F1がサステナビリティ(持続可能性)を向上させるために取り組みを続けている一方で、最も明白なムダづかいのひとつにはまだ対処する必要がある。
それがタイヤだ。F1が環境負荷の低減を目指す上で銀の弾丸などはなく、細かな積み重ねをしているが、未使用のままに終わるタイヤは驚くべき数にのぼる。
ピレリが木曜日に発表した2024年シーズンのデータでは、F1タイヤが合計65,534周を走り、334,942.175kmを走破したことが記されていた。
このデータには、各チームに供給されたタイヤのセット数という興味深い数字も含まれていた。2024年に各チームに供給された新品のセット数は合計8016セットで、その内訳はスリックが6100セット、レインタイヤが1916セット(インターミディエイトが1428セット、フルウエットが488セット)だった。このうち2718セットが未使用で、これは全供給量の約34%にあたる。
その中には、雨用のタイヤの出番がなかった分も多く含まれているが、スリックタイヤのなかにも日の目を見なかったものが少なくない。
ピレリによれば、レースに持ち込まれたスリックタイヤの15%強にあたる935セットが、リムに装着されたままガレージから出されなかったという。さらに、948セット(15.5%)のスリックタイヤが1周から3周しか走行していない。
この未使用タイヤの数は、2つの側面から見て「資源の無駄遣い」といえる。まず、製造にかかる労力と材料の問題、そして廃棄やリサイクルの問題だ。
さらに、このタイヤを無駄に世界中を飛び回らせることを考えると、輸送関係のムダのことも考慮しなければならない。
ピレリ自身が以下のように言及しているのも不思議ではない。
「レースウイークエンドにおけるタイヤの効率的な使用方法については、引き続き検討課題である」
無駄なタイヤの問題は、ピレリがここ数年力を入れて取り組んできた課題であり、2024年に向けて、すでに改善が進められていた。
それはフルウエットとインターミディエイトタイヤの”ストリップ&フィット”ポリシーの採用だ。今年から両タイヤはタイヤウォーマーが必要のないタイヤとなっており、あるレースでリムに装着されたタイヤが別のレースでリムから外され、別のリムに装着される可能性があるのだ。これにより、2023年と比較してタイヤの生産が3500本も減ったという。
現実問題として、F1で無駄なタイヤがゼロになることはあり得ないが、もっとできることがあるはずだ。レインタイヤに関しては、タイヤを1種類にすることも考えられる。
現在のF1では、インターミディエイトとフルウエットという2つの雨用コンパウンドが、無駄の多いシナリオを生み出していることは明らかだ。
フルウエットは悪コンディションでのアクアプレーニングの問題を解決するために設計されたタイヤだが、ディフューザーと一緒に大量の水しぶきを巻き上げてしまう。マシンがそうしたコンディションの中を走ることがないため、このタイヤが使われることはほとんどないのが実情だ。
ピレリの2024年のデータは、この問題を浮き彫りにしている。インターミディエイトタイヤの使用率は、全走行距離の5.84%。しかしフルウエットは0.57%と大きく差がついている。
ダンプコンディションからレース不可能なコンディションまで対応できるウエットタイヤがあれば、タイヤの生産量を減らすという意味で大きな効果があるだろう。
スリックタイヤに関しては、予選の関係で3周程度しか使用しないセットがあるのは仕方がない。未使用タイヤの数を減らすには、競技規則を変更する必要が出てくるだろう。
F1は2023年に2レースでオルタナティヴ・タイヤ・アロケーション(ATA)という試みを行なった。これは各ドライバーに供給されるタイヤを13セットから11セットに減らし、Q1ではハードタイヤ、Q2ではミディアムタイヤ、Q3ではソフトタイヤを使用するというルールとしたものだ。
しかし、このアイデアはチームからの支持を得ることはできず、今季から採用されることはなかった。ATAではフリー走行での走行が大きく制限され、予選ではハードタイヤを得意とするチームにアドバンテージを与えてしまうという懸念があったからだ。
ATAの採用は見送られ、それ以来、割り当てを減らすというアイデアは注目されなくなった。ピレリは、これはチャンスを逃したと考えた。
ピレリの責任者であるマリオ・イゾラは当時、次のように語っている。
「このフォーマットをやめるという決断は、私にとっては正しいものではなかった」
「将来の方向性がチャンピオンシップの二酸化炭素排出量を減らすことであるならば、何かを失うことを受け入れなければならないと私は信じている」
ウエットタイヤの削減と合わせて、これも間違いなく注意が必要なデータであり、今後に向けて改善が必要な領域だと言える。