ロックバンド「kein(カイン)」 TOUR 2024「PARADOXON DOLORIS」ツアーファイナル ライブレポート到着!

ロックバンド・kein(カイン)待望のメジャーデビューEP『PARADOXON DOLORIS』をひっさげたTOUR 2024「PARADOXON DOLORIS」。ツアーファイナルを迎えた新宿 LOFT公演のライブレポートが到着!

keinによる東名阪ツアー TOUR 2024「PARADOXON DOLORIS」が12月19日、東京で幕を閉じた。11月23日を起点に始まったこのツアーは愛知・NAGOYA JAMMIN’、大阪・Yogibo META VALLEY、そして東京・新宿LOFTという各会場での二夜公演を重ねる形式で展開されたもの。わずか6公演のショート・ツアーではあったが、ファイナル公演にあたるこの夜のライヴは、その過程を通じてこの稀有なバンドが確実に次なる局面へと歩みを進めつつあることを実感させるものだった。

当然ながらこのツアーは、彼らの最新EPである『PARADOXON DOLORIS』(11月20日発売)のリリースを受けてのものであり、演奏メニューにおけるメインディッシュは同作の収録曲たちということになる。そして実際、彼らはこの夜もこの作品に収録されている5曲すべてをセットリストの随所にちりばめながら披露してみせたが、特筆すべきはそれらがすでに新曲の域を超越し、早くも進化/深化の兆しをみせていたことだろう。

別掲のセットリストをご参照いただければ明白であるように、このEPの収録曲のうち「Puppet」がオープニング、「リフレイン」が本編のクロージングに配置されていたこと自体がまず象徴的だ。しかも他3曲についても、ライヴ全体の流れにおける重要なポジションで各々のアクの強さを発揮するのみならず、すでに楽曲として化け始めていることを実感させられた。それはつまり、6本の公演を通じて各曲が改めて彼ら自身の中で咀嚼/消化され、各々にとってのキャラクターが確立されてきたということであるはずだ。いずれの曲にも、このさき彼らのライヴに欠かせない新たな代表曲となっていくことが確実視できるような主張力があった。

しかもその主張力の強さというのは、従来からの楽曲群の中に混ざり合った時に単純に際立つという次元のものではなく、お互いの存在を引き立て合う性質のもの。人間でいうところの独り善がりな主張とは違い、それぞれに個性的でありながらも不思議な調和を引き起こす力を併せ持っているのだ。それはある意味、5人とも完全にバラバラで異なったベクトルを持っているようでありながら、自分たちならではの溶け合い方を心得ているkeinというバンドの化学反応のあり方にも共通するものだと思えてならない。

リリースから1ヵ月を経た『PARADOXON DOLORIS』は、keinにとっては最新音源であると同時に、記念すべきメジャーデビュー作でもある。このバンドの歴史に目をやると、いわゆるヴィジュアル系の典型とは一線を画する世界観をもって地下世界に中毒患者を増殖させながら独自の地位を確立しつつあったにもかかわらず、わずか約3年という短命に終わった過去がある。その彼らが22年ものブランクを経ながら再結成に至った際には純粋に驚かされたものだが、以前はシングルやデモ音源しかリリースしてこなかった彼らが2023年の夏になって自己初となるアルバム『破戒と想像』を発表した際には、かつてできずにいたこと、本来ならばできていたはずのことを実現させることが現在の彼らの目的なのではないかと感じられたものだ。

メジャーデビューというのもまた、そのひとつであるように見えなくもない。ただ、その『破戒と想像』や今回の『PARADOXON DOLORIS』や、そしてこの夜のライヴを通じて感じさせられたのは、彼らは決してメジャーデビュー自体を目指していたわけではなく、それを契機としながらkeinとしての成熟、真のアイデンティティ確立とでもいうべきものを目指そうとしたのではないか、ということだった。逆の言い方をすれば、後ろ盾もないままそうした方向に進みつつあったkeinに共鳴した大人たちがいた、ということでもあるだろう。もちろんいまやkeinのメンバーたち自身がとうに大人になっているわけで、こうした言い回しが的確ではないのは承知している。ただ、“若者たちがメジャーを目指し、大人たちが力を貸す”という昔ながらの物語ばかりではなく、“インディーズを知り尽くした経験値豊富な大人たちによるバンドが、業界の大人たちを振り向かせ、忘れかけていたものを取り戻させる”といったケースも今日ならば成立するのではないだろうか。この夜の地下空間に渦巻いていた熱気の中で、筆者はそんなことを考えさせられていた。

不協和音寸前の調和ともいうべきアンサンブルの妙を感じさせずにおかない演奏次元の高さや、文学的な味わいを孕んだ歌詞世界をパントマイム的な所作を交えながら体現する眞呼のパフォーマンスをはじめ、この夜のライヴ全体が見どころの連続だった。しかもいわゆるMCが必要最小限に抑えられ、多様な楽曲が容赦なく立て続けに連射されていくさまは痛快でしかなかった。

そうした痛快さを、ステージ上の当事者たち自身も味わっていたに違いない。彼らが予定外のダブル・アンコールに応えたのは、終演を伝えるアナウンスが流れてもなおそれを求める声援が止まなかったからでもあるはずだが、彼ら自身のアドレナリンの高まりが、そのままステージから去ることを許さなかったからではないかと思えてならない。それを裏付けるように、最後の最後に演奏されたのは、この夜2回目の登場となる「Puppet」と「Spiral」だったが、どちらもプログラム本編で聴かれたヴァージョンを超えた熱量と爆発力を伴っていた。力のあるバンドの、本気の爆裂を味わえた瞬間だった。

しかも超満員のフロアは、極上の一体感に包まれつつも、過度にヴァイオレントなカオスと化すことはなかった。理性の伴った興奮というものがあるとすれば、筆者が味わったのは、まさにそれだったように思う。そしてステージを去る間際、眞呼はオーディエンスに「また会おう!」と呼びかけていた。この夜に感じたkeinならではの独自性や味わい、彼らのライヴでしか味わえないエキサイトメントといったものが、次の再会の際、どのような進化/深化を遂げているかを楽しみにしていたい。

(取材・文 増田勇一)

 

TOUR 2024「PARADOXON DOLORIS」ツアーファイナル 新宿 LOFT公演セットリスト



M1 Puppet

M2 an Ferris Wheel

M3 絶望

M4 Mr.

M5 Color

M6 Toy Boy

M7 雨音の記憶

M8 暖炉の果実

M9 嘘

M10 Spiral

M11 People

M12 Rose Dale

M13 君の心電図

M14 グラミー

M15 リフレイン

EN1 keen scare syndrome

EN2 kranke

W EN1 Puppet

W EN2 Spiral