「罵詈雑言もデマも何でもあり」斎藤知事、ドイツ極右政党、トランプ…ポピュリズムが吹き荒れた2024年。騙されないための唯一の処方箋とは?

ここ最近、SNSが政治に与える影響が議論され始めてきたが、それは日本だけの問題ではない。2024年はポピュリズム(大衆からの人気を得ることを第一とする政治思想や活動)が世界各地でその勢力を拡大し、政治の地図を書き換える年となった。背景には、加速する一方の経済格差や地域間格差、移民の増加や多文化主義の進展にともなう文化的アイデンティの揺らぎ、SNSを中心とした情報環境の変化……等々、複合的な要因があるとされている。分断の背景を国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏が解説する。

反エリート主義型のポピュリズム

各国、各地域で表出しているポピュリズムの形態は同じとは限らない。しかし、先進国における昨今のポピュリズムは、いずれも反エリート主義と結びつく傾向が強い。そう指摘するのは、国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏だ。

モーリー氏(以下同)「たとえばドイツ。今年、極右政党『AfD(ドイツのための選択肢)』が大躍進しましたが、その背景には、社会的、経済的、政治的要因がそれぞれ絡み合っています。

特に旧東ドイツ地域でAfDが強い支持を集めていますが、これは東西ドイツ統一後、30年以上が経過した今でも旧東側地域のインフラや経済が遅れていること。さらに文化的にも社会的にも“東ドイツ人”は西ドイツ側の人々にずっと見下される傾向があること。そうした構造的格差への抵抗、西側の支配階級層に対する反発も少なからずあったと見られています」

メルケル政権による100万人規模のシリア難民受け入れによる影響は、東側住民により重くのしかかり『自分たちの生活水準がさらに下がる』という強い不満を生むことになった。そんな“東ドイツ人”を、西ドイツ側の人たち、知識層は『不寛容でかわいそうな人たち』と見る向きもあったとも言われている。

「経済難でギリギリの生活を送る東側住民にとって、それは屈辱的な視線であったことでしょう。そうやって積み重ねられた負の感情が渦巻く中で、 “オレたちの代弁者”を装う政治家やデマゴーグが、既存政党への不満やエリート層への憤りを煽った。その結果が、ドイツ東部各州での州議会選挙におけるAfDの躍進に影響を与えました」

反エリート主義型のポピュリズムは、ドイツだけではなく欧州全体、アメリカ、さらに日本でも広がりを見せている。

政治家や官僚などの既存の権力構造に対する不信感が、新しい政治勢力の台頭を促す一方で、そこに付随する過激なメッセージが、社会の分断や対立をさらに深めている。

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既存の政治エリートによる圧力

「反エリート主義型ポピュリズムにはテンプレートがあります。もちろんそれぞれの国や地域で特有の“文脈”もあり、主張自体はまったく異なります。しかし、ポピュリズム的アプローチで既存政党に反発を覚える有権者の心をつかむ、という点においては非常に似通っている。

誤解を恐れず言うと、日本で言えば大阪維新の会の手法はAfDっぽい。そもそも大阪維新の会の台頭は、中央(東京)に対する地方の反発や、既存政治システムへの批判的態度と密接に関連しています。

ストレートに申しますと、大阪の有権者の中で、中央(≒東京)の支配階級層に対する反骨心…というより嫌悪に近い感情があると思っています。維新は、そんな大阪のローカルアイデンティティをテコに支持を集めている。その構造そのものは、ドイツ東部におけるAfD躍進を支えたそれとほぼ同じなんですよね」

この秋、兵庫県知事選で繰り広げられた“お祭り騒ぎ”もまた、同じ構造で捉えられるとモーリー氏。

同選挙は、前知事でもあった斎藤元彦氏がパワハラ疑惑などで不信任を受けて失職、再選を目指す形で行われたが、「既存の政治エリートによる圧力」として斎藤氏自身がこの問題を利用した側面がある。

斎藤陣営は「孤立無援」を強調しつつ、既存の政治体制に対する反発を前面に打ち出した。さらに支持者たちがマスメディアによる報道を『偏向的で不公平』と批判することで、有権者の間に『自分たちの声が正当に扱われていない』という感情を醸成し、連帯感を作り上げていった。

「もちろん斎藤氏に対するパワハラ疑惑を過剰に取り上げるなど、マスメディアの報道姿勢に問題がなかったわけではないでしょうが、マスメディアを巨悪化することで、『既存秩序を壊してやろう』という陣営側と有権者側の感情が見事に重なりました。

ネットやSNSを通じて拡散された斎藤陣営、ないしは斎藤氏を応援するアカウントの発信では、『斎藤さんは既得権益層に改革を阻まれた被害者だ』という前提に立ち、(新聞やテレビが報じない)センセーショナルな話題に踏み込み、『真実を暴く』というポーズを取った。“真実”を暴くためであれば、ルールを逸脱することや、お行儀悪く他者を罵ることすら許容されました」

洋の東西を問わず、反支配階級層運動において「行儀の悪さ」は許容され、むしろカリスマ性の一部として機能する傾向がある。

最大のスターはアメリカのドナルド・トランプ次期大統領であり、また彼を支える閣僚候補たちもその発言内容や行動は過激だ。