レッドブルが投入した全てのチームメイトを上回るパフォーマンスを発揮しているにもかかわらず、角田裕毅はマックス・フェルスタッペンと並ぶシートを与えられることがまたしても見送られた。リアム・ローソンに先を越され、角田をめぐる“イメージ”の問題が足かせになっていることが浮き彫りになった……。
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「ポールポジションとか、全レースで表彰台とか……何でもいいですよ」
数週間前、自身の実力を証明するために何が必要かと角田裕毅に尋ねると、そう答えた。
角田直近のチームメイトに対し、予選順位でニック・デ・フリースに8対2、ダニエル・リカルドに16対9、リアム・ローソンに10対1と勝ち越し、獲得ポイントでもデ・フリーズに2対0、リカルドに37対18、ローソンに8対6と上回った。
数字上ではレッドブルによって送り込まれたチームメイトを全て打ち負かした角田だが、その数字が直接的な評価に繋がらないことを理解している。
それどころか、角田は2025年のレッドブル・レーシング昇格の機会を見送られ、さらなる失望に打ちひしがれている。これが最後のチャンスだったかもしれない。角田が抱える最大の問題は、おそらくドライバー自身ではコントロールできないモノ……つまりイメージの問題だと角田は考えている。
角田はF1デビュー戦での輝かしい走りを、ルーキーイヤーを通して続けられなかったことが不利に働き、それがこびりついてしまったのではないかと考えているのだ。
「ルーキー1年目にストレートで結果を残せなかったのは、僕のせいでもあると思います」
外部からの懐疑的な目について角田はそう語った。
「最初の1年は苦労しましたが、それが僕という人間のイメージが形成されてしまいました。正直なところ、それは僕のせいだとは言えません」
「シーズン中盤にシャシー交換をしてから、状況はかなり良くなっていきました。それまではマシンにきちんと馴染めず、ただ滑りまくっているだけでコースに留まるのも難しいし、良いパフォーマンスを発揮することさえ難しかったんです」
「それでQ1落ちが続いて、状況が悪く見えたんです。その後、シャシーを変えたら突然、常にQ3へ進出するようになりました。それがちょっとした理由という話もあります」
「今年はいくつかのレースで良いパフォーマンスを発揮しても、おそらく他のドライバーが受けているほどには、僕は評価されていないような気がします」
「でも、それが現実なんです。ただ自然に、今やっていることを続けて、良いパフォーマンスをして、彼らが間違っていることを証明するだけです」
角田裕毅を取り巻くふたつの懸念材料
レッドブルは角田がメインチームでのチャンスを得るに十分な才能とスピードを持っていることを認める一方、ローソン起用を選択するにあたって、以前から懸念材料として挙げられてきたふたつの領域がある。
ひとつ目は技術的なフィードバックだ。現代F1マシンから最大限のパフォーマンスを引き出すために不可欠なモノを、角田が提供できるかが疑問視されてきた。
そして彼のパーソナリティの要素もある。悪名高い感情的な無線での口調は、F1という舞台で争う時に求められる気質なのかどうか、疑問を投げかける向きもあるだろう。
技術面では、最近アブダビで行なわれたテストで、角田はチームが必要とするモノを正確に届けることに集中し、この懸念は少し和らいだようだ。
レッドブル・レーシングのクリスチャン・ホーナー代表は今週、角田ではなくローソンを起用した理由について語った際、そのことに言及した。
「ユウキは非常に速いドライバーだ」とESPNのインタビューに対してホーナー代表はそう語った。
「今は3〜4シーズンの経験がある。アブダビでの我々のタイヤテストでも非常に良い仕事をしてくれたし、エンジニアも彼のパフォーマンスには感心していた」
「しかし我々は詳しい分析をした結果、リアムが走ったレースではペースが若干良く、彼だと感じた。予選ペースもユウキと非常にタイトだったし、リアムがたった11レースしかしていないというポテンシャルを考慮すると、彼はより良く、より強くなるに違いない。それに彼はメンタル面での強靭さやタフさを見せてきた」
ホーナー代表の最後のコメントは、角田が速いとはいえ、レッドブル・レーシングが求める性格的な頑強さを持ち合わせていないことを改めて示唆している。
しかし外の見解と内部の見解は必ずしも同じではない。角田と密接に仕事をしてきた者たちは、完璧とは程遠いものの、現状は一部が主張するモノとは大きく異なっているようだ。
RBのレーシングディレクターを務めるアラン・パルメインは、F1界の大ベテランとしてトップクラスのドライバーたちと仕事をしてきた。角田は情緒が不安定で、フィードバックが苦手という外部からの見解について尋ねられた際、パルメインは次のように答えた。
「正直なところ、私もその面では自信がないところがあった」
「もちろん、彼がもっと磨かなければならない部分や一貫性に欠ける部分はある。でも彼は24歳とかだろう? まだ若い子だから、それをやる時間は沢山ある。そして、彼は自分で何に取り組むべきか分かっている」
「彼がミスをした時、自分自身にイライラしているのが分かる。しかしスピードはある。それは間違いない」
「彼はとても速いし、フィードバックも英語も素晴らしい。過去にそれが足かせとなっていたかどうかは分からないが、限界は全く感じられないし、彼と一緒に仕事するのは楽しいよ」
角田裕毅がお手本とすべき”良いドライバー”
パルメインは、角田が感情に流されてしまうことがあると認めた。しかし、角田が今取り組んでいるのはそこだ。コース上で上手く行かなかった際、怒りを一旦端に置いておくという行動を取るリカルドのような人物を近くで観察することで、角田は多くのことを学んだ。
「彼らはイライラすると、イライラしている自分にイライラするんだ! 彼はそれを理解しているし、そのために懸命に努力している」とパルメインは続けた。
「そしてそれは正しいことだ。ダニエルもそうだし、良いドライバーはみんなそうだ」
「オスカー(ピアストリ/マクラーレン)の無線を聞いてみてほしい。彼は2年目だが、決してイライラしない。それに彼は明らかにスピードがある。ランド(ノリス)がイライラしているのを聞くことはない。あるいは、イライラしているのを耳にすることは少ない。到達しなければならないレベルはそこだ」
「ブラジルのレースを見返したが、GP(ジャンピエロ・ランビアーゼ)とマックスは、まるで午後に一緒にコーヒーを飲んでいるようだった。それがベンチマークであり、彼らが取り組むべき全ての情報がそこにある」
「彼と一緒に取り組んでいる分野のひとつ。これも小さなことだ。彼らがやらなければいけないことは何百とある。でも上手くいっていない状況でも、彼はただ情報を入れるだけで良いというのを見抜いたのは正しい」
人生で自身を改善する鍵は、自分の弱点を理解し、改善のために努力することだ。
角田は今年、外部から疑問を抱かれている領域で確かな進歩を遂げたと感じている。しかし彼はさらなる改善が必要だと認識している。
「コミュニケーションの面では、主に無線でのやり取りだけでなく、言葉遣いや振る舞いも改善されたと言えると思います」と角田は言う。
「冷静さも間違いなく向上し、技術的なフィードバックも増え、集中力も増しました。1年を通して、確実に向上していることを実感しています」
ただ、結果的に2025年のレッドブル・レーシングでシートを得るには十分ではなかった。しかし数週間前、角田は興味深いことに、レッドブルから候補として挙げられている状況を冷静に見ているかと尋ねられた際、こう答えていた。
「正直なところ、メディアが言っていること、その他諸々を僕はあまり信用していません」と角田は言う。
「『ユウキが候補に挙がっている』とか言われても、それが本当かどうか、ただ僕を応援してくれているのかは分かりません。そんなことを考えるのは無意味です。本当に僕に関することなのか、そうではないのか? そういうことは自分でコントロールできませんし、最初のレースからずっとそう語ってきました」
「僕はただ力を発揮し続けるだけです。今シーズンのここまでの結果は、僕がそのシートに座るべき、少なくとも候補に挙がるできことを十分に証明していると思います」
「ただ彼らが指摘するような、『君がこのシートに座ることができないワケはこれだ』といった言い分や理由を少なくする必要があります」
「だから、自分でコントロールできることに集中する。それ以外は、ただ状況を受け入れて、彼らの判断に任せます」
「でも、彼らが考えているよりも、僕はもっと良い仕事ができると確信しています」