あるXアカウントが話題だ。「織広堂@岸和田型ミニだんじり製作」なるアカウントに投稿された、20分の1スケールで精巧に再現された岸和田型だんじりの1枚の写真に思わず息を飲む。驚くのは、それを製作しているのが小学6年生であるという点だ。
なお織広堂とは、大阪府岸和田市で生まれ育った三田智也さんが興したミニチュア模型製作の屋号だ。件のだんじりは三田さんの息子が初めて製作した作品で、ミニチュア極小技巧展2025への出展も決まっている。話題の三田さん親子に話を聞いた。
才能に気づいたきっかけは、“ガンプラ”
細部まで極めて忠実に表現しており、玄人はだしとはこのことだ。さぞ製作には時間がかかったのではないか。
「息子は普段小学校へ通っていて、習い事もしているので、製作に割けるのは平日の寝る前1時間程度と、休日の数時間だけです。今回のミニだんじりを製作するまでには、足掛け2年ほどかかりました」(父・三田智也さん、以下同)
智也さんが息子の才能に気づいたきっかけは、“ガンプラ”(ガンダムのプラモデル)だった。
「息子は小学校1年生のとき、機動戦士ガンダムシリーズのUC(ユニコーンガンダム)のMG(マスターグレード)を上手に作りました。変形する仕様になっていて、可動式パーツもあるため、かなり複雑です。接続を間違えれば動かなくなってしまうので、大人でも製作は容易ではないと思います。
息子が説明書を読んできちんと自分で考えながら作っている姿を見て、『もしかすると工作の才能があるのではないか』と思ったのが最初です」
その後、智也さんは誕生日やクリスマスなどのお祝いとして、小学生には高額と思われるプラモデルも本人が「欲しい」と言えば買い与えた。そして息子もまた、最後まで自力で作り上げたという。
「8歳くらいのとき、LEGOの『レゴテクニック』というシリーズのなかから、1〜2万円するポルシェやフェラーリのLEGOを買いました。9歳のときはブガッティ・シロンをプレゼントしました。かなり難易度も高く、約5万円と値段も張るおもちゃでしたが(笑)」
智也さんがミニだんじりの製作を息子に勧めるのは、至極自然な流れだったというわけだ。
「私は地元が岸和田市であることもあり、昔からだんじり祭りが好きです。家族でだんじり祭りに参加したり、また自身もミニチュア製作を行ったりしていました。私が息子に製作を勧めたとき、彼は現在ほどだんじりに興味はありませんでした。
けれども、だんだん形になるにしたがって、だんじり祭りそのものにも興味が出てきたように思います」
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「ホームセンターや材木店で木を選ぶ作業からやった」
ミニだんじりを完成させた、智也さんの息子にも話を聞いた。
――だんじり祭りを初めて見たとき、どう思いましたか?
三田くん(以下同) とにかく迫力がすごくて、熱量にも圧倒されました。毎年お父さんと一緒にだんじりを曳くのが楽しみです。
――お父さんから「ミニチュアのだんじりを作ってみないか?」と誘われたとき、どう感じましたか?
難しそうだと感じました。特に垂木の部分や枡組、旗などの細かなパーツは、実際に作ってみても難しかったです。これまでプラモデルをいくつか完成させてきましたが、今回は説明書がないので、自分で考える余地が多くてやりがいがありました。
また、ホームセンターや材木店でヒノキの木を選ぶ作業からやったので、そこもプラモデルとは違うところでした。
――「実際にミニだんじりを作ろう」と思って見るだんじり祭りは、どんなところに注目しましたか?
やはり難しそうなパーツがどうなっているか、きちんと実物を見たいと思って参加しました。今回は大手町のだんじりを製作しましたが、次は他のだんじりに挑戦したいと思っています。
――小学校の図工の時間はそのスキルの高さから注目されるのではないですか?
小学校の図工の時間にガンプラを製作する授業があるのですが、それはかなり早く作り終えてしまいました。日頃から作っているので、できたのだと思います。
ただ、今回SNSで注目してもらったことは友だちに言っていないので、きっとみんな知らないと思います(笑)。
※
彼の奥ゆかしく、自身の持つ高い技術を誇らない謙虚な姿勢が伝わってくる。
そんな才能を育てた智也さんには、一貫した教育方針があるという。
「子どもが興味を持ったものを見逃さずに、それに必要な道具を身近に置いておくことを心がけています。親は環境を整えるだけで、絶対に無理に引きずってやらせようとはしません。
子どもなのでモチベーションが低いことも当然あります。そんなときは『やらへんの?』とだけ意志確認をして、それ以上は深入りしません。強要すれば子どもは嫌になってしまい、せっかく楽しみながらセンスを磨いていこうとしているのに水を差すことになるからです」(三田智也さん)
智也さんはインタビューの最後、「ミニだんじりを通じて、彫刻の細やかさ、屋根周りのボリューム、形のきれいさ――といった、だんじりそのものの豪華絢爛な魅力を発信したい」と話した。
だんじり祭り自体の知名度は全国に轟くが、だんじり自体の彫刻物としての造形美に思いを馳せる人は少ない。三田さん親子はミニチュアを武器に、巨大な挑戦に乗り出す。
取材・文/黒島暁生 写真/三田智也 提供