静岡県湖西市の浜名湖で今年2月、中国籍の通信制高校2年・斉藤宇川(さいとう・うかわ)さん(当時17)=袋井市=の水死体が見つかった。殺人などの罪で起訴された男や少年たちは被害者と親しく、ともに外国にルーツを持つ若者たちのコミュニティで起きた内輪揉めが発端だった。自動車工場など製造業が集中する静岡県西部で、その労働の担い手として母国を離れ集住した外国人の二世たち。単純で粗暴に見える事件には、時代や世相を反映した構造が潜んでいる。
ジンロ被告がガラス瓶や十字レンチで殴った
この事件で静岡地検浜松支部は5月2日までに堀内音緒(ねお)被告(当時21)=浜松市中央区、無職=とフィリピン国籍のグアルディアノ・マット・ジンロ被告(同18)=同、同=の2人を殺人と傷害、監禁の罪で静岡地裁浜松支部に起訴した。
起訴状などによると2人は共謀して、2月5日未明、浜松市中央区のアパート付近で斉藤さんを暴行して意識障害などのけがを負わせ、乗用車のトランクに押し込んで浜名湖付近まで向かい、斉藤さんを湖にそそぐ川に転落させて溺死させた。
暴行の際にジンロ被告はガラス瓶や十字レンチで殴るなどしていたが、殺害現場付近まで運んだ斉藤さんを車から引きずり出してさらに殴る蹴るの暴行を加えた。
岸壁付近で堀内被告とともに斉藤さんの体を持ち上げ、ジンロ被告が背中を押して川に転落させたとされる。
ジンロ被告は殺人容疑などで送検後に家裁送致され、静岡家裁浜松支部が「一連の犯行で中心的な役割を果たしており、計画性がないことを考慮しても犯情は非常に悪質」と刑事処分相当として検察官送致(逆送)を決定。
静岡地検浜松支部は起訴の際、「特定少年」として氏名を公表、その理由を「改正少年法の趣旨と付帯決議の内容を踏まえ、重大事案であることなどから諸般の事情を考慮した」と説明した。
今後は公判前整理手続きを経て、裁判員裁判で審理される見通しだ。
この事件では少年3人(うち1人はブラジル国籍のB)が監禁などで、フィリピン国籍の女A(19)が証拠隠滅の非行事実で家裁送致され、家裁浜松支部は少年3人を第1種少年院送致、女を保護観察の処分とした。
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互いを「ブラザー」「ファミリー」と呼んだ
集英社オンラインでは事件を♯1から♯5までで詳報しており、この中で被害者の斉藤さんや堀内、ジンロ両被告、少年院送致された少年らがAのアパートの部屋をたまり場にしていたことも報じた。
事件当日のトラブルも、このアパートが「発火点」だった。斉藤さんの“先輩”にあたる友人は取材にこう答えていた。
「宇川は日本人のコミュニティとは別に、浜松周辺の外国人やハーフのグループとの繋がりもあって、今回“やった”のはそっち側の連中ですよ。多くがフィリピンやブラジルの子で年齢層も下は14歳から上は23~24歳くらいとバラバラでした。
宇川は日中から夜にかけては街で遊ぶ日本人の仲間たちとともにいて、夜中になると外国人コミュニティ側にいく。それで暇なとき短期のバイトをする生活をしていた。俺も何回か“そっち側”に遊びにいったことがあるんだけど、皆、日本語はペラペラ。家庭が複雑で家に居場所がない子も多くて、独特なコミュニティでした」
堀内被告は日本人の父とフィリピン人の母を持つハーフで、フィリピン国籍のジンロ被告とはお互いを「ブラザー」と呼び合い、斉藤さんを含めた仲間たちを「ファミリー」とも呼んでいたという。
Aとブラジル人のBは彼女彼氏の関係だったようだ。そして事件が起こったのはこんな些細な出来事が発端だった。
「この日はもっとたくさんの人数の男女が集まって、みんなでAちゃんの家に泊まっていた。で、朝起きてから宇川がBのバイクでどこか遊びに行って、帰ってきたときにバイクを倒しちゃったんだよ。それでBともう一人と宇川とで取っ組み合いが始まったの。それをAちゃんが止めに入ったの。
宇川も周りが見えてなかったんだと思うけど、仲裁に入ったAちゃんにも手をあげちゃったんだよね。それにBがキレだして、なぜか堀内先輩とジンロ先輩が登場して、関係ないのに『女に手をあげんのかよ』ってマジギレして、宇川を車のトランクに押し込んだんだよ」
結果は、最悪なことになった。その事件から10ヶ月後の12月、堀内被告の自宅玄関にはクリスマスの飾りがつけてあった。記者の鳴らしたインターホンに出た父親と思われる男性は言葉少なにこう答えるだけだった。
「弁護士さんにすべてお任せしてまして私から話すことは何もありません。会ったかどうかも、答えるつもりもないので…」