NHKの大河ドラマ「光る君へ」が、12月15日放送の最終回「物語の先に」でついに完結した。戦国時代や幕末を舞台にした大河ドラマと異なり、戦がほぼ描かれなかった本作は、病気や天寿の全う以外での死者が少なく、1年を通して活躍する人物が多かったのが特徴だ。そして「源氏物語」という一大長編文学を残した主人公のまひろ/紫式部(吉高由里子)だけでなく、その多くが長い人生において何らかの成果を手にしていた。

 例えば、まひろや倫子(黒木華)の学問の師だった赤染衛門(凰稀かなめ)。まひろが「源氏物語」を書き始めたのは人生の半ばを過ぎてからだが、赤染衛門はそれよりもさらに遅く、倫子の依頼を受けて「栄華物語」を執筆。そしてこの回、倫子から「あなたは私の誇りだわ」とたたえられることとなった。

 あるいは、自らの過ちが家の没落を招いた藤原隆家(竜星涼)。隆家は、ライバルの藤原道長(柄本佑)を呪いながら死んでいった兄・藤原伊周(三浦翔平)と異なり、道長に仕え、“刀伊の入寇”で賊を撃退する活躍を見せた。最終回では、道長が病で伏せていることをまひろに伝えた際、「俺は偉くならなくて、まことによかったと思う」「俺は先ごろ、中納言も返上した。内裏のむなしい話し合いなぞに出ずともよくなっただけでも、清々した」とすっきりした表情。

 父の失脚による家の没落から始まり、辛酸をなめた道長のもう一人の妻・明子(瀧内公美)も、一時は息子たちの出世について道長ともめたものの、最終的には地位を得て、穏やかな表情で最終回を迎えていた。

 また、道長の異母兄・藤原道綱(上地雄輔)はこの回、道長に「俺、大臣になれないかな? 一度、大臣やりたかったんだよ。だって、25年も大納言やっておったゆえ」と懇願したものの、「25年、大納言であったということは、大臣なぞしょせん、無理だという証」とあっさり却下。愛すべきボンクラぶりは、最後まで変わらなかった。とはいえ、それほど長く大納言の地位にとどまれたのは、道綱が長生きした結果でもある。

 一時は険悪だったまひろとききょう/清少納言(ファーストサマーウイカ)の仲も、時を経て修復。年を取った2人が仲良くほほ笑む姿には、ほっとさせられた。

 その一方で、まひろの従者・乙丸(矢部太郎)や認知症を発症したと思われるいと(信川清順)のような人々は、一見これといった成果を手にしていないように思えるかもしれない。だが、「どこまでもお供しとうございます」と最後までまひろのそばにい続けた乙丸や、住み慣れた為時(岸谷五朗)の屋敷で穏やかな晩年を迎えたいとも、それぞれの望む人生を手に入れることができた。

 これらはいずれも、時につらい思いをしながらも、人生を全うしたからこそつかむことができたものだ。そして彼らはみな、生き切ったと言わんばかりの清々しい表情をしていた。それぞれの登場人物たちが次々と姿を見せる最終回は、さながらカーテンコールのようだった。

 そのクライマックスとなったのが、まひろと道長の別れだ。自分の死期を悟った道長から、「この世は、何も変わっていない。俺は一体、何をやってきたのであろうか」と問われたまひろは、次のように答える。

 「戦のない、太平の世を守られました。見事なご治世でありました。それに、源氏の物語は、あなた様なしでは生まれませんでした」

 まひろの「源氏物語」も含め、それぞれの登場人物たちが手にした人生の成果は、道長が太平の世を守ったからこそ得られたともいえる。だが、その道長はもういない。道長亡き後、旅に出たまひろは再会した双寿丸(伊藤健太郎)から「東国で戦が始まった」と聞くと、「道長さま、嵐が来るわ」と呟き、力強い決意のまなざしで真っすぐに歩き出す。道長が守った太平の世の後に訪れる波乱の時代を生き抜こうとする覚悟がうかがえる最後の姿だった。同時にそれは、混迷する今の時代を生きる私たちに向けたメッセージでもあったように思う。

 生き抜くことで、得られるものはある。

 劇中では、コロナ禍を思わせる疫病の蔓延なども描かれたが、「光る君へ」は、現代にも通じる「生き抜くことの尊さ」を描いた物語だったのではないだろうか。

(井上健一)