M-1グランプリ2024の決勝戦が12月22日に放送され、記念すべき第20回大会で令和ロマン(髙比良くるま、松井ケムリ)が史上初の連覇を果たした。前人未到の快挙にSNS上では、今大会を象徴するような言葉が数多くあがっている。
令和ロマン圧巻の連覇の舞台裏
大会前から大きな注目を集めていた今回のM-1。なんといっても、昨年、圧倒的に不利と言われるトップバッターから優勝を果たした令和ロマンの連覇に焦点が当たるなか、彼らの出番は今年もまさかのトップバッターだった。
令和ロマンが登場すると会場がどよめき、緊張感の漂う重い空気をもろともせず、いきなり高得点を叩き出した。圧巻の漫才に視聴者の多くが「連覇が決まった」と思ったことだろう。
実は今回決勝戦に出場した全9組のうち、準決勝とネタを変更してきたコンビが2組だけいた。
それが、令和ロマンとエバースだった。
当然ながら、M-1に出場するコンビの“最強ネタ”は、最難関ともいえる準決勝で披露したネタだ。決勝戦のファーストステージでは、そのネタを披露するのが定石となっている。だが令和ロマンは、準決勝のネタを“温存”するようなかたちで、別のネタを披露。ファイナルステージにまで駒を進めた後、満を持して準決勝で披露したネタを演じた。
とはいえ、これが温存ではなく、“戦略”だった可能性もある。令和ロマンは1本目に客席に語り掛けるタイプのしゃべくり漫才を披露していたが、実はこれが、昨年にボケの髙比良くるまが明かしていた“戦略”と同じなのだ。
まだ会場が温まりきっていないときには、「漫才コントよりも、客席に語り掛けるタイプの漫才のほうがいい」と分析していたように、まさに今年も、その法則にのっとったネタであった。
そしてファイナルステージでは、マイムをふんだんに取り入れた漫才コントを披露。一本のきれいなストーリーの中で、たくさんの人物が演じ分け、最後のオチにまでもっていくのにかかった時間は制限時間の4分。濃密すぎる4分間だった。
今大会、点数が伸びなかったコンビに対する審査員の批評として、展開のなさや、盛り上がりに欠けるといった指摘があったが、令和ロマンの2本目はまさにそうした指摘をすべてカバーした完璧なネタだった。
「面白い」を超えて、「圧巻」という言葉が当てはまるような令和ロマンの漫才。SNSで視聴者の反応を見ても、そういった言葉が多く並んでいる。
〈令和ロマンまじで圧巻だったな くるまの演技が上手すぎ〉
〈令和ロマン、すごかったな~。圧巻。 映画見てるようだった〉
〈令和ロマン凄すぎる〜 他のコンビも面白かったけど場を掴むうまさが圧巻過ぎた〉
〈連覇達成した令和ロマンさんは本当に圧巻でした… 1本目とあんなに毛色変えてそれでもおもろいのは引き出しが多すぎるのよ〉
「笑った」「面白かった」というコメントももちろんあるが、それ以上に「すごい」「うまい」といった印象が強かったのだろう。
また今回の大会といえば、審査員がガラリと変わり、M-1優勝者を中心とする漫才師だけになったことも大きな注目ポイントだった。
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大会後に審査員批判のない大会
審査員を漫才師だけにしてしまうのは、あまりにも専門的な大会になりすぎるため、落語家など別の分野の芸人を入れるべきだという意見もあがっていた。令和ロマンが優勝した要因に関しては、M-1という大会が、以前よりも漫才のコンクールとして“競技化”したことも影響しているかもしれない。
とはいえ、この審査員に関して今年は、大会前にさまざまな賛否の声があったが、終わってみれば“成功”だったといえそうだ。
M-1審査員の象徴的存在でもある松本人志不在の今大会、審査員は例年の7人制ではなく、9人制に変更された。一人一人の負担が減るためか、番組冒頭で博多大吉は「思い切った審査ができる」と言っていたが、実際にそれが功を奏し、それぞれが点数の幅をしっかりつけられた審査だった。
また、審査員の大御所不在も物議をかもしたが、これも結果的にはいい方向に転がった。これまでのM-1は終わってみれば、審査員の得点や審査コメントが一番話題を集めるといったことが多かったが、今大会ではそういった場面はなかった。
M-1という大会で、出場者にしっかりとフォーカスが当たり、審査員はある意味で裏方に徹するというかたちがとれていたのだ。これにもネット上で声があがっている。
〈今年は審査員のストレス無かった… 一番審査員良かった〉
〈審査員が目立ってないことは、ほんとすごいこと 審査員全員ありがとう〉
〈審査員が目立たないくらい今大会良かったです〉
さらに、優勝直後の優勝者コメントでは、くるまが「次は審査員をやりたいです!」と宣言。お笑い分析力が高く歴代チャンピオンの中でも「一番現役に近い芸人」のくるまが審査員となれば、大会はさらに盛り上がるだろう。
第20回大会という節目を迎えたM-1グランプリ。松本人志不在の中でこれだけ盛り上がる大会になったことで、M-1グランプリがこれからも続いていく大会になる可能性を改めて感じた。
文/ライター神山