「鼻がぐちゃぐちゃに折れて初めてボクシングの危険さに気づいた」日本人初ヘビー級王者を狙う但馬ミツロ。81kgから120kg超の大増量、破竹の10連勝後に待っていた敗北からの再起

日本ボクシング界で最も「不可能」といわれているものがある。いまだに誰も成しえていない日本人初の世界ヘビー級王者だ。井上尚弥の4団体統一王者よりも難しいのではといわれるヘビー級王者に挑み続けるボクサーがいる。それがアマ5冠・但馬ミツロだ。12月21日に再起戦をひかえる孤高のボクサーの苦悩を直撃した。(前後編の後編)

周囲のヤジに対しては待っとけよと

2022年4月、ミツロはプロデビュー戦を1RKO勝利で飾ると、2023年末まで10連勝をマークする。

ただ、リングに上がる120kgの体は、学生時代に国体出場時に81kgでリングに上がっていた頃と別人だった。また10戦のうち、ほとんどの相手が自分より体が小さく、半数以上が100kgに満たない。所属ジムが用意する相手の質について、不満はなかったのか。

現在所属する大阪の亀田ジムを訪れ、ミツロを直撃した。ミツロは大きな体を折って深々と頭を下げ、両手を差し出し、筆者と握手をした。

但馬ミツロ(以下、同) (相手の質について)んー、実戦練習の相手もほとんどいない僕にとっては、試合は緊張感も含めていい実戦慣れの場だったと思います。(マイク・)タイソンもキャリア初期の頃は相手の質にこだわらないでどんどん経験を積んでいましたし。

 ――2023年7月の第7戦、判定勝利後のマイクパフォーマンスで「あーだこーだ言っている奴はリングで戦ってない奴だから」と強い口調で話していました。焦りや苛立ちからでしょうか?

あの試合はなかなか倒すことができず、ブーイングや野次も耳に入っていました。ただ、僕自身もまだプロで納得がいく状態でリングにあがれていなかったし。周囲のそういう声に対して、待っとけよっていうのもありました。

――「納得のいく状態」とのことですが、大学時代の関係者はみんな練習熱心といっていたのに反して、プロ入り後は逆に練習不足という声も耳にします。

うーん、自分のキャリアを振り返ったときに、やるときは120%やる、やらないときはやらないとはっきり分かれていたと思います。とくに今に始まったことではなく、ですね。

そこで、そばで話を聞いていた亀田興毅会長が割って入る。

「まだまだ足らへん。普通のボクサーやったらやってるほうやと思う。でも、世界一なろうと思うんやったら全然足らへんよって。ヘビー級の世界チャンピオンいうたらちょっとおかしい人間じゃないとできないですよ。だからこの人間にも頭おかしなってもらわへんと困る」(亀田会長)

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最初のダウンで鼻がぐちゃぐちゃに折れた

――これまでに何度か、海外から現地ランカーのスパーリングパートナーを招へいしています。ミツロ選手は、正直ヘビー級での手応えは感じていますか?

通用するところもあったし、通用しないところも感じています。通用しないというのは、客観的にみて僕はヘビー級が適正階級じゃないというか、それはずっと思っていたというか、いざ海外の選手とスパーリングをすると、まだまだ磨かないといけないとは、感じていますね。

――じゃあ、なぜヘビー級?

デビューにあたってミドル級とヘビー級の二択だったので、話題性を踏まえてヘビー級で戦って挑戦していくことが決まったんで。

――本心では、もう少し下の階級で戦いたいということですか?

いえ、もちろんゆくゆくはヘビー級で世界一になりたいというのは変わっていません。でもこれは陣営にも言っているんですけど、来年は一度クルーザー級で戦ってみたいと伝えています。それは、あとからキャリアを振り返ったときに、自分がベスト階級でやっていたらどうだったんだろうなっていう思いを残して、引退はしたくないし。

――では、亀田会長の目からみて、率直にミツロは世界で通用すると思っていますか?

亀田会長 うーん、世界どうこうというより、まだ経験が足りなさすぎるから。ほんで、やっているうちにこれは一個階級下ちゃうかなあ、というのでテストマッチとして組んだのが、前回の試合。

――2024年3月、ミツロは世界ブリッジャー級29位の選手と対戦し、ほぼ一方的な内容で判定負けを喫しました。

ミツロ(以下、同) 試合は2Rから覚えてないです。最初のダウンで鼻がぐちゃぐちゃに折れていました。試合後初めて意識が衰弱していくのを感じて、ああボクシングって危ないスポーツなんだなと。

――あのとき辞めようとは思わなかった?

思いませんでした。自分はこれまで9回負けてるんですけど、その度に強くなってきたんで。