「やめへんから」徳島退団の柿谷曜一朗は現役続行を明言。南雄太の引退試合で貴重な体験「憧れを抱いてもらえるように頑張らなアカン」

 日本サッカー界のレジェンド、カズや中村俊輔、小野伸二といった豪華メンバーが一堂に会した12月21日の南雄太の引退試合。そこに参加した現役選手の1人が柿谷曜一朗だった。

「雄太君とは同じチームでやったことはないし、日本代表でも被ってない。でもいろんな人を通して接点があって、すごく良くしてもらっているんです。今回もこうやって呼んでもらって、ホンマに嬉しかった」と笑顔の柿谷。試合では、松井大輔の左クロスに豪快に飛び込んでゴールを決めるなど、現役選手らしいキレのある動きを随所に見せつけた。

「俊さんとか(中村)憲剛さんとか、自分が憧れた上の世代の人たちとプレーするだけで、『俺もこういう人たちみたいに、憧れを抱いてもらえるように頑張らなアカンな』って思いますね。サッカー選手をやっていると、どうしても『仕事』『楽しくない』と思ってしまう部分があるけど、こういう場所に来ると純粋に楽しめる。貴重な体験をさせてもらいました」

 柿谷がこんな話をするのも、今季限りで退団した徳島ヴォルティスでの不完全燃焼感が非常に大きいのだろう。

 彼が12年ぶりの徳島復帰を決めたのは、ちょうど2年前。まだ若手だった2009~11年にレンタルで赴き、自身を再生させてくれたクラブに恩返しをしたいという気持ちが強かったからだ。

「ベテランとしてJ1昇格へ導く」という固い決意を胸に、2023年はベニャート・ラバイン監督体制で始動した。ところが、徳島は序盤から予期せぬ低迷を強いられ、8月に指揮官は契約を解除される。
 
 後を引き継いだのは、吉田達磨監督。柿谷は継続起用され、シーズン7ゴールを挙げたが、チームは15位でフィニッシュ。不本意な成績だったのは確かだろう。

 吉田体制継続で迎えた2024年。徳島はまたもスタートダッシュに失敗し、3月末に指揮官更迭という大ナタが振るわれた。その後、同年からヘッドコーチを務めていた増田功作監督が昇格。立て直しを図り、最終的には8位まで浮上したが、チームの成績とは対照的に柿谷の出番は減少していく。今季終盤はピッチに立てない日々が続き、リーグ戦の得点はゼロ。自らの力不足を感じることになった。

「この1年はホンマにしんどかった。何とかJ3に落ちずにみんなで戦えたことは良かったけど、『徳島のために』と粉砕覚悟で行った自分はうまくいかなかった。『俺は徳島に必要なかったな』と改めて思いました…。

 夏に岩尾(憲)君が帰ってきて、来年は8番をつけてもう一回、強い徳島を取り戻すと思うから、僕にできなかったことを頑張ってやってもらいたいですね」と、自らの思いを岩尾らに託したという。

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 チームを離れる苦渋の決断を下した柿谷。そこで気になるのは、今後の身の振り方だ。

「来季の行き先? まだ全然決まってない。毎日、携帯が鳴るのを待ってるところやから(笑)。でもプレーする場所があれば、まだまだ頑張りますよ。やめへんから」と本人は現役続行を明言。現時点ではオファー待ちの状況だと明かした。

 長くセレッソ大阪で共闘してきた清武弘嗣が故郷の大分トリニータへの帰還を決め、山口蛍(神戸)もV・ファーレン長崎への移籍が有力視されるなど、同世代の面々たちはカテゴリーを落としても、自身が活躍できる場所を懸命に探そうとしている。

 その一方で、2017年のU-17ワールドカップでともに戦った端戸仁(鹿児島)のように引退を選ぶ選手もいる。1月3日に35歳の誕生日を迎える柿谷にとっても、ピッチを去る仲間の姿は他人事ではない。だからこそ、次に行く先では完全燃焼したいという気持ちはひと際、強いはずだ。
 
 振り返ってみれば、10代の頃から天才と言われた柿谷のキャリアは紆余曲折の連続だった。異彩を放ったのは、J1で2年連続二桁ゴールをマークしたC大阪時代の2012・13年くらいで、バーゼル、C大阪、名古屋グランパス、徳島と常に壁にぶつかり、苦しんできた印象が強い。

 それでも彼は生粋のサッカー小僧。その喜びを南の引退試合で再認識できたのはポジティブだろう。30代後半になろうという今、心からプレーを楽しめる場所を見出してほしい。そこで結果もついてきて、ベテランらしい存在感を示せれば理想的。

 35歳・柿谷曜一朗の新たなるチャレンジの場はどこになるのか…。朗報を待ちたいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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