ニコン「EL2」 Vol.22 [ニコンの系譜]

フレキシブルプリント板の使用

SPDの使用で制御回路は新規のものになったが、回路規模は大きくなり、それまでニコマートELやELWで使われていた航空母艦型のガラスエポキシプリント基板に収まらなくなった。そこでペンタプリズムの屋根部をまたがるようにフレキシブルプリント板(FPC)を配置し、そこに回路部品を実装することにした。フレキシブルプリント板は現在でこそカメラを始め多くの電子機器に普通に使われているが、ニコンでカメラに本格的に用いたのは、この時が初めてである。カメラとしてはヤシカエレクトロAX(1972)あたりから使われていたが、フラットケーブル的な使い方で、それをさらに進めてメインの回路基板として使われるようになったのはキヤノンAE-1(1976)あたりからのことである。

耐熱性の高いポリイミド樹脂のフィルムに銅箔で回路パターンを形成し、それに電子部品を半田付けするもので、ガラスエポキシなどの固いプリント基板と大きく違うのは、リード線や電子部品を半田付けする電極部分を除いて、カバーコートという保護フィルムで全面を覆うことができる点だ。そのため回路パターンを外気の湿気やゴミから保護することができ、それらによる絶縁低下を嫌うSPD回路用としては、まさにうってつけの実装材料と言えるだろう。もちろん、フィルム状のため折り曲げ自在でカメラボディのちょっとした隙間にも這わせることができ、スペースの有効活用に大いに役立つという点も大きい。

ただ、ニコンEL2のときはまだまだその使い方のノウハウが蓄積されていなかったので、ガラスエポキシ基板と同じような使い方をしていろいろ失敗もあった。その意味でニコンEL2はフレキシブルプリント板の練習台のような形となり、その経験が後年のニコンFEなどに生かされている。ニコンEL2は、単にSPDの採用という以上に回路実装技術の進歩の面で大きな意味があったのだ。

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シャッター速度とフィルム感度範囲

マニュアルシャッター速度には新たに8秒が追加され、またフィルム感度の設定はASA25-1600からASA12-3200へと広げられた。これはSPDの採用に伴って新しく設計された回路によるものである。

シャッターダイヤルには8秒が加わった。実はそれまでのニコマートEL/ELWにも8秒はあったのだが…。ダイヤルにあったシンクロタイムラグ切り換えは自動切換えとなり、省略された

フィルム感度設定はASA12-3200に拡張された。感度ダイヤルには露出補正のための目盛りが追加されている

シャッター速度に関しては、実はニコマートEL/ELWにも8秒が存在していた。しかし発売の直前になってセルフタイマーの使用や高温高湿などの悪条件が重なると、オートの8秒の精度が保証できないことが判明した。そこでマニュアルの秒時も4秒までに変更したという経緯がある。ただ、シャッターダイヤルの”8″の表記を取り去り、その場所のクリックをなくしただけで、8秒の位置を電子回路に伝えるための機能はそのまま残されている。そのためニコマートEL/ELWのシャッターダイヤルは最長秒時の4秒とバルブ”B”の間隔が広くなっており、その位置にダイヤルを持ってくると8秒の速度でシャッターが切れる。これは一種の裏ワザとして一部のマニアの間で語り継がれているが、もちろん精度の保証はない。

ニコンEL2では、回路の変更によって正式に8秒が復活したというわけだ。