Xの通知欄にときどき現れる、謎のアカウント。アイコンはさまざまですが、基本シンプル。アカウント名は、かつては「公式」でしたが、最近では記号だったり、絵文字だったり細かく変化しています。
そのアカウントが気になってプロフィール欄をのぞいてみると……「このアカウントからいいねされた人は景品GET(キャンペーン)へ」という記載が。
お!やった!何か貰える!と喜びそうになりますが、実はこれ、すぐに何か貰えるわけではありません。
XなどSNSのアカウントからLINEや特設ページ(LP)に誘導され、与えられたタスクをこなさなければプレゼントやお金が貰えないという仕組み。
しかもこなすタスクは、「月額制有料サイトに加入すること」。プレゼントが貰えるまでに必要な登録サイト数は約38サイト……!
月額制とはいえ、初月無料になっているので、期間内に退会すればいいわけですが、さすがにこの数ですから、登録サイトを忘れてしまったなどの“退会忘れ”で、お金をもらうどころかむしろ支払うことに……。
実はこの手口、昨年にも一度『「当選詐欺」に応募すると何が起きる!?釣られてみた』という記事で紹介していますが、時間が約1年とたったことから、再び潜入して流れを詳しく見ていきます。
■ 「いいね」された人だけが景品もらえる……?
まずは編集部のポストについたイイネの中から、対象となる謎アカウントをさがします。探すこと10秒、サクッとみつかりました。
プロフィール画面には「このアカウントからいいねされた人は景品GET(キャンペーン)へ」と書かれています。フォローもフォロワーも0。怪しさしかありません。
プロフィール画面の文章には続きがあり「詳細はメインアカウントにて!」とのこと。メインアカウントのIDも記されています。
いや最初からメインアカウントでいいねせんかい!という野暮なツッコミは飲み込んで、メインアカウントに飛びます。
メインアカウントはいいねをしてきたサブアカと似たような色合いのアイコンですが、描かれているものが違います。また名前も変わっています。
プロフィール欄には「GET手続きはLINEから」という文言とともにURLが記載されています。ここからLINEのアカウントを友だち追加してやり取りをしていくのでしょう。
勧誘役を担った発端のサブアカウントには「いいねされた方のみ媒体利用可」と書かれていたのですが、別にメインアカウントのプロフィール欄のリンクを踏めば、誰でも該当ページにたどり着けます。特別感を出そうとしている感じ、ますます怪しいですね。
リンクをクリックした先は「キャンペーン企画」というLINEアカウントです。バッジは企業や団体、店舗などが使用できる「公式バッジ」になっていますが、色は非認証のグレー。誰でも作れるものになっています。
ただLINEの仕様に詳しくない方の場合には、一瞬「公式だから安心」と思ってしまうかもしれません。そうした場合に備えて、LINE側でも対策が施されています。アカウント追加後に、「このアカウントは未承認アカウントです」と表示された場合は特に警戒してください。
さて、潜入を続行します。今回の「キャンペーン企画」アカウントを友だち追加すると、「タップして詳細を確認する」というバナーリンクが送られてきます。
リンクをクリックすると「限定ページ」なるページに遷移。ページには大きく「当ページよりギフト10000円分のGET手続きをしていただけます。ギフトはPayPay,Amazon,Apple,GooglePlay 現金(銀行振込)から選べます」と書かれています。
ただその下には「残り在庫少なくなってきました」の文字。在、庫……?ポイントや現金なのに、在庫という概念がある……?
さらに下に進むと具体的な「GET」方法が書かれています。どうやら指定のページに飛んで登録すると5000ポイント、登録後に初回キャンペーンに参加するとさらに追加でポイントがもらえ、1万円分のポイントが貯まると、1万円分のギフトと交換できると記されています。
説明の下には「もらえました!」「受け取りました」といったキャンペーン参加者の喜びの声が掲載されているのですが、こういうのを見るたびに筆者は「その報告を掲載することに意味あるのか……?」と思います。
担保されるべき最低限の結果だけをことさらに主張するのは、かえってそのキャンペーンへの不信感を募らせるだけでは、と。
■ 会員登録するだけで5000ポイント!飛ばされる先は実体不明なポイントサイト「マイル」
ごちゃごちゃ書いても始まらないので先に進みます。次は「簡単30秒で無料登録」と表示されたページに飛ばされました。ここからLINEで連携して会員登録をするようです。
「LINEではじめる/ログイン」のボタンをタップすると「マイル」というポイントサイトのLINEアカウントの認証許可を求められます。
こちらのポイントサイト、Googleで検索をかけてもそれらしきものはヒットしません。またサジェストには「嘘」や「怪しい」といったワードが並んでいました。
「許可する」を選ぶと会員情報を登録するページに飛ばされます。ニックネームや生年月日などを適当に入力して登録します。
登録するとまず「登録完了」の文言とともに5000ポイントを獲得したことが知らされます。
その後、ページ下部にあるサイト一覧から好きなサイトを「2つ」あるいは「1つ」登録することで追加の5000ポイントが得られるもよう。そして獲得ポイントが1万ポイントになったら「クリア報告」ボタンから報告しなければならないようです。
ここだけ読むと、「1万ポイント貯まると1万円貰えるのかな?」「楽勝じゃん」と思いそうになりますが、ハイこれはトラップです。去年に履修済みですので、去年と同じく利用規約を確認していきます。
ページの一番下までスクロールしていくと……。ありました。キャンペーン賞品の受け取り条件が。
問題箇所について分かりやすく説明すると次の通り。
- - - - -
・レートは10ポイント(pt)=1円
・1万ポイント(千円分)が貯まると、マイページで10万ポイント(1万円分)まで貯められるようになる。
・マイページには1万ポイント獲得後に移動できる。
・ポイント交換は10万ポイント(1万円分)以上で可能。
- - - - -
規約をよく読まなければ、1万ポイント=1万円分と勘違いする人はかなり多そうです。そして1万ポイント貯まったら「クリア報告」から報告するという部分ですが、これは単に「マイページ」が開放されるだけ。
さらに驚きなのが、このサイト経由で得られるポイント数は1サイト2500ポイントか、5000ポイント(該当は2サイトのみ)。au、docomo、SoftBankの大手3社は2500ポイントのサイトしか選べません。
よって該当3社のユーザーが1万円貰えるまでに必要なポイント数は、初回登録時の5000ポイントを引いて、9万5000ポイント。2500ポイント×38サイト=9万5000ポイントとなるので、38サイトも登録しなければいけません。
マイページに移動したらもっと高額なサイトがあるのかもしれませんが、逆に報酬が安価なサイトばかりになる可能性も……そうなると、登録に必要なサイト数はさらに増えることになります。怖っ。
次に、登録するサイト側(以下、サブスクサイト)についての情報も細かくみていきましょう。いずれも月額有料制(サブスク)ばかりです。
サブスクサイトに登録して得られるポイント数は、「月額550円なら2500ポイント」。そして誘導先いずれも、「初月無料」となっています。
初月無料ならば、期間内に退会すればいいわけですから、「たとえ1サイト2500ポイント(250円分)しか得られないとしても、ノーリスクじゃないか」と思いそうになりますが、ハイ、これもトラップです。
誘導された登録サイト側の規約や、Q&Aあたりを確認してみましょう。よくみていくと、ありました。複数のサイトで、会員登録時のページの下には、こう記されています。
「※広告サイト経由でご登録いただく場合、登録後の即日退会は広告サイトの登録インセンティブが付与されない場合があります」
そう、「忘れないうちに退会しよう」がしづらいのです。また、この加入方法のめんどくさいところが、「決済手続きをすませる」ことが、「会員登録手続き扱い」になっている点。
これの何が問題かというと、メールアドレスや個人情報を登録しての会員登録ではないため、登録できたとしてもサブスクサイト側からその後通知がこないこと。来たとしても、キャリアやカード会社からの決済完了メールです。
つまり、自分でしっかり覚えておくか記録しておかなければ、退会忘れをしやすい仕組みになっています。
即退会なんかされたら、仲介したポイントサイトにも、ポイントサイトにインセンティブを支払っているであろうサブスクサイト側にも何らメリットはありません。退会させたくない、というのは当然といえば当然です。とにかく退会させない工夫が凝らされています。
ただ……お金をもらうためにここまで来た人で、そうしたトラップに気づける人は何人くらいいるのでしょうか。恐らく気づかない人が大半ではないかと。
■ 実際に登録可能なサイトをのぞいてみたら……随所に杜撰さが垣間見えた
次に、サブスクサイトのサービス自体も詳しくみていきましょう。月額250円も550円も払う価値はあるのか?
一覧はau、docomo、SoftBank、その他の四つのカテゴリーに分かれており、使用しているキャリアによって推奨されているサイトが異なっています。
筆者は「その他」に該当するので、「その他」のカテゴリー内にある2種類のサイトの中から音楽系のサイトを選びます。
遷移したのは音楽配信サイト。凝った雰囲気ですが、なんとなくダサさが拭えないデザインです。配信楽曲についても「最新HIT曲」に60年代の曲が表示されているなど、杜撰さを感じます。そして楽曲を聞こうとすると「当サイトをご利用するにはログインをしていただく必要がございます」との文章が。
トップページに戻り、「会員登録はこちら」というピンク色のバナーをタップすると、クレジットカード情報の入力を求めるページに飛びます。怪しさしかないので、もちろん入力はしません。
「マイル」のポイントページに戻り、今度は別のキャリアユーザー向けのサイトの中から1つ選びます。auユーザー向けのサイト一覧にあったクイズ系のサイトを選んでみました。
こちらのサイトは先ほどの音楽系と比較すると、少し洗練されている印象。また、アニメクイズの内容がかなり上級者向けなのがすごく気になりました。この手のサイトにしては作問にコストをかけすぎなのでは。
怪しく思って問題文の1つ「アニメ『進撃の巨人』で姿勢制御の試験において、エレンとベルトの交換をしたのは誰?」をそっくりそのままGoogle検索にかけてみると、「姿勢制御の試験において〜」以下が“まったく同じ”問題が、別の企業のサイトに掲載されているのが確認できました。
検索して出てきた方が企業としての運営実態がはっきりしているように見えるので、マイルから紹介されたサブスクサイトのほうが正式な手続きを踏まずに利用している可能性がありそうです。
クイズの答えやほかの問題を確認するためには会員登録が必要とのこと。登録ページに飛ぶと「auかんたん決済/auウォレット」のロゴが並んでいました。この下の「登録」ボタンをタップすると、au IDでのログインを促されます。
サイト自体が怪しいのに加え、筆者はau IDを持っていないのでログインはしませんが、会員登録=キャリア決済の手続きをさせようとしています。
1つ注意してほしいのが、登録ページから誘導されたau IDのログインページは「本物」であるという点です。何らかの方法で審査をかいくぐり、au側に認可されてしまっているのでしょう。「本物」だからといって安易に信用しすぎるのは危険です。
■ サービスはバラバラ、運営会社もバラバラ、でも共通点がある謎のサブスクサイト
各サブスクサイトの「特定商法の表記」の部分も見ていきます。どのサイトもきちんと、社名、住所、連絡先(電話番号・メールアドレス)が書かれており、サービスとしての体裁はしっかり整っています。
音楽系サイトの場合には、これに加えてサイト下部に「JASRAC許諾番号」「JRC認証番号」「e-license許諾番号」を掲載。「まっとうなサービス」である、という主張が感じられます。
一点気になるのが、テキスト全てにコピーガードがかけられていること。なぜかテキストをコピーできないようにしてありました。
また、PCから閲覧しようとすると、多くのサイトで「スマホ専用サイトです」と出て一切閲覧できないこと。あくまでスマホ用と割り切って運営しているのかもしれません。
念のために、これら記載がある企業が実在するのか、国税庁および日本年金機構のサイトで確認してみたところ、いくつかの企業は実在することが確認できました。(もちろん、社名と住所が一致しないなど、確認できない企業もありました)
ついでに、企業の活動実態についてネットで調べたところ、大手企業と提携したリリースが確認できた会社も。一方、やはりサイトから退会できないというトラブルに関する口コミも続々と登場。
Yahoo!知恵袋には、「ポイ活サイト経由で会員登録を行い、その後無料期間中に退会したものの、月額分が請求されて困っている、退会方法もわからない」といった相談が複数よせられていました。
まっとうなサービスを提供する一方で、利用者にとっては退会しにくいサイトも運営している……。謎が深まります。
最初に勧誘してきたSNSアカウントとはグルではないかもしれませんが、ただ……どうしても、これまでの流れをみるに、各サブスクサイトの運営者も怪しく思えてしまいます。
■ なぜか景品表示法だけは守ろうとしている
サブスクサイトをひと通り見たあとで、最初のXアカウント「【神企画】総実績500件突破」に戻り、どんな投稿をしているのかタイムラインをのぞいてみました。
すると出てくるのは景品GETを報告する投稿のリポストばかり。不思議なのが、リポストされている投稿に必ず「#PR」とつけられていること。景品表示法があるためでしょう。謎の律義さです。
ほかにも守るべきものがあるんじゃないか、と思わずにいられないのは筆者だけでしょうか。サブスクサイトにはしっかり企業情報が記載されていましたが、最初の勧誘アカウントから誘導されたポイントサイトやLINEアカウントなどには、企業情報が一切掲載されていませんでした。
ポイントサイト利用規約の「専属的合意管轄裁判所」もみてみましたが、「当サイトの本店所在地を管轄する地方裁判所~」とあるのみで、肝心な本店最寄りの地裁名が記されていませんでした。普通であればここに、○○地方裁判所としっかり名前が記されるはず。完全に身元を隠しています。
PRをつける以前に、最初の勧誘アカウントやポイントサイト側にもしっかり、社名など記載すべきだと思われます。
また、会員登録をさせるまでの流れも、誤認を招くものばかりでした。導入は「お金を配布する」とのみで、一番大事なポイントのレートなどはサイトの一番下部で文字だけで説明してあり、見落としやすい・気づきにくい掲載方法がとられていること。
勧誘から、登録を促す流れは、誤認を誘発させることしかしておらず、これでは「詐欺」と言われても仕方ありません。
(ヨシクラミク/宮崎美和子)
Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By YoshikuraMiku | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2024122004.html