「ガンダム」シリーズの「アムロ・レイ」は、一年戦争だけで130とも150ともいわれるMSや艦艇を撃墜/撃沈しました。期間の短さはさておき、ひとりの人間にそれほどのスコアが出せるものなのかと思いきや、現実にはもっとやべぇヤツがいました。
映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』より、アムロ・レイ(右) (C) 創通・サンライズ
【画像】こちら人類史に刻まれる撃墜王「エーリッヒ・ハルトマン」と「はいてない」姿が記憶に刻まれる「エーリカ・ハルトマン」です(5枚)
意外なほど地味かつ驚異的な「現実」
アニメ『機動戦士ガンダム』の主人公である「アムロ・レイ」は、たったひとりで、映像で確認できるだけでも100機以上のMSや航空機、戦車、軍艦を撃墜、破壊しました。その英雄的な活躍を現実に置き換えた場合、果たしてどれほどの撃墜が可能なのでしょうか。
現実の戦闘機パイロットにとって、「敵を撃墜する」という行為の難しさは、空想の世界が描くものとは次元を異にするようです。
まず、実際の戦闘機パイロットがどれほど敵を撃墜できるものなのかを見てみると、その答えは驚くほど地味です。たとえば第二次世界大戦の戦闘機パイロットは、その大半が生涯で1機も撃墜しないまま戦争を終えています。撃墜数の平均値は「ほぼゼロ」とみなせるでしょう。仮に平均撃墜数が「1」だとすると、彼我の戦力差が1:1である場合、敵機を全滅させていることを意味しますから、このような数値になるのも当然だといえます。
ゆえに、たった1機でさえ、敵機を撃墜するという行為が、パイロットにとってどれほど困難であるかという点は、いくら強調してもし足りないということはないでしょう。「ガンダム」シリーズでは、主人公には遠くおよばない脇役クラスのパイロットでも、1機や2機は撃墜しているなどしますが、彼ら、彼女らはとてつもない大きな戦果を挙げたと、胸を張って誇ってもよいはずです。
もしアムロ・レイが実在のパイロットであったなら、彼が達成した驚異的な撃墜数は、天文学的な確率に近いものとさえ思えます。しかしこの「奇跡」を何度も繰り返す者もいました。
我々のこれまでの戦争史において、もっとも多くの敵機を撃墜したパイロットは、第二次世界大戦中のドイツ空軍のエース「エーリッヒ・ハルトマン」です。彼は(おそらくアムロさえ上回る)352機もの敵機を撃墜し、史上最多を誇る撃墜王としてその名を残しています。
ハルトマンがこれほどの戦果を挙げられた背景には、いくつかの要因が挙げられます。第一に、彼が配属された戦場が東部戦線であった点です。ソビエト連邦との戦いでは、数に勝る敵と頻繁に交戦する機会があり、撃墜数を増やしやすい環境が整っていました。
第二に、彼自身の技量と戦術の優秀さです。彼は非常に戦術眼に優れ、勝てると確信した場合にのみ戦いました。つまり戦う前に優勢を築いていたのです。
興味深い点として、第二次世界大戦における撃墜数の多いエースパイロットは、敗戦国側に多いようです。たとえばドイツや日本のパイロットが高い撃墜数を記録しているのに対し、連合国側のパイロットたちの撃墜数は比較的、控えめです。
この傾向は、戦争の行方と軍の方針に深く関係しており、敗戦国側では、パイロットが戦場に何度も送り出され、生き残れる限り戦い続けることが求められました。これに対し戦勝国側では、人的資源を保全するため、経験豊富なパイロットを後方支援や教官として配置転換することが多かったようです。
結果として、敗戦国側のパイロットはより多くの戦闘に参加し、撃墜数を稼ぐ機会が増え、その代償として疲弊し、戦死のリスクが飛躍的に高まりました。実際、ハルトマンをはじめとする多くのドイツ空軍エースは、戦争末期においても絶え間ない出撃を強いられ、極限の状況下で戦い続けています。そのため彼らの撃墜数の裏には、過酷な戦場環境と軍の厳しい台所事情が隠されているといえるでしょう。