黒田氏が太鼓判を押すBCガイドへ
佐藤は、2018年3月年にスキーガイドステージⅡを取得し、バックカントリーガイドとして白馬で活動をはじめた。
「二木港雪さんの『ポートスノー』、高橋守さんの『パワーゾーン』で5、6年働いていました。当然、いろいろなお客さんがいらっしゃいます。事前にヒヤリングするとはいえ、お客さんの一方的な情報だけで、雪山へ一緒に入ることにリスクを感じていました」
『パワーゾーン』を離れてからは、知り合いの紹介など顔が見える人だけを雪山へ案内してきた。公募はせずに、一見さんはお断り。安全マージンを取ることに徹したのだ。しかし、国際山岳ガイドの黒田誠さんに、独立して万人に扉を開くことを勧められた。
「ありがたいことに、黒田さんは、スキーしかしてこなかった僕に山での所作を教えてくれたり、黒田さんのお客さんを僕のレッスンへ紹介してくれたりと、お世話になっている大先輩です。心強いあと押しとなり、今シーズンからホームページを作って、会社を立ち上げました」
佐藤の背中を押した黒田さんは、彼をこう評価する。
「佐藤さんは、スキーが上手いとか、体力があるとか、ガイド以前の要素について、まったく問題がないのは当たり前として、人柄が良いのがガイド向きだと思います。メディアでチヤホヤされるタイプではないと思いますが、物事がわかっているお客さまには、ちゃんと評価していただけるガイドになると思いました。
また、リスクじゃなくて、安全が売り物だとわかっている点も好感が持てます。凄いところを案内するのじゃなく、楽しいところにお客さまを連れて行くということがわかっているのだと思います」
黒田さんといえば、国際自然環境アウトドア専門学校の講師や、ガイド資格の検定員として若手育成に貢献している国際ガイドである。これまで何百人というガイド志望者を見てきた黒田さんが、太鼓判を押す。
「中古で買った白馬のおうちは、近所から『たびや』と呼ばれていまして、そのままガイドの屋号は『たびや』にしました。漢字で『拓比屋』です」
山を拓いて、人と比べないオリジナルのスキー屋さんという意味ですね?と尋ねたら、「いや、AIに聞いたらこの『拓比屋』はどうですか?と言われたもんで(笑)」と佐藤は笑う。
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初中級者に絞って雪山の滑り方をしっかり教えていきたい
前述したように『拓比屋』では、一見さんのお客さんには、まず半日の「初めましてツアー」に参加してもらう。そこで、技量を見極めて、次に参加してもらうクラスを特定するという。
「そうしないと、自分の身も守れませんし、お客さん自身も苦労すると思います。正しいステップを踏むことが大切。間をすっ飛ばしてしまっては、技術も知識も中途半端なものになってしまいます。白馬は上級者やエキスパートツアーをやっている会社が多いんですけど、僕は初級者から中級者に絞って雪山の滑り方をしっかり教えていきたい。実際、中級者ってかなり幅が広くて、壁にぶち当たっている人が多いはず。最終的には、エキスパートになれずにいる中級者をプッシュできるような立ち位置でありたいと思います」
お客さんの体力、技術、性格を見極め、その人に合った指導方法となると、どうしても少人数精鋭となってしまう。
「ひとりでガイドするとなると最大で3人ですね。4人とか5人になって、不安だなってときは、すぐにサブガイドをつけるようにします」
長い間、八方尾根でインストラクターをしていたバックボーンがあるから、八方を主なガイドエリアにしていると思いきや、メインは小谷村の栂池高原だという。
「栂池は、ゴンドラで標高を稼ぐことができて、いろいろな斜面が選べます。方角、長さ、斜度。選択肢がいっぱいあります。歩きながらいろいろな斜面の雪質をチェックし、その日の情報を収集して、プランを描くことができます。白馬は飽きたという常連さんを志賀高原へ連れて行くこともありますね。降った日の志賀はすばらしい」
20、30代の多感な時期を過ごし、通い慣れた人気の八方尾根には、なぜ行かないのか。
「遊びなら行くけど、お客さんを連れては滅多に行きません。あれだけ多くのスキーヤーが入っている大きな斜面に、いきなり滑り込むのは、あまりにもリスキーです。ガイドもスキーヤーもいっぱいいて、自分の判断が鈍ったら嫌だなあというのもあります。自分にバイアスがかかって、変な判断をしちゃって事故が起きても困るので。そういう意味でも人が多いところは避けます。お客さんは、余暇でリフレッシュしに来ているから、できるだけ静かな山域へ案内したい。人数も少人数。10人も同じ斜面を滑ったら滑るところがなくなってしまいますよ」
ガイド当日、朝起きてから現場へ行くまでのルーティンは欠かせない日課だ。そして、お客さんへの集合場所の連絡は、できれば当日の朝にやらせてくださいとお願いしている。
「朝、暗いうちから起きて、家の前を除雪機で雪かきしながら、積雪量や雪の水分量などをチェックします。それから、パソコンの前へ移動してパウダーリサーチで降雪量をチェックし、スキー場や国道のライブカメラを見て、白馬八方尾根スキー場の雪崩管理責任者である森山建吾くんが風速計をいろんなところに付けてくれているんで、そのデータを確認して(今季から一般公開される予定)、入山するエリアを決めます。それからようやくお客さんへ集合場所の連絡をするという流れですね」
雪が安定したザラメの春になると、移動距離が伸びて、栂池から尾根を越え、沢へ。そして、ホームマウンテンを飛び出すことも。
「北信の鍋倉山や黒姫山、佐渡山などもいいですよね。もちろん4月に入れば、立山にも上がります」