2024年限りでスーパーGTから引退したロニー・クインタレッリは、GT500クラスで最多となる4度のチャンピオンに輝いた、文字通りのレジェンドだ。クインタレッリがこれほどの成功を収めた理由を探るべく、彼と長年に渡って関係を築いてきたミシュランを訪ねた。
クインタレッリの4度の王座は、全てミシュランタイヤを履いて達成したものだった。2011年と2012年には、MOLAでシリーズを連覇。翌2013年にはクインタレッリと柳田、ミシュランというパッケージがNISMOへと移ると、柳田に代わって松田次生が加入した2014年から再びGT500を連覇した。
以来、GT500のタイヤ供給を休止する2023年まで10年以上に渡ってクインタレッリと共闘してきたミシュラン。彼らとしても、クインタレッリの“真面目さ”がタイヤ開発の加速、そしてレースでの成功に繋がったと考えている。
小田島広明モータースポーツダイレクターは、クインタレッリに関する印象深い出来事についてこう語った。
「絶対的な速さはもちろんあると思いますが、フィジカルトレーニングで自分を追い込んで、アスリートとして徹底的に体づくりをしていましたね」
「タイヤのデグラデーション(性能劣化)などもある中で、自分の担当スティントの最後までベストなパフォーマンスを引き出すためには、特にGT500ではフィジカルが重要になります。ただ、フィジカル面が厳しくなってタイムに影響したということは、彼の場合ほとんどありませんでした。そのくらい追い込んでいるんですよね」
「彼はワインが好きなのですが、シーズン中に食事に行っても絶対(アルコールを)飲まないんです。開幕前のウインターテストの頃から、最終戦が終わるまで絶対飲まない。なかなかできないと思います。レースウィーク中の食事も、なるべく早く熱量(エネルギー)に変わるような消化の良いものしか摂りません」
「物事に対して、自分自身のことも含めてストイックに臨むという意味では、人間的にも尊敬できると思います」
また小田島ダイレクターは、クインタレッリがミシュランのタイヤ開発に大いに貢献した部分を次のように挙げた。
「タイヤ側から見ると、レース以上に特に印象深いのがウインターテストです」
「タイヤメーカーとしては、(直前のシーズンでの)振り返りをベースにしたタイヤや、翌年に進みたい開発の方向性を基にしたものや、すぐには使えないけども将来的に投入したい新しい技術のもの……色々なものを(テストに)投入します。それがどの系列でどうなっているかは、種類も多いので結構複雑です」
「ウインターテストはシーズン中のような持ち込みセット数の制限もないので、特にGT500の場合はかなりのセット数になります。ただ彼はそのひとつひとつを記憶していますし、ノートをとって記録しています。ですから、それらのタイヤがどういう風に使われて、自分として(当時の印象が)こうだったというものを、全て把握しているんです」
「ですから、例えばセパンのテストでうちの設計部門の人間からフランスから来た時も、(クインタレッリは)タイヤについてしっかり理解しているので、『ここが良いところだね』『ここは直すべきだね』という話がすぐに出てくるんですよ。そういったキャッチボールがとても早いです」
やはり良いタイヤを開発するためには、積み重ねが重要。だからこそ、エンジニアと対等な知識量で、尚且つドライバーにしか分からない知見も踏まえながらコミュニケーションを取れるクインタレッリの存在は、ミシュランの成功の一助になったようだ。