うと、取材先の相手の気持ちであるとか、調べて得たファクトであるとか、何かしら軸になるものというのは、自分の外にあるものなんです。それをうまく構成していくことで、テレビ番組はできていると思うんです。一方、よくよく思い返してみると、映画って、シナリオを書くことって、自分の中から出てきた言葉だったり、イメージだったり、そういうものを形にしていくものなんです。テレビのバラエティやドキュメントだと、自分の場合、そういうことをやっているようで、やってないんですよね。そこを欲張ってみようと思い始めたのが35歳ぐらいの時で、シナリオセンターでシナリオの勉強を始めたんですけど。当初はやっぱりワークショップ形式で、自分でシナリオを読んだりするのめちゃめちゃ恥ずかしかった。慣れてないからですよね。やっぱり〝自分の心のパンツ脱ぐ〟的な作業なので、意外とそこって大きく違うところだよなぁって感じました。で、最近この映画作った後に、実はとあるテレビ番組でディレクターを務めたんです。ドキュメンタリーを作ったんです。かなり調べなきゃいけないことが多く、違う面で大変だなと感じ…。

——自分の心のパンツを脱ぐのか、自分ではない他の人が成した実績を調べていくのかという。

やっぱり大きく違いました。で基本的にテレビ番組を生業にしている制作会社の中で、自分たちの作りたいものを作ろう、という機会を作っていただいたっていうのはすごく大きなことだったなと思いますね。

——今のお話でも、実は拓也って渡邉監督に多少ダブるんじゃないんですか? と感じました。自分自身を重ねられた部分も多くあったのでは?

そうですね。拓也は構成作家で、僕自身はディレクター。時には自分が主役になりたいって思うこともあるもんだと。でも、そんな気持ちがあっても、たとえば映画だったなら、自分は何を撮りたいんだ? みたいになったりするんですよ。で、拓也もなんか表現したいという欲求はあるんだけど、「あれ? 俺何やりたかったんだっけ?」みたいな。そこを、拓也はりえとの出会い、そしてつまずききがあって気づいていくわけなんですけど、そういう自分が見たいものに気づくには、すごく大きな垣根を越えなきゃいけないアクションが発生すると思うんです。そういう部分を拓也に思いっきり投影していたというのはあると思いますね。


シナリオセンターで講師を務める拓也が開くワークショップのシーンが描かれている

——今作のテーマでもある「ありきたりな言葉じゃなくて」という言葉だったり、「脳みそがねじり切れるくらい考える」という言葉が非常に印象的ではあったんですけど、あの言葉自体は渡邉監督が考案されたんですか?

両方とも僕からでしたね。タイトルの『ありきたりな言葉じゃなくて』は、ちょっと変化球気味に、『あり合わせな言葉じゃなくて』とかから始まっていったんですけど、『ありきたりな言葉じゃなくて』なんじゃないかな? と提案をして、みんなで話し合ったところ、それに決まりました。そして、すごく疲れたなみたいな時に、「もうなんか本当に脳みそねじ切れそうだわ」と思っていたのがセリフになったんです。

——映画の前半に、言葉を置き換える場面が描かれているじゃないですか。やっぱり渡邉監督自身も、どのように、どの言葉をもって、人に接していくかと以前から考えていらっしゃったからなのですか?

『ありきたりな言葉じゃなくて』は、変な言葉を使うっていう意味ではなくて、杓子定規にはめないっていう意味の方が強くて。正しい言葉を探したいっていう感じなんですよね。テレビ番組で人物を取材した際に、ナレーションを書く時に、過剰に謳ってもなんか嫌だし、間違った方向付けしても嫌だし。作り手って、うっかりそうしがちじゃないですか? 盛っちゃう方向に。これ語ってるから大丈夫だよって。「それでいいのかな?」みたいな話もなんか最近はあって。なので言葉に関しては慎重になりますね。

——本当に言葉って、ものすごくちょっとしたことで伝わり方が変わってしまったりとか、人生だと何らかの問題が起こってしまったりとか。そこも重要なテーマですよね。

その解釈の仕方、正しいと思います。

——時には、人から誤解されることもあり、私が誤解を伝えてしまうこともあって…。この言葉、心に刺さってきます。

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作品のテーマがさらに深く広がるメディアミックスも!

——最後にありきたりでない言葉で本作をアピールしていただけないでしょうか?

ありきたりでない言葉で、ですよね。実は、小説版を書いたんです。やはり『ありきたりな言葉じゃなくて』とタイトルにある小説ってめちゃめちゃハードル高いな、みたいな感じはあったんですけど(笑)。拓也のパーソナリティって、男女関係なく、いつも誰しも心の中に拓也を飼っているって感じはしてるんですね。やっぱり、誰が見てもわかるってところが拓也という人間にある気がしていて。そういう意味で、素直な気持ちでこの作品の脚本と監督を僕は務めたので、皆さんにも素直に感じ取っていただきたいなと願っています。

——もう一つちょっと意地悪な質問なんですけど、なんか私的には尺が短いと。これ外伝とかもっと入れていかないと、監督の気が収まらなかったんじゃないのかなと思っていて。すごい断腸の思いでカットした場面がいっぱいあったんじゃないかなと思ってるんですよ。

おお~っ! 最初2時間半ぐらいあったんですよね。で、そこから編集していく作業だったんですけど、シーン全体をバッサリと落としているとかが結構あるんですね。ミスリードさせないように余分なシーンを切っていく。説明過多にならないように切っていき、1時間45分という結果になったので、どちらかと言うと「なんか、あぁ、もうこれ切んないといけないのか」みたいなことは意外となかったんです。

——でも外伝というか、それぞれのキャラクターの視点の物語を作れますよね。

あの~っ、実は小説版は4人の視点で進めています。それができるなと思って。4人の視点でリレー形式的に話が進んでいくように書きました。ちょっと映画にないエピソードやバックストーリーが入っていたり。

——それは感謝です! 監督から私たちへの最高のプレゼントですね! いつ発売なのですか?

11月25日に幻冬舎から発売されます!

—— 小説版も、ぜひ、皆さま、お手に取ってお楽しみください!(このインタビューは小説版発売日前に敢行しました)

 

プロフィール

渡邉 崇/わたなべたかし

早稲田大学卒業後、2004年にテレビ朝日映像に入社。『ワイド!スクランブル』(テレビ朝日)にて事件、事故、政治など報道分野のニュース取材、人物ドキュメントの特集コーナーを経験後、『ザ・インタビュー』(BS朝日)を担当。監督として手がけた番組、Jリーグ・ジェフユナイテッド市原・千葉の設立30周年ドキュメンタリーがU-NEXTで配信中。

『ありきたりな言葉じゃなくて』

脚本・監督:渡邉 崇

出演:前原 滉、小西桜子、内田 慈、奥野瑛太、他

2024年12月20日(金)公開

上映時間:105分

配給:ラビットハウス

©︎2024テレビ朝日映像