エマニエル・アルサンによる官能文学の傑作「エマニエル夫人」を、1974年にジュスト・ジャカン監督、シルヴィア・クリステル主演で映画化し、全世界が熱狂した『エマニエル夫人』。当時、官能シーン満載にもかかわらず一般映画として日本公開され、大人はもちろん女子高生までもが劇場に押し寄せ、大ヒットを記録した本作。このたび50年の時を経て、舞台を現代に変えた新生『エマニュエル』が2025年1月10日(金)より公開される。新生版の監督は、フランス映画界で最も重要な存在の1人となった『あのこと』(21)のオードレイ・ディヴァン。そしてトラウマや好奇の目にもひるまずにタイトルロールを演じたのは、『燃ゆる女の肖像』(19)や『TAR/ター』(22)など多くの話題作に出演するノエミ・メルランだ。彼女が並々ならぬ思いで臨んだ本作への覚悟や役作りについて語った。
「人々が恐れるものには、探る価値がある」と語るノエミ・メルラン / [c]Manuel Moutier
新生版では、舞台はバンコクから香港の高級ホテルへと変わり、夫人だったエマニュエルは、仕事を持つ自立した1人の女性として描かれる。『エマニエル夫人』では、当時駆けだしの女優だったクリステルが、文字どおり体当たりの演技で女性の悦びや官能を表現し、一世を風靡した。新生エマニュエル役に挑んだメルランは、セレブが行き交う高級ホテルで、妖しい宿泊客との交流を通して真の快感を追い求め、人間の危険な欲望に果敢に向き合う彼女の脆さと強さを体現。凛としながら、どこか妖艶さ漂うたたずまいで、クリステルとは異なる魅力を持つエマニュエルの姿を華やかに、そして大胆に演じ観客を魅了する。
メルランは、本作への出演を決めた理由について「『エマニエル夫人』のことは、映画が公開された当時に話題になったこと以外はまったく知りませんでした。私はオードレイ(・ディヴァン監督)本人も『あのこと』も大好きで、彼女の眼差しや作品のファンでした。だからオファーが来た時はとてもうれしかったです」と素直に喜んだことを明かす。
ベッドシーンは、ディヴァン監督、インティマシー・コーディネーターと表現を模索したという / [c]2024 CHANTELOUVE – RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – PATHÉ FILMS
オファーの際に脚本も届いたそうで「脚本を読んだ時、濃密な旅に巻き込まれ、どこか私自身の内なる旅に出るような感覚を覚えました。快感を得ることができなかった女性が、再び自身の身体とつながろうとする旅は興味をそそられると共に、とても強いつながりも感じました。エマニュエルのなかに、私がいたんです。私にはストーリーがすんなり腑に落ちたので、オファーを受けました」とエマニュエルを演じることへの自信を感じとったという。
しかし1974年当時、クリステルが世界から好奇な目にさらされたことも周知の事実で、当たり前のように周りからは心配の声があがった。それに対しメルランは「もし怖いと感じたら、それは正しい位置にいるということ。恐れがあるとすれば、それはリスクを冒すこと。人々が恐れるものには、探る価値があると思います」と並々ならぬ覚悟で本作に挑んだようだ。
【写真を見る】ノエミ・メルランの美しい裸体にうっとり… / [c]2024 CHANTELOUVE – RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – PATHÉ FILMS
エマニュエルを演じるにあたり、もちろん避けて通れないのはベッドシーンで、初期段階からインティマシー・コーディネーター(ヌードやセックスシーンなどの撮影をサポートする役割を担う)もチームとして加わり表現を模索したという。「ジャック・オディアールの『パリ13区』以来、一緒に仕事をしている振付師でインティマシー・コーディネーターのステファニー・シェーヌとオードレイが制作のかなり早い段階から準備をしてくれ、エマニュエルから湧き出てくる欲望、体位、変化を表現する方法を3人で探しました。“快感”を得られるセックスを言葉もない状態でどのように伝えていけばよいのか、とても繊細な表現が必要だったのです。アーティストとしての仕事となれば、私自身、恥じらいはありませんし、ステファニーとオードレイとは綿密な打ち合わせを重ねるうちに絶対的な信頼関係を築くことができて、撮影現場でも安心させてくれました。非常に刺激的な現場で、いい経験になりました」とハードな撮影も信頼で乗り越えたことを振り返った。
ノエミ・メルランを演出するオードレイ・ディヴァン監督 / [c]2024 CHANTELOUVE – RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – PATHÉ FILMS
今回メルランにオファーしたディヴァン監督は、「ノエミはモデルとしてキャリアをスタートさせたので、フレームと、そのなかの自分の身体を本当に理解していて、被写体に深い関心を持っています。彼女は、自分がどのように身体を描きたいかを正確に理解しているので、とても自由なんです」と彼女の身体表現を絶賛。メルランも「早くから始めたモデルを通して、私は女性として、性的にも肉体的にも自分のものではないという感覚を抱いたまま、大人になっていきました。ほかにも、男性を満足させることがパフォーマンスの原動力になることも知りました。こういった経験は、すべてこの映画の核心であり、冒頭で私が演じたキャラクターが抱える孤独の本質でもあるのです。だから私は、このプロジェクトやエマニュエル、そしてオードレイとの強い絆を感じたのです」と主人公のエマニュエルと自身の共通点を見出したよう。
新境地を切り拓いたノエミ・メルランの姿を目撃できる / [c]2024 CHANTELOUVE – RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – PATHÉ FILMS
すでに演技派俳優として高い評価を受けるメルランがまたしても新境地を開いた『エマニュエル』。彼女が覚悟 を持って演じ、まるで現代を生きる女性の写し鏡のような魅惑的なキャラクターが織り成す上品なエロティシズムにぜひ注目してほしい。
文/山崎伸子