『クレイヴン・ザ・ハンター』(12月13日公開)

 セルゲイ(アーロン・テイラー=ジョンソン)は、幼い頃、裏社会を牛耳る冷酷なロシアンマフィアの父ニコライ(ラッセル・クロウ)と共に狩猟に出た際、巨大なライオンに襲われた。ライオンの血が体内に入ったことをきっかけに、セルゲイは百獣の王のパワーを身につけ、容赦なき“クレイヴン・ザ・ハンター”へと覚醒する。

 クレイヴンの“狩り”の対象は、金もうけのために罪無き動物を狩る人間たち。一度狙った獲物はどこまでも追い続け、自らの手で仕留めるクレイヴンだったが、病弱な弟のディミトリ(フレッド・ヘッキンジャー)が、全身を硬い皮膚でおおわれた怪物ライノにさらわれ、縁を切ったはずだった父と対峙(たいじ)することになる。

 マーベルコミックの人気キャラクターで、原作ではスパイダーマンの宿敵として知られるアンチヒーロー、クレイヴン・ザ・ハンターの誕生の物語を描く。スパイダーマンに関するヴィランキャラを主軸にしたSSU(ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース)の最終作。監督はJ・C・チャンダー。

 まずアクションについては、冒頭の刑務所内での暗殺に始まり、街中でのチェイスシーンやライノとの最終対決など、R指定になったのも当然というような、バイオレンスたっぷりの目まぐるしいシーンが展開される。テイラー=ジョンソンの鍛え抜かれた肉体もすごい。

 ドラマ部分に目を移すと、父ニコライの「強き者が生き残る。力こそが全てだ」というモットーに反発しながら、百獣の王のパワーを得た自らも、大義のためとして殺しを繰り返すクレイヴンは、弟のディミトリから「兄さんはただ、殺しを楽しんでいるだけ」とさげすまれる始末。つまりこの父と子は似た者同士というところにクレイヴンが抱える悩みがある。

 その点では、チャンダー監督が「この映画の核は古き良きロシアンギャングの物語」と語るように、マーベルものでありながら、ギャングの父と2人の息子との相克劇であり、毒親に育てられた弟思いの兄の切ない物語でもある。そこがこの映画のユニークなところだ。

『ライオン・キング:ムファサ』(12月20日公開)

 息子のシンバを命がけで守ったムファサ王。かつて流浪の身だった彼の運命を変えたのは、後に彼の命を奪うスカーとの出会いだった。

 両親とはぐれ一人さまよっていた幼いムファサは、王家の血を引き思いやりに満ちたタカ(後のスカー)に命を救われる。

 血のつながりを超えて兄弟の絆で結ばれた2匹は、冷酷な敵ライオンから身を守るため、群れを捨て新天地を目指してアフリカ横断の旅に出る。

 英語オリジナル版ではアーロン・ピエールがムファサ、ケルビン・ハリソン・Jr.がタカの声を演じ、マッツ・ミケルセン、ビヨンセ・ノウルズ=カーターも出演。日本語吹き替え版では尾上右近がムファサ、「Travis Japan」の松田元太がタカの声を担当した。

 監督は『ムーンライト』(16)のバリー・ジェンキンス。『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(17)のジェフ・ナサンソンが脚本、『モアナと伝説の海』(16)のリン=マニュエル・ミランダが音楽を担当。

 アニメーション映画『ライオン・キング』(94)に始まって、ミュージカル舞台化、テレビアニメやビデオでのスピンオフや続編、実写とCGを組み合わせた超実写映画『ライオン・キング』(19)を経て、この映画にたどり着いた。これらに一貫して流れるテーマは「サークル・オブ・ライフ=生命の円環」だ。

 これらの前日譚となるこの映画は、まるで「スター・ウォーズ」シリーズのような親子孫にまたがる因果応報話。オープニングで、前作でムファサの声を担当したジェームズ・アール・ジョーンズに献辞がささげられていたが、彼は「スター・ウォーズ」シリーズでダース・ベイダーの声も担当していた。こんなところでも両作はつながるのかと感じた。

 ライオンたちがちゃんと口を開いて人間の言葉を発するところに、最初は違和感を覚えるが、だんだんと慣れてきて、最後はよくもまあこんな映像を作ったものだと感心させられる。

(田中雄二)