2024年度(1月~12月)に反響の大きかったビジネス記事ベスト5をお届けする。第5位は、大型総合スーパーの相次ぐ大量閉店の理由を解説した記事だった(初公開日:2024年2月21日)。セブン&アイ・ホールディングスが、北海道や東北、信越エリアを中心に総合スーパー「イトーヨーカドー」17店舗を閉店すると2月9日に発表した。今後は都市部を中心とした店舗展開を行い、収益性を高める意向だ。しかし、スーパーマーケットを取り巻く環境は大きく変化しており、出店場所やチェーンメリットだけで生き残るのは難しい時代に入っている。
魅力を失う繁華街の大型総合スーパー
都内を中心に店舗展開するイトーヨーカドーは、大井町や赤羽、上板橋、武蔵境などの駅前繁華街に大型店を出店している。衣食住のアイテムを総合的に取り揃えており、この業態は総合スーパーのカテゴリで親しまれてきた。
イトーヨーカドーが、洋品店中心の店内に食品売場を導入し、総合スーパーへと舵を切ったのが1966年。人口増による高度経済成長期の旺盛な需要を取り込んだ業態だった。そこに創立者・伊藤雅俊氏がアメリカ視察で得たチェーン政策を会社経営に盛り込んで店舗運営の効率化を図る。こうしてイトーヨーカドーは、現在の小売チェーンの元祖を築いた。
チェーンストアは本部が仕入れを行い、マニュアルに沿った店舗運営ができるため、経営の効率化を図れるという最大のメリットがあった。品ぞろえや価格、サービスにばらつきがなく、消費者は日本全国どの店舗でも同じ満足度を得られるという利点がある。
イトーヨーカドーは、「そこに行けば何でもそろう」という消費者意識に支えられていた。しかし、人口減による需要縮小と高齢化による消費意欲の減退というマクロ要因に加え、ユニクロやニトリなどのカテゴリー特化型店舗の台頭、ダイソーなどの低価格小売店が乱立。
小売店を取り巻く環境が劇的に変化した結果、イトーヨーカドーは集客力を失って、生鮮食料品など一部の売場に人が集中することになった。総合スーパーである理由を失ったのだ。
セブン&アイ・ホールディングスのスーパーストア事業、2023年2月期の売上高は1兆4491億円、営業利益は121億円だった。営業利益率は0.8%である。2023年3-11月のこの事業の営業利益率は0.2%と、赤字ギリギリの水準まで落ち込んでいる。
大型店は人件費が重くなりがちだが、それを支えるだけの収益力を得られなくなっている。この現象は何もイトーヨーカドーだけではなく、「イオン」も同様である。
ただし、イオンは2024年2月期が予想通りに着地をすると、3期連続の増収となる。営業利益に至っては、3期連続の2桁増益を達成する見込みだ。会社全体の業績は堅調だが、スーパーマーケットやショッピングモールに支えられているのが実情だ。総合スーパーはもはや赤字なのである。
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地域特性に合わせた売り場づくりがカギ
イオンの総合スーパーであるGMS事業は、2023年3-11月に12億円の営業損失を計上した。
イオンのGMS事業は、2021年2月期から2期連続の営業赤字を出した。2023年2月期に通期の営業黒字化を果たしたが、今期は第3四半期までの累計で赤字となっている。
「ダイエー」、「西友」、「長崎屋」など、一時隆盛を誇った総合スーパーが経営破綻の憂き目を見たケースは多い。イオンとイトーヨーカドーは、いまや別事業が総合スーパーを支えている状態だ。この業態の経営がいかに難しいかを如実に表している。
しかし、どこもかしこも苦戦しているわけではない。業績堅調なのが、ドン・キホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が、2019年に買収した総合スーパーの「ユニー」だ。
この会社は「アピタ」や「ピアゴ」を運営している。2023年7-12月のGMS事業の売上高は2362億円、営業利益は192億円だった。営業利益率は8.1%にも上る。
PPIHがユニーを連結子会社化した直後の2019年6月期の営業利益率は4.7%だった。2023年6月期は5.4%である。インフレという逆風下においても、営業利益率を高めることに成功したのだ。