恒例となった必殺本の著者・高鳥都氏と必殺党・秋田英夫氏の対談、第4弾の後編です。最新刊『必殺シリーズ談義 仕掛けて仕損じなし』を題材に、気心の知れた両者の応酬が続きます。そして話題はグッズ展開にもおよび……。肩のこらない必殺談義、ぜひお楽しみください!

『必殺シリーズ談義 仕掛けて仕損じなし』

https://rittorsha.jp/items/24317414.html

著者:高鳥都

定価:3,300円(本体3,000円+税10%)

発行:立東舎

河原崎建三さん「どうして死神は……」

秋田 『新 必殺仕置人』からは仕置人組織「寅の会」で元締 虎の用心棒を務める「死神」を演じた河原崎建三さんがご登場。『新仕置人』の人気キャラクターだけあって、河原崎さんのインタビューはSNSでもかなりの反響がありました。

高鳥 河原崎さん、昨年出た『必殺仕置人大全』(かや書房)の刊行をよろこび、じっくり読んでくださっていたんです。「年齢的に忘れっぽくなっちゃって」と、事前に細かなメモを準備していただいたおかげで、かなり突っ込んだ部分までお伺いできました。

秋田 そういえば、山﨑努さんも『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』の取材を受ける以前、BSで放送していた『新 必殺仕置人』を観ていたなんてお話をされていましたし、近年は必殺シリーズ再放送(地上波、BS、CS、サブスク配信)で当時のキャスト・スタッフのみなさんがふたたび自分たちのお仕事をふりかえりやすい環境ができている感じです。

高鳥 当時の記憶を呼び覚ましてくれる下地があるのは、インタビューする側にとってありがたいですね。

秋田 河原崎さんのお話で、必殺ファン的にすごく共感したというか、演じているご本人はこんなことを思っていたのか……と感銘を受ける発言がありました。それは死神の最期を描いたファン感涙の傑作・第40話「愛情無用」のことで、河原崎さんは「死神の死に納得していない」と語っているんですよね。ファンとしてはいろいろな考えがあると思いますが、自分は役にかけた河原崎さんの強い思いを感じて、すごく嬉しかったんです。

高鳥 あの話は聞きながら興奮しました。

秋田 「愛情無用」で死神が命を絶ち、次の最終回「解散無用」で寅の会が崩壊する。この2回は連続ドラマを終わらせるため、ある意味唐突な展開を採用しているじゃないですか。あのまま『新仕置人』が第39話以降も続いて、たとえば『必殺仕事人』のように第84話までやったとしても、85、86話目にあの2本を入れるとキチンと最終回になるという。「終わり」のためのストーリーが用意されたわけですよね。河原崎さんは、第1話から第39話まで自分なりの考えをもって演じてきた死神が、第40話で唐突に死んでしまうことに納得していなかった。この発言を引き出してくれただけでも『談義』の存在価値は大きいです。

高鳥 死神の最期についての河原崎さんの「思い」については、取材を始めてかなり時間が経ってから、いきなり堰を切るように話してくれました。

秋田 それはやっぱり、高鳥さんのインタビューによって撮影当時の記憶、生々しい思い出を徐々に取り戻していったからこそ、あのとき俺はこんな風に思っていた、と言うことができたんじゃないかって考えられますね。

▲まさに役そのまま、暗いムードに包まれた河原崎建三インタビュー

高鳥 僕が取材をしていてすごく心に響いたのは、暗い過去を背負っている死神という人物像を、共産党員の家に生まれた河原崎さん自身と重ね合わせつつ演じていたというお話。役者さんによっては、役と自分の人生はまったく違うものだという姿勢で演じられている方も多いですから、それだけ河原崎さんが死神役に入れ込む様子をうかがうことができて、こちらも感動を覚えました。

秋田 死神の武器である「銛」のお話もよかった! ふだんは袖の中に隠していて、先端がシュッと飛び出してくるアイデアを工藤栄一監督が考案したというくだり、特別な仕掛けがあるわけでもなく、袖から落ちてくる銛をご自分の手で掴んでいた! こんなの演じたご本人しか言えない話で……武器・小道具マニアにはたまらないですよ。(※ここから早口で)他にも『暗闇仕留人』糸井貢を演じられた石坂浩二さんのところで、「矢立」の話が出たじゃないですか。中に鋭い針が仕込まれていて、墨壺のフタを開けるとシュッと飛び出し、閉めると引っ込むギミックが画面から確認できます。出たり引っ込んだりする仕組みはなんとなくわかりますが、その状態だとおもちゃの飛び出しナイフと一緒ですから、刺そうとしても針が引っ込んで刺さらないと思うんです。でも石坂さんは、ギミックつきとギミックなし(針が出たままのもの)、場面によって2種類の矢立を使い分けていたと話している。そういう証言がとても嬉しかったんです。

高鳥 そのあたり、ぜんぜん意識してませんでした。それほど武器に強い興味がなくて。

秋田 いやいや、武器についてもしっかりと、聞くべきところを聞かれているからこそ、俳優さんから貴重な裏話が飛び出すんだと思います。

高鳥 話を戻しますと、河原崎さんはしきりに「僕は暗い人間です」っておっしゃるんですね。自分も明るいか暗いかでいえば後者なので……だいたい暗い話題のインタビューって、面白くなることが多いんです。

秋田 そうなんですか(笑)。

高鳥 『新仕置人』のキャスト・スタッフで野球チーム「必殺キラーズ」を作って試合をした際、途中参加の大木実さんがユニフォームを要求してきたため、藤田まことさんの無言の圧で河原崎さんがユニフォームを脱ぐはめになり、帰りの新幹線で涙を流した……ああいった切ないエピソードは、積極的に拾いたくなるんです。あの話は帰宅したあとの続きもありましたが、さすがに暗すぎてカットしました。

秋田 朝日放送の『新仕置人』=必殺キラーズと、関西テレビの『さわやかな男(ヤツ)』=サワヤカーズとの交流試合が大阪球場であったってお話ですね。『さわやかな男』の主演は柴俊夫さんでしたけど、柴さんのポジションはどこだったんだろうか(笑)。野球の上手い下手ではなく、俳優の力関係でポジションが決まるって話も面白かったです。河原崎さんは藤田さんより10歳ほど離れていますし、山﨑努さんとは俳優座養成所で7期下だとおっしゃっていましたよね。

高鳥 俳優さんの陽気で楽しいお話は、こちら側が意識して“ノせる”とどんどん出てくるのかもしれないんですけど、根が暗いので相手を盛り上がらせる取材がなかなかできない。それに、光と影があればやっぱり「影」の話のほうが面白いと思っているので、自然とそっちの方向に話題を持って行く傾向にありますね。

インタビューの距離感

秋田 インタビューされた方々がみなさん、河原崎さんのように作品を事前に見返したりメモを用意するわけではないでしょうから、第何話のどこそこ、と具体的な場面についての話にすんなり行きにくいと思うんですけれど、インタビュアーの高鳥さんの頭の中には『秘史』『異聞』『始末』で取材した内容が入っているわけで、記憶を引き出すサポートとしてこれほど頼りになるものはないですね。蓄積されたノウハウを活かし、内容のレベルアップを図ったという実感はありますか。

高鳥 やればやるほど、ノウハウは蓄積されていくと思いますが、基本はこの一回こっきりの時間で何とかしないと……と、常に出たとこ勝負でやっているだけですよ。

秋田 たとえばスタッフの取材でも、対談であれば当時の思い出がその場でキャッチボールできて、相手のフォローのおかげで思いがけない裏話が飛び出すかもしれませんが、単独取材の場合はそうもいきませんよね。そんなとき、他の方がこんなこと言っていましたよと、すでに行ったスタッフのお話を高鳥さんが伝えることによって、もう何年もお会いされていない方々の気持ちがつながったりする。4冊目ともなると、そういった部分にも深い感動を覚えます。

高鳥 これまでいろいろな関係者にインタビューをしてきましたけれど、自分の立ち位置というか、相手との距離感については常に意識をしながら臨んでいます。近すぎたり遠すぎたりせず、各人への接し方を均等に、といった考え方ですね。それこそ映画雑誌の書評で「文章に熱も感じられないヒト」と書かれたりしたんですけど(笑)、意識して冷静な書き方を心がけてはいます。

秋田 あれは『必殺仕置人大全』の書評でしたね。冷静な文章の中から燃えたぎる「熱量」を感じ取ってもらいたかったもんです。聞き手が主張しないインタビュースタイルが好みだと以前お話ししていましたが「決して対象に思い入れが薄いわけではないぞ」ってところ、この場で強調しておきましょう(笑)。

高鳥 あるけど、なるべく秘めたい。昨今のSNSの映画評もそうですが、ミーハー的で熱いテキストのほうが世間にはウケますから、もっとポジティブな人間にならなきゃ……。『必殺からくり人』のとんぼ、『新 必殺からくり人』の小駒を演じられたジュディ・オングさんは取材中も明るくて素敵でしたね。山田五十鈴さんと若山富三郎さん、台湾生まれのジュディさんが2人の師匠から時代劇を学んだ話も印象深いです。

▲時代劇俳優として、当時を振り返ったジュディ・オング

秋田 ジュディさんの眩しいまでの明るさには、昔も今も変わらず「魅せられ」ますね! ところで、高鳥さんがこれまで『秘史』『異聞』『始末』で取材してきた京都映画スタッフの方々って、ほとんど70~80オーバーのお歴々ですよね。自分も若い方からお歴々まで、いろんな世代の方たちにお話をうかがってきて、ご高齢となったレジェンドたちに50年前、40年前のお話を尋ねる難しさはよく知っていますので、これだけの数をこなした高鳥さんの技の冴えには舌を巻くしかありません。『秘史』のころに比べると、取材以前の段階で苦労した、なんてことが少なくなっているんじゃないですか?

高鳥 そうですね。もう4冊目になりますから、今までと比べると『談義』はわりと安全進行だったように思います。

秋田 俳優さんは撮影スタッフと違い「聞かれて答える」取材も仕事の一つだと思いますから、これまでよりスムーズに進行したのかもしれないですね。『必殺仕事人V』『必殺仕事人V激闘編』組紐屋の竜役・京本政樹さんのインタビューでは、京本さんの自伝にまで言及し、内容の充実をはかっているところがすごい。取材人数がこれだけ多い中、おひとりずつ丁寧な下調べをして取材にあたっているところがすばらしいです。

高鳥 いやいや、下調べに関しては、それこそ吉田豪さんや伊藤彰彦さんのように雑誌インタビューの細かなものまでチェックして取材にあたる方もいらっしゃいますから。それに比べると、ある程度の準備はするけど「出たとこ勝負」の部分が大きいです。

秋田 時には「ぶっつけ勝負」もあるでしょうし、いざとなったら「度胸で勝負」、その結果「大当たりで勝負」になるかもしれません(笑)。

若きカツドウ屋の青春

秋田 キャストの合間に入る恒例の「京都映画座談会」もすごく面白かったです。カメラマンの石原興さん、照明の林利夫さん、撮影部の藤井哲矢さん、演出部の都築一興さん、同じく助監督の皆元洋之助さんは既刊の『秘史』『異聞』『始末』でおなじみのメンバー。『談義』でも当時の撮影現場の雰囲気を思わせる熱のこもったお話がポンポンと飛び出しました。本書では特に、必殺シリーズと同じく朝日放送+京都映画作品『おしどり右京捕物車』や『斬り抜ける』の話題に興味深いものが多かったですね。

高鳥 藤井さん、都築さん、皆元さんという仲良しトリオが集まると、必殺シリーズだけでなく苦楽を共にして「俺たちのチーム」となった作品、『おしどり右京』や『斬り抜ける』の話題で盛り上がる。取材後の食事もふくめて楽しい取材になりました。烏丸御池のビストロヴァプール、『秘史』のときに藤井さんが連れて行ってくださったお店に再訪し、そこまでまたすごい話が飛び出すんですよ。

秋田 お三方とも必殺シリーズの初期はまだ20代、京都映画の撮影現場が若い力に支えられていたことをうかがわせます。皆元さんと都築さんが信州旅行に行かれたときのスナップが掲載されていて、みなさんの若さのパワーを感じることができました。藤井・都築・皆元のお三方と、別のページで対談取材をされていた石原さん、林さんが集まって、記念写真を撮られているのもよかった。取材自体は同じころ行われたのですか。

高鳥 先に石原さんと林さんの対談を取材して、終わってからオープンセットで写真を撮ろうとしたところ、そのときもうお三方も撮影所に着いていて、せっかく古巣に戻ってきたからということで、いろいろな場所を回られていたんです。それで、みなさん集合写真を撮りましょうということになりました。和気あいあいとして、いい写真でしたよね。

▲左から皆元洋之助、藤井哲矢、林利夫、石原興、都築一興

秋田 改めて思いますけれど、当時「必殺」の現場で石原さんをはじめ、各パートの若いスタッフたちが「こうしたほうが面白いんとちゃいますか」と、常に意見を出していた。そんな人たちの現在の姿が見られ、活き活きした発言を読むことができるというのは本当にすごいと思います。1987年に映画『必殺4 恨みはらします』公開記念特番として放送された『必殺!15年』で、山﨑努さんが「ボウヤみたいな若者も含め、スタッフみんなでアイデアを出し合って作っていた。あんな現場は他にはなかった」といったコメントを残されていたのを覚えています。

高鳥 山﨑さんはそんな自由な現場を好意的に捉えて、従来の書籍でも京都映画のよさとして伝えられてきました。ところが別の俳優さんからすると、その部分が「船頭多くして船山に登る」と、ネガティブな反応になってしまう。良きも悪きも、見る角度によってさまざまに変化する。「多様性」と3文字にまとめるのも安易ですが、やはり物事は一面だけではないなと思います。

怒涛の必殺グッズ展開

秋田 立東舎『必殺シリーズ秘史』のヒットが引き金となったのか、必殺シリーズ50周年を記念した商品展開がふたたび活発になったのも、ファンにとってうれしい出来事でしたね。アワートレジャーからはかつてないリアル造形の「念仏の鉄(新 必殺仕置人仕様)」のアクションフィギュアが、かなりの高額商品にもかかわらず人気となりましたし、ハードコアチョコレートの必殺コラボTシャツは中村主水、飾り職人の秀、三味線屋勇次、組紐屋の竜、鍛冶屋の政、念仏の鉄、何でも屋の加代、西順之助に加えて「せん・りつ」なんていうすごいやつも出て、かなりの反響があったと聞いています。必殺シリーズのメインタイトル(糸見溪南・筆)をあしらった手ぬぐいが書泉から発売されたり、ブライトリンクのカプセルベンダー商品「必殺メタルキーホルダー」なんていうのも出たりしましたし、パチンコ関連のグッズなどを合わせるともっとたくさんの商品が発表されています。

高鳥 まくしたてましたね。通販番組みたい!

▲話題を呼んだハードコアチョコレートの「せん・りつ」Tシャツ

秋田 あとは音楽関係がもっと盛り上がってくれたら……。キングレコード「必殺シリーズ オリジナルサウンドトラック全集」(1~16)の発売からもう20数年の月日が経っていますし、未収録曲の追加や再構成などを施して万人のファンが「文句なし!」と納得できるような究極のサントラ全集が出たら最高なんですけどね。ていうか、自分はサントラ全集1枚目『必殺仕掛人』と9枚目『新 必殺仕置人』を担当しましたけど、曲構成は今でもぜんぜんイケると思いつつ、解説テキストのほうをやり直したい思いでいっぱいです(笑)。

高鳥 たしかに音楽方面は、まだ鉱脈が眠っているのかも。

秋田 立東舎・かや書房の合同キャンペーン「高鳥都の必殺本まつり」で既刊本に付属していた特製クリアファイルもよかったですね。『必殺仕置人』全26話のサブタイトルをすべて配置し、いつでも好きなときに好きなだけ「いのちを売ってさらし首」から「お江戸華町未練なし」までのロゴを堪能することができるという。

高鳥 サブタイトル入りクリアファイルは、自分がこれまでやってきた中で一番いい仕事をしたのはこれなんじゃないかって思うくらい(笑)、大好きなアイテムになりました。このデザインだと、2クール(26回)ある連続ドラマならどの作品でもやれますね。

▲『必殺仕置人』全26話のサブタイトルを載せた特製クリアファイル

秋田 『必殺商売人』や『必殺仕事人V』がちょうど全26話ですから、いけるかも(笑)。

高鳥 ひとつひとつの画面を縮小すれば『必殺仕掛人』の全33話、『助け人走る』の全36話もありなんじゃないかと思いますけど、これ以上サブタイが小さくなると読むのがキツくなるでしょう。やっぱり全26話がちょうどいい塩梅なんです。

秋田 サイズを拡大して『必殺からくり人』全13話のタイトルを網羅するというのも。

高鳥 それだと、ちょっとデカすぎてイメージと違うんですよね~。『仕置人』だとサブタイトルの数もいいんですが、各話の頭文字をつなげると「いろはにほへと……」になりますし、タイトルひとつにつき一文字だけ色を変えているとか、シャレた印象があるんです。『仕置人』はいろいろな面でこのクリアファイルのデザインにぴったりハマりましたね。

秋田 クリアファイル用の作品を決めるにあたって、『仕置人』で行くか『仕事人』にするかなど、議論する時間が少しだけあったりしましたか。

高鳥 いえ、初手から『仕置人』一択でした。

秋田 『仕掛人』全33話から7話分のサブタイトルを間引いて、26話分として組み直すという発想は……(笑)。

高鳥 それもなかったですね。そんなグッズが出たら、僕自身が文句を言っていると思います。7話分入ってないぞーって!

秋田 なるほど、さすがのこだわりですね!!

高鳥 「理想に仕掛けろ」というか、いろいろ必殺本が出たおかげで理想的な仕掛けが実現したと思っています。こんなグッズ、いきなりは無理でしょう。

まだまだあるぞ『談義』のお楽しみポイント!

秋田 高鳥さんの必殺本でのビジュアルは主に、朝日放送のスチールと、スタッフさんご提供の現場スナップで彩られています。対談前編でもお話が出ましたが、今回の『談義』では俳優さんインタビュー中心ということで、特に出演キャラクターの決めポーズをはじめとする場面写真が多い印象です。

高鳥 そうですね。今までの本でもやりたかったけれど、毎回カツカツでやれなかった「見開き」で写真をバーン!と見せるページも作りました。「梅安&左内」「仇吉&とんぼ」「中村主水&戸ヶ崎重内(岸田森)」「仕掛人第1話を演出する深作欣二監督」と、ここぞというところでやっています。やっぱり見開きは迫力がありますから。

秋田 京本政樹さんご提供の「組紐屋の竜スナップ集」もファンの方たちに強くアピールしたのでは。

高鳥 京本さん、50枚くらい当時のスナップ写真を提供してくださったんです。あのコーナーはまさに「京本劇場」というべき豪華絢爛なページで、ご協力に改めて感謝ですね。本そのものの仕上がりもよろこんでくださいました。

秋田 写真といえば、インタビューされているスタッフ・キャストの近影は高鳥さんが撮影されているんですね。あれも読者のお楽しみだと思うんですけど、ふつうにレンズのほうを向かれたポートレート的なものがあれば、まるでドラマのワンシーンのようにフレーム外のどなたかを見つめて喋っているものもあり、工夫が凝らされています。

高鳥 スタッフ各氏については往年の『土曜ワイド劇場』のオープニング……キャストと共に脚本家や監督の映像とクレジットが出てくる、あのイメージです。2ショットや3ショットの場合は撮影所のオープンセットを生かした広い画を心がけました。俳優さんも念仏の鉄のように右手を構えた山﨑努さんや正八をイメージして頭の上に手を置いた火野正平さんなど、こちらのリクエストを快く受けてくださいました。柴俊夫さんには壱よろしく手をカメラに向けていただきましたし、そのへんはミーハーです(笑)。

▲石原興+林利夫の2ショット、『談義』未使用のアウトテイク

秋田 資料の面も毎回充実していますね。『談義』に掲載された『必殺仕掛人』の各メディア向け番宣資料の採録ページ、あれには驚きました。主役トリオの緒形拳さん、林与一さん、山村聰さんの一言コメントや作品の概要、第1話のあらすじが簡潔にまとめられていて、世に出ている新聞・雑誌記事のベースになった資料であることがうかがえます。

高鳥 これまで何度も大阪の朝日放送にうかがいましたが、こんな資料が残っていたことを担当者さんとの雑談で初めて知りました。えっ、早く言ってよ〜と(笑)。『仕掛人』だけでなく『仕置人』以降のシリーズの番宣資料も保管されていますから、この採録だけで一冊の本が出せるんじゃないかと思いますよ。

秋田 それはぜひ読みたい! 『談義』のトリを飾るのは、松竹プロデューサー・櫻井洋三さんと脚本家・保利吉紀さんのレジェンド対談でした。櫻井さんは『秘史』の序文、『異聞』『始末』でロングインタビューを行った皆勤賞の方ですし、保利さんは『異聞』で必殺時代の思い出を寄稿文&追加インタビューの形で語ってくださった。共に90歳を越えていながら、お2人が集まって当時の話題で盛り上がっている様子は元気そのもの。「櫻井さん、口だけは元気やなあ」「こっから下がぜんぜんあかんねん」とか、円熟のかけあいは上方漫才の師匠を思わせました(笑)。読んでいて思わず笑ってしまうテンポのいいトークについては、文章化する高鳥さんの見事なテクニックの力も大きいと思います。

▲2人合わせて182歳対談! もはや怖いものなし

高鳥 「久しぶりに会う、かつての同志」という雰囲気が出ていたかもしれないですね。まだ生きとったんか、元気でよかったわ~なんて、つい読んでいて微笑ましくなってしまう。そんな気持ちを抱くことができるのも、4冊目のいいところなのかなって思います。櫻井さんと保利さんは対談が終わったあとも食事をし、さらに喫茶店でおしゃべりが続き、よき再会を演出することができました。じつは昨年の『異聞』取材時に再会していたのですが、そのときの会話があまりにも面白く、あらためてセッティングしたんです。

秋田 高鳥さんの「キャスト・スタッフ深掘りインタビュー」のおかげで、現在再放送や配信などで触れる機会が大幅に増えた必殺シリーズを、改めてじっくり観てみようと思った人も多いのではないでしょうか。昔はただ「面白い時代劇」と思って観ていた必殺ですが、その裏側には作品を作っていた人、そして演じた人たちの熱い魂がぶつかりあい、激しくうごめき、悩み、苦しみ、悶えなどがあったのかと……。これからも必殺シリーズと、高鳥さんの必殺本のさらなる発展が楽しみすぎます!

というわけで、楽しい「必殺談義」もあっという間に終わりとなりました。この続きは、きっとまたどこかで! そのときまで、皆さんごきげんよう!!

『必殺シリーズ談義 仕掛けて仕損じなし』

著者:高鳥都

定価:3,300円(本体3,000円+税10%)

発行:立東舎

(執筆者: リットーミュージックと立東舎の中の人)