衝撃的なタイトルの本を書いたのは、企業再生のプロ・冨山和彦氏だ。本書は、安穏と暮らしているホワイトカラーの頭にガツンと一発、拳骨をくらわす内容である。

「2040年に1100万人の人手が不足する」という衝撃のデータから始まる。特に地方のローカル経済の人手不足が深刻だ。AIの発達でグローバル経済におけるホワイトカラーは余剰となり、企業は40代以上のホワイトカラーの猛烈なリストラを始めるという。要するにグローバル経済での人余りとローカル経済での人手不足。このミスマッチを解消しなければ日本経済の復活はないというのが氏の主張である。

 このミスマッチ解消のためには「付加価値労働生産性(企業が新しく生み出したモノやサービスの金銭的価値)」を上げることが重要になってくる。これが上がると、グローバル経済からローカル経済へ労働力の移動が起き、ミスマッチが解消する。

 氏は、グローバル経済に関しては「企業変容」が必要と強調する。

「今まで通りではダメ」ということだ。大量生産モデルから脱して、圧倒的な独占企業になるか、「ややこしさ」を追究する高付加価値製品を作るしかない。

 ローカル経済ではエッセンシャルワーカー(生活維持に必要な業務従事者)が不足している。氏は、彼らの付加価値労働生産性を2倍、3倍と上げ、ここに人材が流入しなければ日本の社会基盤が崩れてしまうと警告を発する。

 例えば、農林水産部門ではブランディングに活路を見出す観光業とコラボし、多くの人に産地に来てもらい、そこでしか味わえない美味しい物を提供し、購入してもらう。ここにホワイトカラーがアドバンスト・エッセンシャルワーカーとして参入すればいいのだ。

 医療や介護の分野でも人手不足は深刻だ。氏は、この分野は株式会社化を進めるべきだという。懸念をする人もいるだろうが、プロが経営することでサービス向上を図ることができ「エッセンシャルワーカー」の処遇も改善するだろう。

 氏は「ローカルとグローバルに序列はない」という。グローバルの方が、社会的価値が高いと思われがちだが、その考えを捨てよということだ。今、多くの人材が、意欲的にローカル経済に参入している。むしろローカル経済の方が成功のチャンスがある。

 本書で氏が描く未来は、明るい。多くのグローバル経済のホワイトカラーが、真剣にローカル経済に進出すればいいのだ。氏は、ローカル経済は「荒野というより未開拓の沃野が広がっている」という。

「さあ、グローバル経済のホワイトカラーよ、ローカル経済の沃野を目指せ!」

 今の立場に安住していると、あなたがいる場所は荒野になってしまう。

《「ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか冨山和彦・著/1133円(NHK新書)》

江上剛(えがみ・ごう)54年、兵庫県生まれ。早稲田大学卒。旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)を経て02年に「非情銀行」でデビュー。10年、日本振興銀行の経営破綻に際して代表執行役社長として混乱の収拾にあたる。「翼、ふたたび」など著書多数。

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