東京・上野の繁華街で手広く焼肉店などを経営していた中国延辺朝鮮族自治州出身の夫婦が、栃木県那須町の山あいで惨殺体で見つかった事件は、当時、まもなくGWという高揚感に冷水を浴びせるように全国を震撼させた。被害者や容疑者たちのバックグラウンド、闇バイトを彷彿とさせる手口など世相を凝縮しきった凶悪事件は、仲介役を担った元サッカー少年の自首が早期解決につながった。
東京地検は7月中に全員を起訴
4月16日早朝、那須町伊王野の林道脇の河川敷で男女の遺体が燃えているのを通行人が発見したのが始まりだった。
2人とも両手を結束バンドで縛られ、頭部をビニール袋と粘着テープでぐるぐる巻きにされ、仰向けにX字に重ねられていた。殺されたのは、飲食チェーンを展開する「サンエイ商事」経営者の宝島龍太郎さん(事件当時55)と妻の幸子さん(同56)だった。
この事件で栃木県警と警視庁は合同捜査本部を設置、宝島夫妻の長女の真奈美(逮捕当時31)、その内縁の夫でサンエイ商事の幹部社員の関根誠端(同32)、殺害現場の空き物件を管理していた不動産業者の前田亮(同36)、計画実行の指示役である客引きの佐々木光(同28)、実行犯をスカウトしたり犯行用の車の提供をしたりした仲介役の平山綾拳(同25)、殺害実行犯の元俳優・若山耀人(同20)と姜光紀(同21)の計7容疑者を殺人、死体遺棄、死体損壊の容疑で逮捕。東京地検は7月中に全員を起訴した。
グループの数店舗の経営を任されていた関根被告が経営方針を巡って夫妻とトラブルになり、殺害を計画。佐々木被告は多額の報酬と引き換えに夫婦の殺害を請け負い、これを弟分の平山被告に下ろしてクラブで知り合った若者2人を実行役として引き入れ、まれに見る猟奇的な事件を起こした。
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平山被告の母親は「いまだにショックです」
一見複雑で凶悪な事件を早期解決に導いたのは、事件翌日の朝、殺害現場に近い大崎署五反田駅前交番に「事件に関わったかもしれない」と出頭してきた平山被告の存在だった。
事件当時は埼玉県越谷市在住の建設業だった平山被告は約180センチの長身で体格もよく、渋谷のクラブでは年下の常連客らに慕われる存在でもあった。
出身は東京都江東区で、実家近くに住む男性は、当時の取材に「小中学校時代は一緒にサッカーに打ち込んでいました。レギュラー入りしていたし活発でいい子だったという印象しかありません」と語り、中学の後輩の男性も「明るく誰とでも仲が良く、悪かった人たちとも親しくしていましたが、平山さん自身が悪かったという印象はなかったですね。たしかサッカーも外部のクラブチームに入っていたと思います。ほんとサッカーのイメージしかないんですよ」と証言した。
そんな平山被告は、出頭後は佐々木被告のことを「アニキ」と呼んで怖がり、数日間は名前も明らかにしなかった。しかし、次第に自分が関与した事件の重大さを悟ったのだろう、重要な供述で合同捜査本部の調べの進展を助け、事件解明へとつながった。
「当時、事件は遺体が見つかった栃木県警の主導で動いており、まったく事件とは関係ない、宝島さんとトラブルにあった飲食店を“ホンボシ”とみていた。事件が警視庁主導となり平山から次々と関係先が割れ、関根被告にたどり着いた。彼が自首しなければ、海外逃亡した者もいたでしょう」(社会部記者)
事件から約8ヶ月。拘置中の平山被告は何を思い、どう過ごしているのか。加害者の母親に文面取材が叶ったので、以下にその概要を記す。
事件に自分の息子が関与していたことについて「いまだにショックです」とした母親は、平山被告の子供時代については「特別、変わったところはなく、人を疑わない性格でした」と語り、事件前に犯行につながるような悩みやトラブルがなかったかどうかは「思い当たりません」と述べた。
警察からの連絡で事件のことを知ったといい、それ以来「1日も事件のことを考えない日はありません。どうすればよかったのかなど、いろいろ思い巡らします」と語った。
平山被告は家族との接見禁止も解除されておらず、面会や手紙のやり取りもまだできていないという。もし接見できるようになったらどんな言葉をかけてやりたいかという質問には、こう答えた。
「想像ができない。わからない」
被害者だけでなく、自分を産み育ててくれた母親をも深く傷つけた平山被告。捜査段階で活躍を見せた男は、公判でも鍵を握る存在になることだろう。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班