今季、平均得点を昨季の13.9点から23.9点へと一気にジャンプアップさせるなど、キャリア10年目にして覚醒しているノーマン・パウエル。カワイ・レナードが開幕から故障欠場を続けるロサンゼルス・クリッパーズにとって、彼の躍進は嬉しい誤算となっただろう。
そんなブレイク中のパウエルには、実はリーグ制覇の経験がある。キャリア4年目の2018-19シーズン、ベンチスタートのロールプレーヤーとしてトロント・ラプターズの球団初優勝の一員になっている。
その後、トレードでポートランド・トレイルブレイザーズに移籍して約2シーズンをプレーし、2021-22シーズン途中にトレードでクリッパーズへ加入。ベンチスタートのインスタントスコアラー役を担ったのち、今季開幕から先発入りし、チームトップの平均得点をマークしている。
2019年の優勝時、ラプターズにはカイル・ラウリー(現フィラデルフィア・セブンティシクサーズ)、パスカル・シアカム(現インディアナ・ペイサーズ)、フレッド・ヴァンブリート(現ヒューストン・ロケッツ)、マルク・ガソル(元メンフィス・グリズリーズほか)といった実力者たちがいたが、支配的な活躍を見せたレナードなしに優勝はなかったと言っていい。
21日に現地メディア『RG』へ公開されたインタビュー記事内で、パウエルはプレーオフを駆け抜けた当時についてこう回想している。
「運も必要になってくる。数年前、チャンピオンシップを勝ち獲った快進撃についてそう言ったことで批判を受けてきたけど、運も必要になるんだ。チームがすごく健康体にあって、(対戦相手が)ケガに見舞われること、それに素晴らしいシューターやスコアラーたちがいなくても大事な試合で爆発できることだね」
このシーズン、ラプターズはレナードがケガのマネジメントによってレギュラーシーズン82試合のうち60試合のみの出場だったものの、大事なプレーオフでは24試合にフル出場。平均30.5点、9.1リバウンド、3.9アシスト、1.7スティールと暴れ回ったほか、試合終盤には自らボールをコントロールしてミッドレンジジャンパーでリングを射抜き、何度もチームの窮地を救った。
NBAファイナルでは2連覇中のゴールデンステイト・ウォリアーズと対戦も、ケビン・デュラント(現フェニックス・サンズ)がケガのためわずか1試合しか出場できず。ベストメンバーを組むことができなかったこともあり、ラプターズが4勝2敗でシリーズを制した。
シクサーズとのカンファレンス・セミファイナル第7戦で、NBAの歴史に名を残すほどのスーパーショットが誕生したことも見逃せない。試合終了間際にジミー・バトラー(現マイアミ・ヒート)のレイアップで同点となるも、レナードがベン・シモンズ(現ブルックリン・ネッツ)を交わし、右コーナーからジョエル・エンビード越しにタフなプルアップショットを放つ。ボールは何度かリングを転がった末にネットをくぐり抜けて、劇的ブザービーターとなってラプターズの4勝3敗で決着した。
「フィリーで決めたカワイのショット。あれは信じられないものだった。あれを再現しようとしたら、まったく同じことが起こるのにいったいどれくらいの回数を重ねないといけないのか?それで僕は勝つために必要なことを学んだんだ。あのランで得た自信、2019年の優勝が自分の成長を助けてくれたとね」(パウエル)
パウエルとレナードの仲は良好で、パウエルはレナードのことを高校時代から知っており、母親同士も仲が良いという。今季のクリッパーズは両者だけでなくジェームズ・ハーデン、イビツァ・ズバッツ、デリック・ジョーンズJr.といった選手たちが在籍していて、パウエルは「今シーズンはチャンピオンシップを勝ち獲るためのものだ」と意気込んでいた。
NBAで優勝するためには、82試合のレギュラーシーズンをこなし、プレーオフでは4つのシリーズで相手チームよりも先に4勝しなくてはならないタフな道のりながら、パウエルの眼には2度目の優勝トロフィーを掲げるイメージがあるのだろう。
それまでに、レナ―ドのコンディションやクリッパーズのケミストリーがどこまで向上することができるのか。今後の戦いぶりに注目していきたい。
文●秋山裕之(フリーライター)
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