頂上決戦ゆえの”魔物”が大きく影響を与える結果となった。
12月21日、フィギュアスケートの全日本選手権(大阪・東和薬品ラクタブドーム)は男子フリーが行なわれ、2022年北京五輪銀メダリストの鍵山優真が合計297.73点をマークし、悲願の日本一を初めて掴んだ。2位にはジュニアカテゴリーの16歳・中田璃士がフリー173.68点を記録し、総合2位に入った。新世代が躍動した一方で、有力選手が相次いでミスを連発する姿が目立った。
ショート首位、最終滑走という極限のプレッシャーがかかるなかで21歳の若武者は堂々した演技を披露した。冒頭の4回転フリップ、2つ目の4回転サルコウは高さと幅のある美しいジャンプでGOE(技の出来栄え点)も大きく加点した。後半は少しバランスを崩したが、それでも安定感あるスケーティングで他を圧倒した。演技後は氷上で大の字になって倒れ、大歓声を一身に浴びた鍵山は「1回(宇野)昌磨さんのを見て、最終滑走でいい演技をしたら、ちょっとやってみたかった」と明かした。直前には16歳の中田が完璧な演技をみせ、派手な大の字パフォーマンスを先にされてしまったが、「やってみたかったのでやってみました」と続け、初タイトルの喜びを嚙みしめた。
その裏で、ジュニア時代から切磋琢磨する盟友たちは苦戦した。昨年の世界選手権代表で、ショート4位だった三浦佳生は序盤からジャンプミスを続出。後半は4回転+3回転の連続トウループなどを降りる意地を見せたがフリー9位(141.22点)、総合8位と振るわなかった。ミックスゾーンでは「スケートって難しいなと感じさせられる4分間だった。自分の力不足を感じました」と答え、「今までの全日本と空気が違う感覚があった。みんな優勝したいって思いが強くあったと思うので、自分も含めてちょっと空回りしちゃったのかな」と、全日本独特の雰囲気をそう表現した。
鍵山とともに今月フランス・グルノーブルで開催されたグランプリ(GP)ファイナルに出場した佐藤駿も苦戦したひとりだ。今季のGPシリーズで確実に成績を残し、絶好調だった冒頭の4回転ルッツでまさかの転倒スタート。以降もジャンプでミスが相次ぎ散々な結果に。演技後は茫然自失といった表情で頭を抱えてうつむき、そのあと過呼吸で医務室に運ばれて取材に応じられなかった。
ショート3位と好位置につけていた友野一希も、ミスが出て肩を落とした。今大会は来年3月に開催される世界選手権(米国・ボストン)の代表最終選考会を兼ねており、5位(233.95点)という結果に「まずいかなと正直思う」と率直に受け止めた。「みんな今回悔しかったので調子は上がると思うし、この雰囲気で実力が出せることをしっかりアピールできていないとダメだと思う」と続けた。
ショート14位と出遅れたが、フリー3位と会心の演技で大きく巻き返し逆転表彰台に立った壷井達也のような選手もいる一方で、一発勝負の難しさを痛感させられた今回の全日本。優勝した鍵山は世界選手権の出場切符を獲得し、16歳の中田は年齢制限で対象外。男子の残り2枠は今大会の成績などを踏まえて総合的に判断され、22日に決定する。
取材・文●湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)
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