引退したナダルが現役時代のメンタル面の苦悩を告白「呼吸をコントロールするのが難しかった」ことも…<SMASH>

 今秋現役を引退した男子テニス元世界ランク1位のラファエル・ナダル(スペイン/38歳)は全仏オープン14勝を含む四大大会22勝、五輪での2度の金メダル獲得、歴代6位の世界1位在位209週など数々の成功を収めたレジェンドである。だが彼のキャリアは全てが順風満帆だったわけではない。特に晩年は度重なるケガに悩まされ、本人も精神的につらい状況が続いたと語っている。

 先日海外スポーツメディア『The Players’ Tribune』のインタビューに答えたナダルは、ここ数年にわたって抱えていた苦悩をこう明かした。「数年前、精神的にとてもつらい時期を経験した。肉体的な痛みには慣れていたが、コート上で呼吸をコントロールするのが難しく、最高のレベルでプレーできない時もあった」

 不幸中の幸いで「不安などをコントロールできなくなるまでには至らなかった」というナダルだが、「心を浄化するためにテニスから完全に離れようかと考えたことが何カ月もあった」という。最終的には「上達するために毎日練習する」ことを選択し、気持ちで何とか逆境を乗り越えることができたと当時を振り返る。

「常に前進することで(つらい状況を)克服し、ゆっくりと自分を取り戻した。苦労はしたかもしれないが、決して諦めなかったことを誇りに思っている。常に最大限の努力をしていた」
  2本のボトルから水分を取り、それらを必ず特定の位置に特定の向きで置くなど、試合中は自身の集中力を高めるために様々なルーティンを行なっていたナダル。大舞台での経験が豊富にもかかわらず、真面目な性格が影響してか試合の前はいつも緊張していたそうだ。ただそれは1対1の勝負で常に“何が起こるかわからない”テニスならではの特徴も関係していたと語った。

「正直に言うと、これまでプレーしてきたどの試合でも緊張していた。緊張が消えることはなかった。試合の前夜は毎晩、負けるかもしれないという気持ちで寝たし、朝起きた時もそれは同じだった」

「テニスでは、選手間のレベルの差は非常に小さく、トップのライバル同士の場合だとさらにそれが小さくなる。コートに出れば何が起きてもおかしくないから、全ての感覚を研ぎ澄ませて、自らを鼓舞する必要があった。そういった感覚や内なる情熱と緊張感、コートに出て満員の観客を見た時のアドレナリンは、言葉で表現するのが非常に難しい。それはほんの一握りの人しか理解できない感覚であり、プロを引退した今、同じ感覚になることは決してないだろうと確信している」

 長年テニス界を牽引してきたナダルがこうして知られざる苦悩を赤裸々に語るのを聞くと、彼も1人の人間であることを改めて実感させられる。人間味あふれるキャラクターこそ、ラファエル・ナダルが多くのファンに愛されてきた理由の1つなのかもしれない。まだ始まったばかりの“第2の人生”がさらなる輝きと幸せに満ちたものとなることを願うばかりだ。

文●中村光佑

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