2019年公開のフルCG作品『ライオン・キング』は「超実写版」と銘打たれるほどのリアルで美しい映像が話題となりましたが、一方で「不気味の谷」の問題を訴える方も続出しました。それはなぜなのでしょうか。



2019年版『ライオン・キング』場面カット (C)2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

【画像】え…っ?超リアルになったとはいえ、やっぱカワイイ…かな こちらが実写版の「シンバ&ティモン&プンバァ」です

リアルな映像でより「弱肉強食」に思えてしまう問題も

 2019年に公開された映画『ライオン・キング』はフルCGの作品ながら草原や岩場や木の葉、はたまた動物の毛の1本1本までリアルに再現した、「超実写版」と銘打たれるほどのリアルで美しい映像が大きな魅力となっていました。

 しかし、同時に本作の各場面に関して、「不気味の谷」を感じる人も続出していたようです。その理由を解説しましょう。

セリフに合わせて動物の口元が動く違和感

「不気味の谷」は、もともと人間に近い見た目や動作をするロボットに対しての言葉ですが、CGを用いた映像作品にも転用されており、今回の『ライオン・キング』では「見た目では現実にいるリアルな動物だからこその不気味さを感じてしまう」という現象が起きていました。

 不気味さの理由の筆頭は、「セリフに合わせて動物の口元が動く」ことでしょう。「動物が人間っぽいしゃべり方をしようとしている」動きそのものに違和感を感じてしまうのは致し方ないですし、さらに動物の口の構造は人間の口と異なるおかげで完全には「リップシンク」もできないため、結果としては中途半端な印象を持つ、もしくは「ネイチャードキュメンタリーの映像に人間がアテレコしているようだ」と思う人もいます。

 しかも、ディズニー映画であるがゆえに、「日常の延長で突然歌い出したり踊ったりする」ミュージカルという、さらなる不自然な要素も付け加わっています。

 1994年公開の元の2Dのアニメ版では、コミカルでデフォルメが効いたキャラ造形のおかげもあって、動物が人間と同じようにしゃべることはもちろん、歌って踊ることも含めて許容できるラインが低くかったのですが、今回のように見た目がリアルになると、動物がしゃべったり歌ったりする映像作品としてのウソをかえって許容しにくくなってしまう、という状態になってしまっているのです。

 他にも、ある程度の変化はつけているものの喜怒哀楽の表情が見えづらかったり、メスライオンのキャラクターの見分けがつきづらかったり、ミュージカルシーンが地味に見えてしまうという意見も散見されました。リアルな動物を再現したCGと、いい意味でオーバーな表現が可能な2Dのアニメはとそもそも比べるものではない、致し方のないポイントともいえますが、元のアニメ版に親しんでいた人ほど違和感を覚えてしまうかもしれません。

リアルだからこそ世界の残酷さが際立ってしまう問題も?

 また、実写と見紛うほどの映像になったことにより、コミカルさが前面に出た2Dのアニメ版よりも、良くも悪くも世界の残酷さが際立ってしまっていると思います。

 たとえば、劇中では「サークル・オブ・ライフ」の楽曲の「生命(いのち)は巡る」にある通りの世界の美しさやあり方を肯定しており、「アンテロープを食べるライオンもまた死んで土に帰り、その土からは草をアンテロープが食べる」という「生命の環」の具体例も示されていました。

 しかし、その場所はやはりライオンが生態系の頂点にいる「弱肉強食」の世界なわけで、ここまでリアルな世界観でそう言われると、為政者が聞こえの良い言葉を並べて本質的な残酷さをごまかしているような印象も持ってしまいます。

 しかも、作品内では「動物同士で意思疎通ができる」のです。言葉によるコミュニケーションを経ても弱肉強食のルールが敷かれ続け、食べられる、食べる者が選別されており、食べられる側の動物たちが新たなライオンの王の誕生を祝いに集まってくるというおなじみの場面も、やはりリアルな映像だからこそより残酷にも見えてきます。

 さらに、『ライオン・キング』は高貴な生まれの主人公が、各地をさまよい試練を克服して故郷に戻る、典型的な「貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)」です。その王道の物語ももちろん魅力ではあるのですが、次の世代が権威を受け継いでいく「血統主義」「世襲制」を肯定しすぎている印象もあります。



新作『ライオン・キング ムファサ』ポスタービジュアル (C)2024 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

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『ムファサ』はどうなる?

リメイクでバランスを取ったポイントも

 とはいえ、劇中ではミーアキャットの「ティモン」が、「肉食獣と一緒にいると落ち着かないんだ」「それは生命の環とはぜんぜん違う、ただの直線だ」という考えを語るシーンもあります。つまり、生命の環の価値観が絶対ではないことも示されており、それは「ハクナ・マタタ(くよくよするな)」という、彼らの価値観を相対的に際立たせる効果も生んでいます。

 また、主人公の「シンバ」が王位を継ぐかどうかよりも、彼自身のアイデンティティーを問う場面もありますし、父である「ムファサ」からの「手に入れることばかりを考えるな、まことの王は、与えることを考えるのだ」といった教えもあって、ただ受け継ぐことが王たる資格ではない、と示されるバランスにもなっています。現代にリメイクする際に違和感を覚えてしまうであろう要素は、作り手も十分に意識しているといえるでしょう。

 そもそも、前述してきた問題は人それぞれで感じ方が大きく異なり、「見ているうちに慣れた」「不気味の谷はとっくに超えて映像のすごさに圧倒された」という意見ももちろんあります。そもそもフルCGのみで「実写そのもの」と思える映像のスペクタクルを作り出したことは感嘆するしかありませんし、その試みをもって本作を称賛する人も多いでしょう。

 この超実写版の路線が合わない人は技術が進化してもとことん合わない、という可能性も高いですが、「もう慣れた」「不気味の谷のことを考えもしなかった」人にとっては、2024年12月20日より公開の『ライオン・キング:ムファサ』もきっと楽しく見られるでしょう。

 こちらは若き日のムファサ王と「スカー」の兄弟の絆を描く前日譚であり、映像のさらなる進化も期待できますし、批判されがちだった不気味の谷を超えるための工夫も込められているのかもしれません。予告を観る限りでも表情が前作より豊かに見えますが、果たしてどうなっているのでしょうか。