人気ドラマ「メディア王~華麗なる一族~」で一族のドン、ローガン・ロイの再婚相手の次男で、未熟で無責任なローマン・ロイを演じるキーラン・カルキンは、シリーズのシーズン4でついに、第81回ゴールデン・グローブ賞テレビドラマ部門の主演男優賞を受賞。それ以前は助演賞扱いだったので、ここ数年、キーランが演じるローマン役に対する期待値の高さが想像できる。
第81回ゴールデン・グローブ賞テレビドラマ部門の主演男優賞を受賞した「メディア王~華麗なる一族~」 / [c]Everett Collection/AFLO
共演者からの評価も高い。ローガンを演じるブライアン・コックスはキーランについて、「こんなにも臨機応変な感覚を持った若い俳優をほかには知らない」と絶賛。そして、キーランは『リアル・ペイン~心の旅~』(2025年1月31日公開)で第82回ゴールデン・グローブ賞の映画部門の助演男優賞候補に挙がり、部門は異なるが2年連続で栄冠を手にするかもしれない。6人のベテランと新人が賞を争うなか、キーランは『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』(公開中)のデンゼル・ワシントンと好勝負を展開している。
情熱的でチャーミング、自由奔放で人を魅了するが、どこか危うさを併せ持つベンジー(『リアル・ペイン~心の旅~』) / [c]2024 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
■ついて回る“天才子役、マコーレー・カルキンの弟”という十字架…
キーランについて回るのは、“天才子役マコーレー・カルキンの弟”という十字架みたいな形容詞だ。しかし、元舞台俳優の父親クリストファーと道路交通管制官だった母親パトリシアとの間には、2人のほかに上からシェーン、ダコタ、マコーレーとキーランを挟んで、クイン、クリスチャン、ロリーと5人の兄妹がいて、キーランだけでなく、みなが幼くして名声を手にしたマコーレーの影響を受けながら幼少期を過ごした。
キーランと母親のパトリシアは良好な関係を続けているが、両親が別居してからは父親のクリストファーとはいまも連絡を取っていないという。その背景には、『ホーム・アローン』(90)でマコーレーが子役初の100万ドルスターに躍り出たのを機に、クリストファーが父親の立場を利用してショービズ界に復帰し、息子の利権を管理するようになったこともあっただろう。両親が自分の親権をめぐって対立する姿を見て深く失望したマコーレーが告訴に踏み切ったのは、当時、彼がまだ14歳の頃だった。
【写真を見る】天性の卓越した演技力を持ち、“マコーレー・カルキンの弟”という十字架を下ろしつつあるキーラン・カルキン / [c]Everett Collection/AFLO
■『17歳の処方箋』&「メディア王~華麗なる一族~」で難役を「ただなんとなく」演じ切る!?
そんな特殊な家庭環境の下、キーランは『ホーム・アローン』と『ホーム・アローン2』(92)で主人公の従兄弟を演じて兄と同じ道を歩み始める。潮目が変わったのは『17歳の処方箋』(02)。同作で裕福な家庭で育ちながら偽善的な周囲の人々に反発する青年の葛藤を演じたキーランは、第60回ゴールデン・グローブ賞の主演男優賞候補となり、俄然、その演技力にスポットが当たることに。
キーランがゴールデン・グローブ賞の主演男優賞候補になった『17歳の処方箋』 / [c]Everett Collection/AFLO
映画批評家のロジャー・エバートは、「カルキンは不満のなかで育てられた、恵まれた少年の心理を見事に演じている」と称賛を惜しまなかった。キーランの演技力は兄譲りなのか、それ以上なのか、もしくはまったく異なる資質なのか、判断に窮するところだが、本人は「技術的な訓練はいっさい受けていないし、ただ、なんとなくやってきて、それを続けてきたら、ああキャリアができた。そんな感じ」と自分を分析している。
裕福な家庭で育ちながら偽善的な周囲の人々に反発する青年の葛藤を演じた(『17歳の処方箋』) / [c]Everett Collection/AFLO
劇中でローマン自身が認めているように、「メディア王~」でキーランが演じる一族のキーパーソンは境界性人格障害にカテゴライズされるらしい。そんな難役を「ただなんとなくやっている」のだとしたら、俳優として末恐ろしくはないだろうか。お気づきのように、すでに彼の頭の上からは“マコーレーの弟”という形容は完全に消滅し、カルキン一家を代表する存在になったわけだ。
未熟で無責任なローマン・ロイを演じてきた(「メディア王~華麗なる一族~」) / [c]Everett Collection/AFLO
■ゴールデン・グローブ賞はもちろん、アカデミー賞でも注目される存在に
『リアル・ペイン~』でキーランが演じるベンジーは、ジェシー・アイゼンバーグ扮する主人公、デヴィッドとは長らく疎遠だった従兄弟で、神経質なデヴィッドとは真逆の気楽で社交的な性格の持ち主。デヴィッドにとって、不適切発言も我慢しないベンジーとの根比べのような旅が、実は映画の主題だとわかる後半で、キーランの自由奔放な演技が映画には必要不可欠だとわかる。ゴールデン・グローブ賞はもちろん、続くアカデミー賞もかなり有力なのではないだろうか。
キーランの自由奔放な演技が映画にとって必要不可欠になっている(『リアル・ペイン~心の旅~』) / [c]2024 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
文/清藤秀人