“イップス”は「自分はならない」と思っていませんか?決して他人事ではなく、ゴルファーなら誰でもかかる。しかもゴルフを一生懸命やるほどかかりやすいんです!
なぜイップスにかかるのか、どんな症状が現れ、どうやって克服するのか。それを事前に知ることが、イップス予防の最善策になります。
道具のメカニズムを理解する
今どきドライバーはイップスにつながる可能性がある
「思った結果が出ないのは、テクノロジーの進化のせいかもしれません。進化によってクラブの動き方がどう変わるのかまで理解して振らないと、イップスに陥りやすくなるでしょうね」(田島)
2006年以来、パッティングのイップスと格闘しながらツアー生活を続けてきました。2010年にはチャレンジツアーで優勝があり、成績が少し上向いていましたが、翌年にはアプローチにイップスの症状が現れたのです。
発端は、ある試合のアプローチで二度打ちをしてしまい、それ以来ザックリするミスが出るようになったのです。ザックリはスコアメイクのうえでも致命傷ですから、出ると心拍数がググッと上がって、息苦しくなるような感覚を覚えました。
イップスは、ラフが深かったり、傾斜がきついなど難しい状況では出ません。出ない理由は「絶対に寄せなくては」と思っていないからでしょうね。イップスの症状が出るのは、20ヤードくらいのそれほど難しくないアプローチ。寄せて当たり前、入れて当たり前の比較的やさしいシチュエーションで発症します。
やはり、感情に左右されるのがゴルフであり、イップスもその一部なんですよ。
アプローチイップスには、クラブ選びからも対策しました。ウエッジのリーディングエッジが鋭利なモデルは、どうしても地面に刺さりやすくなります。プロは状況によってボールを右足寄りに置いて、刺しにいくようにして低い球を打つことがありますが、それはしないようにしました。
バンスがあり、リーディングエッジがグラインドされて”受け”があるような形状のウエッジを選び、ハンドファーストで打つのもやめました。ハンドレイト気味で打てば、バンスが滑ってくれて刺さるミスは起きにくいからです。
芝がペタッとした逆目のライはより刺さりやすいものですが、その場合はSWを使わず、ロフト角が立っているPWの先っぽで打ちます。このPWのトゥ打ちであれば、絶対にミスをしないという自信があるので、結果もいいですし、イップスが起こることもありません。
私の場合、イップスはバッティングとアプローチに現れて、ショットは大丈夫でした。今は飛距離も伸びていて、過去イチ飛んでいます。
しかし、ベテランゴルファーのなかには急激に大型化したドライバーに苦戦している人も多いのではないでしょうか。ヘッドが小さい時代であれば、自分でフェースを返してスクエアに戻すことができましたが、現代の開閉しづらい大型ヘッドは随意的にフェースを操作するととても難しくなります。
とくにぶっつけ打ちで低いスライスを打つようなタイプとは、相性がよくないですね。今のクラブは、入射角が鋭角に入る動きではエラーが大きくなりやすいのです。急激にヘッドが下りてきて、フェースが返りきらなかったり、それを嫌がって腕をねじったりすると一気にフェースが閉じてしまいます。
現代のドライバーは、フェースをシャット(=閉じ気味)に使って、ダウンスイングでクラブが遅れてきながら自然にスクエアに戻る打ち方が必要です。小ぶりなヘッドで培ってきた技術では通用しないので、現代のドライバーのメカニズムをしっかり理解して取り組まないと、ドライバーイップスになる危険もあるでしょう。
技術的な問題であれば、時間をかけて技術面で解決すればいいこと。今までうまく打てていたことができなくなったことで、不安やいらだちなどの心理面への影響が出ないようにしたいですね。それがイップスの引き金になり得るからです。
[症状]ハンドファーストでアプローチを打つとザックリしてしまう
右寄りに置いた球を強いハンドファーストでヒット。リーディングエッジが地面に刺さりやすい打ち方ではあるが、実際に刺さることが増えてしまった
[対策]ハンドレイトのままフォローでもフェースを閉じない
アドレスもインパクトもハンドファーストを封印。ハンドレイト気味にして、フォローではフェースを上に向けてヘッドを返さず振り抜く
いかがでしたか? イップスが起きたら、まずは使用しているクラブを確認しましょう。
解説=田島創志
●たじまそうし/1976年生まれ、群馬県出身。03年「久光製薬KBCオーガスタ」でツアー初優勝。2016年から2023年までJGTO理事を務めた。2006年にイップスの兆候が現れてからは、それを克服する研究を続けている。
構成=コヤマカズヒロ
写真=田中宏幸