昨季4年ぶりのプレーオフ進出を果たしたオーランド・マジックが、今季も健闘を見せている。
チームは現在(現地12月21日時点)、17勝12敗でイースタン・カンファレンス4位。この成績を2人の得点源を欠いた状態でキープしているのだ。
12月15日のニューヨーク・ニックス戦では、ドイツ人センターのモリッツ・ヴァグナーがキャリアハイの32得点を記録。試合は91-100で敗れたが、3ポイントを7本中4本沈めたほか、6バウンドに2スティールと、ベンチスタートからチームを盛り立てるビッグプレーを披露した。
今季のマジックは、開幕4戦目のインディアナ・ペイサーズ戦でキャリアハイの50得点を叩き出した主砲のパオロ・バンケロが、右腹斜筋の負傷で長期離脱。その穴を埋めるかのように好プレーを連発してチームを牽引したフランツ・ヴァグナーも、12月6日のフィラデルフィア・76ers戦でバンケロと同じ右腹斜筋を負傷という悪夢に見舞われた。
2021年のドラフトで全体8位指名を受けてマジックに入団したフランツにとっては、4年目にして得点、リバウンド、アシストと、すべてにおいて自己ベストを更新し、初のオールスターも見えていた矢先の戦線離脱となってしまった。
そんな状況での兄モリッツの奮戦からは、「弟の分まで!」というような気迫が感じられた。試合後の会見でも「チームのベストプレーヤー2人が不在の今こそ、全員がさらにエネルギーレベルを上げて、チーム全体をより成熟させる機会だ。そのありがたいチャンスが来たと思うべきなんだ」と仲間たちを鼓舞する発言をしている。
「(バスケットボールは)数字で分析されるゲームではあるけれど、大事なのはエネルギーだ。正しい場所にエネルギーを注げば、良いことが起こるんだ」
力を込めてそう語るモリッツの言葉には説得力があるが、彼は子どもの頃からエネルギー全開なキャラクターだったようだ。
以前ドイツのバスケットボール連盟のYouTubeチャンネルで公開されたヴァグナー兄弟のドキュメンタリーでも、「部屋の中にモリッツが一歩入ってくるだけで、みんなが彼の存在に気づく、そんなオーラが彼にはあった」と弟のフランツが証言している。
モリッツ自身は「音楽の才がなくて断念したが、ロックバンドのフロントマンになりたかった」と言っており、元来、人前に出るのが好きなタイプだったようだ。
一方のフランツはシャイな性格だったようで、感情型で思ったことを口にするタイプの兄に対し、「頭で考えてから言葉を導き出す理論派」だという。
そんな兄がバスケットボールに熱中するのを見て、フランツも競技を始め、地元のアルバ・ベルリンでプレーした後、アメリカNCAAのミシガン大に進学。そこで実力をつけ、NBA入りという兄と同じキャリアを辿ってきた。 2021年夏にフランツがマジックに入団してチームメイトになると、2人はオーランドでも同じ家に暮らしているという。それほど兄弟は仲が良いことで有名だが、このドキュメンタリーの中で、モリッツはこんな風に語っていた。
「人々がNBAについて語る時、巨額のマネーだとか、華やかな世界であることが多い。だけど実際には、とても孤独な生活だ。1日のうちバスケをする時間は4、5時間。じゃあ残りの20時間はどう過ごすのか。孤独な時間がものすごく多いのが実情だ。だから、時間を共有できる誰かが側にいてくれるのはとても大切なことなんだ。
僕とフランツはものすごく仲が良くて、親友であり、最高の兄弟でもある。そういう関係でいられていることを、本当に幸せだと思っている」
プロアスリートにとって、ケガとの戦いはメンタル面の試練でもあるが、モリッツのような兄が側にいれば、フランツもポジティブに苦しい療養期間を乗り越えられることだろう。
そしてモリッツの言葉通り、マジックの選手たちはエース2人の不在を成長の機会と捉えて奮起することが重要だ。そうすれば2人が復帰する頃には、チームはいっそうたくましい集団になっているに違いない。
文●小川由紀子