Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

水の世界を飛び出せる魚がいるようです。

カリブ海に浮かぶトリニダード島で最近、地上を15時間も長距離移動できる淡水魚が発見されたことがわかりました。

この発見は、動画配信サービスApple TV+の新シリーズとしてスタートした「The Secret Lives Of Animals(動物たちの秘密の生活)」の中で撮影されたものです。

しかし魚が地上で生きながらえるには呼吸をしなければなりません。

一体この魚はどうやって酸素を取り込んでいるのでしょうか?

「The Secret Lives Of Animals」の公式トレーラーはこちらです。(音量に注意して、ご視聴ください)ご注意ください。

目次

地上を15時間も移動できる魚「そんな所から呼吸するの⁈」酸素の取り込み方がスゴい

地上を15時間も移動できる魚

本シリーズのプロデューサーであるケヴィン・フラワーズ(Kevin Flowers)氏は、西インド諸島大学(UWI)の生物学者であるエイミー・ディーコン(Amy Deacon)氏に協力を依頼して、トリニダード島での調査遠征を行いました。

その中で、私たちの常識ではあり得ない驚くべき光景が目撃されます。

なんと水中にいるはずの魚が、地上の湿った枯れ木や岩場の上を飛び跳ねながら移動していたのです。

ディーコン氏によると、この魚は小川などに生息する「キリフィッシュ(killifish)」という小型の淡水魚の一種だといいます。

一見すると、魚が地上に飛び出すなんて自殺行為にしか思えません。

地上では呼吸のためのエラが機能せず、空気中に放り出されると、ほとんどの魚はわずか数分で命の危機に陥るからです。

ところがこの魚は何食わぬ顔で地上に居座り、尻尾で地面を蹴り上げてジャンプしながら移動していました。


キリフィッシュが飛んで移動する様子/ Credit: IFLScience(youtube, 2024)

動画内ではこの魚の正式な学名までは言及されていませんが、トリニダード島に分布するキリフィッシュとしては「マングローブ・キリフィッシュ(学名:Mangrove rivulus)」が知られています。

実際、マングローブ・キリフィッシュはこれまでの研究で、水中から飛び出して最大66日間を地上で過ごしたとの記録が報告されていました。

なので動画内で説明されている魚も、マングローブ・キリフィッシュだと思われます。

この魚は体長3センチ前後であり、ジャンプの際には自分のサイズの8倍の高さまで跳ね上がることが可能です。

また今回撮影された魚は自らの全長の約6000倍もの距離を移動し、15時間も地上に留まり続けていました。


マングローブ・キリフィッシュ/ Credit: en.wikipedia

移動の目的は、新たな本拠地を探すためです。

この魚は基本的には同じ淡水域で一生を過ごすのですが、資源をめぐる競争が激化したり、危険な天敵がやってきたりすると、地上に飛び出て、安全な淡水域を新たに探しに行くといいます。

しかし最も気になる点は「この魚がどうやって地上で呼吸をしているのか」ということでしょう。

その驚くべき秘密についてディーコン氏が教えてくれました。

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「そんな所から呼吸するの⁈」酸素の取り込み方がスゴい

エラは空気中では機能しないため、大半の魚は地上に放置されると酸素不足に陥って死んでしまいます。

しかしトリニダード島のキリフィッシュはそうなりません。

ディーコン氏によると、彼らは地上にいる間は「尻尾」を通して呼吸できるシステムを進化させたからだといいます。

本種の尻尾は他の魚たちに比べて、非常に薄く、細胞数個分の厚みしかありません。

そのため、皮膚表面のギリギリのところを血液が通っています。

本種の尻尾を顕微鏡で観察してみると、毛細血管の周りを赤血球がくるくる回転している様子がはっきり見えるという。

「空気と毛細血管を隔てる細胞が2〜3個しかないので、尻尾からでも酸素を取り込むことができるのです」とディーコン氏は説明しています。

つまり彼らは水中ではエラで呼吸し、地上では尻尾で呼吸する能力を手に入れた珍しい魚なのです。


地上では「尻尾」で呼吸できる/ Credit: IFLScience(youtube, 2024)

このようにApple TV+の新シリーズ「The Secret Lives Of Animals」は、私たちの多くが知らない動物たちの秘密の生態を教えてくれます。

プロデューサーのケヴィン・フラワーズ氏は「世界中の最高の科学者や専門家の協力があってこそのシリーズであり、彼らと一緒に仕事ができるのは本当に幸運なことです」と話しています。

このシリーズを見終わる頃には、自然界の生き物たちの見方が一変しているかもしれません。

こちらがトリニダード島のキリフィッシュを撮影した映像です。

参考文献

Tail-Breathing Killifish Can Travel 6,000 Times Their Body Length On Land
https://www.iflscience.com/tail-breathing-killifish-can-travel-6000-times-their-body-length-on-land-77201

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部