【コラム】レッドブルのローソン起用人事に納得できる理由はあるのか? 希望的観測と角田裕毅への評価

 レッドブル・レーシングは12月19日(木)、2025年シーズンのF1にマックス・フェルスタッペンとリアム・ローソンというコンビで挑むことを発表した。

 レッドブル首脳陣がこの結論に至った経緯はある程度説明できる。チーム代表のクリスチャン・ホーナーと、モータースポーツアドバイザーのヘルムート・マルコがこの1年半、チームのドライバーラインアップに関して必ずしも正しい決断を下してきたとは言えないかもしれないが、少なくともセルジオ・ペレスに代わってローソンを起用せざる得なくなった経緯にはある程度の論理性を見出すことができる。

 ローソンをリザーブドライバーとしてベンチに置いたまま、ダニエル・リカルドを呼び戻し、姉妹チームであるRBで再昇格を見越したオーディションを受けさせたのは間違いだった。そう言うのは、今となっては簡単なことだ。

 しかし全てが思惑通りに進んでいたら、どんな物語になっていただろうか。ホーナー代表がリカルドのファンであることは周知の事実であり、少々情に流されたのかもしれない。

 ただ、あり得たかもしれないこの物語を愛さない人はいないだろう。F1パドックで最も人気のあるドライバーのひとりが、ルノーとマクラーレンでの苦難の数年を経て、レッドブル・ファミリーに戻ってきたのだ。ほとんどが抗いがたい、あるいは少なくとも試してみる価値があると思ったかもしれない。

 ペレスとの契約延長が大失敗であったことは、今や明らかだ。しかし、その決断もある意味では十分に理解できる決断だった。

 2024年のシーズン開幕当初、ペレスはレッドブルが必要としていた理想的なセカンドドライバーだった。表彰台を獲得し、コンストラクターズチャンピオンシップのポイントを重ね、フェルスタッペンの邪魔をしない良いチームプレイヤーだった。

 2024年初頭、ペレスはまさにパーフェクトだった。少なくとも、その頃にはチームメイトに挑戦することはできないだろうと受け入れているようだった。ペレスの母国メキシコで数十万というグッズを買い占める熱狂的なファン、獲得スポンサーも大きなプラス要因となった。

 仮にペレスがシーズン開幕時のような安定した走りを続けていたのなら、レッドブルがカルロス・サインツJr.を再び陣営に引き戻す必要があるとは誰も考えなかっただろう。

 結局のところ、2015年から2016年はじめにかけてトロロッソ(現RB)でサインツJr.陣営とフェルスタッペン陣営の間でどれだけ関係が悪化していたかということを話半分で受け入れるとしても、そのリスクは見返りに釣り合わないだろう。

リカルド、ペレスへの期待は無に帰した

 確かに、レッドブルがペレスと契約延長を決めた時、既に調子を落とし始めていた。しかし、それは単なる“一時的なモノ”として片付けられたかもしれない。

 ペレスはシーズン序盤、エミリア・ロマーニャGPの不本意な週末とモナコGPのクラッシュで躓いただけだった。悪い週末がゼロのドライバーなどいるだろうか? モナコで1度もクラッシュしたことのないドライバーなどいるのだろうか? ホーナー代表とマルコとしては、ペレスが全てを跳ね除けるという展開は、あまりにも魅力的なことだったのだろう。その上、新たな契約によってペレスの自信を取り戻したかったのだろう。

 サマーブレイク以降もペレスをチームに留めるという決断は説明が難しい。しかし2024年のF1カレンダーには、アゼルバイジャンGPやシンガポールGPなど、ペレスが過去に得意としたサーキットが残っていたのも事実だ。ペレスの復調を期待したレッドブルを責めるのは間違ったことだろうか?

 しかし、これこそ決断が全て間違っていると思われる理由だ。ほとんど裏付けがないまま、純粋な希望的観測で下されたモノだとしか思えない。

 レッドブル陣営は、リカルドがマクラーレンで過ごした2年間が衰えの証拠ではないことを願った。2022年の終わりには、リカルドをシートから降ろすために多額の違約金を支払ったマクラーレンのザク・ブラウンCEOを責める者はほとんどいなかったほど、状況は悪化していたのに、だ。

 もちろん、レッドブル陣営がリカルドのカムバックを画策したシルバーストンのテストでは、魔法のようなラップを見せた。Netflixにとっては素晴らしいことだが、リカルドがかつての姿に戻ったと信じるには十分な理由にはならなかった。

 レッドブル陣営は2023年、メキシコシティGPを除き、称賛に値する出来事がほぼなかったにもかかわらず、リカルドに期待し続けた。そしてホーナー代表は2024年の開幕時点で何も変わっていないのにもかかわらず、奇跡を期待していた。マルコが見切りをつけていたのにもかかわらず、ドライバーに時間を与えていたのだ。

 ペレスの契約延長を正当化することも難しい。2022年と2023年にも同じようなことが起きているのに、どうしてペレスの“一時的な不調”が数ヵ月も続かないと望んだのだろうか? 少なくともレッドブル陣営は様子を見ていた。

 そして今回、レッドブル・レーシングはF1出場たった11回という若手ローソンを起用。ホーナー代表自身が「F1で最もタフな仕事」と語るフェルスタッペンのチームメイトを託すことになった。この1年半で下された決断の中で、おそらく最も説明が難しい。

ローソン起用の合理性と角田裕毅への評価

 ローソンがレッドブル・レーシングのシートを手にすることになった、陣営の計算違いや賭けの失敗といった経緯を全て無視すると、今回の人事に合理性を見出すのはほとんど不可能だ。

 おさらいしてみよう。過去4年間でF1タイトルを6つ獲得したレッドブル・レーシングが、F1出走11回というドライバーと契約した。そのドライバーのF1での最高成績は9位で、主要ジュニアカテゴリーでのタイトル獲得経験はない。また、2024年は6回の予選のうち6回でチームメイトの後塵を拝し、コンビを組んだ期間ではポイント獲得数も少ないのだ。

 考えてみてほしい。1年前、ローソンはレッドブル陣営からRB入りをオファーされるほどの実力はなかったのだ。そして今、6戦のレース経験を重ね、メインチーム昇格に十分な実力を身に着けたと判断されたのだ。

 ローソンは学習能力が高いと言われている。ここ数年、彼は様々なマシンを乗り継いできたが、常に素早く適応し、レースを制してきた。それは事実だ。しかしレース勝利はタイトル獲得とは違う。しかも、グリッド上で最高のチームのひとつでレースをするという話だ。

 F1のトップレベルでは、ただ早く最大限の力を発揮することが重要なのではなく、最大限の力が並外れて高いことが重要なのだ。しかしローソンの実力がどの程度なのかには疑問符が残る。何しろ、2年連続で同じマシンをドライブしたのはFIA F2が最後。最初のシーズンでドライバーズランキング9位、2年目でランキング3位という成績は、必ずしも“トップドライバーの素質”があるとは言えない。

 たとえローソンの学習能力が高いとしても、チームメイトの角田裕毅をすぐに上回ることができたわけではない。それもグッドニュースとは言えない。

 レッドブル陣営が角田の昇格に消極的な理由があるのは明らかだ。ひとつひとつ見てみると、理由も説明できる。バーレーンGPのクールダウンラップで採った行動だけでも、ホーナー代表とマルコが敬遠するには十分だったと言えるかもしれない。また、角田を起用しない理由リストに、ポイント圏内走行中にスピンを喫したカナダGPや、メキシコシティGP予選Q2でのクラッシュなどの致命的なミスを加えることができる。

 それらは依然として、時効にはなっていない。しかし残酷なようだが、レッドブル陣営は検討していないドライバーよりも遅いドライバーに落ち着いたという事実も無視できない。

 チームメイトに打ち勝つまで数レースでは足らないというドライバーを、学習能力が高いと言えるだろうか? そうしたポテンシャルを示したことがないのに、どうしてトップチームに相応しいと言えるのだろうか? たとえ、そのための時間がなかったとしてもだ。どちらの主張も、それを裏付ける十分な証拠がないのだ。

プレッシャーへの対処能力

 そしてローソンのプレッシャーへの対処能力についてだ。レッドブル陣営が姉妹チームのマシンに乗せた2スティントとも、ローソンは堅実なパフォーマンスを見せ、大きなクラッシュもなく、いくつかのポイントを獲得した。

 実際、ローソンは経験豊富なチームメイトに迫り、時にはそれよりも速いタイムを出していた。こうしたパフォーマンスがなければ、レッドブル・レーシングのシート争いに加わることさえなかっただろう。少なくとも、安定感があるように見える。

 しかし、それは姉妹チームでの短い期間での話。ローソンに失うモノは何もなかった。

 シーズン途中から加わったドライバーに奇跡を期待する者はいない。そのため、悪コンディションとなった2023年のオランダGPのレースを完走したり、今年のアメリカGPでポイントを獲得したりするだけでも、期待以上の結果と見なされた。

 しかしレッドブル・レーシングでの期待値はもっと高くなる。その時こそ、ローソンのプレッシャー対応力が試されるのだ。

 予選で満足のいくラップを刻んでガレージに帰ったら、フェルスタッペンがそれよりも0.4秒千切っていたという感覚をローソンはまだ経験していない。それは遅かれ早かれ、そして定期的に起こることだ。

 ローソンはある時点で、フェルスタッペンの速さを受け入れるか、セットアップで0.4秒を削ろうとするか、どちらを採っても難しい選択を迫られることになる。それがいかに愉快なモノか、経験者のピエール・ガスリーに訊いてみてほしい。

 ローソンもミスをするだろう。トロロッソ/アルファタウリを率いたフランツ・トスト元代表は、どんなドライバーにも“クラッシュ期間”があるとよく言っていた。フェルスタッペンもそうだった。仮にローソンの“クラッシュ期間”がすぐにやってくるとすれば、グリッド最速マシンのひとつでのこと。当然、多くの衆目が集まる。

 ペレスは経験豊富なドライバーであるにもかかわらず、負のスパイラルに陥ることを避けられなかった。ガスリーもアレクサンダー・アルボンも逃れられなかった。

 そしてメディアは待ってくれない。全てのミスの後には記事が出る。ご意見番ジャック・ビルヌーブの小言もある。それらを全て受け流すこともできるが、ビルヌーブの口から出る意見が、みんなの心の中にも少なからずあるということも分かってしまうのだろう。

 ローソンにとっては、全く別次元のプレッシャーになる。最大の問題は、今のローソンを信頼するあまり、レッドブル陣営が下積みを経て強くなった別の世界線のローソンを失うリスクだ。トップチームからのオファーを断るドライバーはいないだろう。そしてローソンに迷いがあったはずもない。

 しかし、ダニール・クビアトやガスリー、アルボンのように、ローソンも倒れてしまったら? そしていつか本当にレッドブル・レーシングのトップドライバーになれるポテンシャルを持ちながら、成長や学びの時間が与えられなかったら? 今、食いつぶすリスクは理にかなったモノなのだろうか?

 レッドブル首脳陣が角田をトップドライバーとして見ていないとしても、1年間マシンに乗せることにほとんど問題はない。角田が倒れても、首脳陣は元々輝けるとは思っていないのだから……しかしレッドブル陣営がポテンシャルを高く評価するローソンにもう1年、F1の基礎を学ばせるのは当然のことだったはずだ。

 それなのに、レッドブル首脳陣はローソンをあのシートに据えた。角田よりも速く、安定した走りができるという明確な証拠もない。トップを走るマシンに対応できるという保証もない。そしてポテンシャルを裏付ける確かな論拠もない。

 しかし希望があるのなら、そんなモノは必要ないのかもしれない……。