2024年度(1月~12月)に反響の大きかった選挙記事ベスト5をお届けする。第4位は、短期決戦の選挙に焦りを隠せない公明党の石井啓一代表(当時)を追った記事だった(初公開日:2024年10月26日)。選挙の最終盤、自民党と連立政権を組んできた公明党が非常事態に陥った。石井啓一代表が新顔と臨んだ埼玉14区で劣勢に立たされ、小選挙区で負ければ比例の重複立候補もないため党トップが国会から姿を消すことになる。自民党も看板政治家を次々と応援に送り込み押し上げを図るが、政治とカネの問題をかわすため自民党が選んだ「短期決戦」が裏目に出た形で、危機感は最高潮だ。
ベッドタウンで「組織票が期待できない」
10月25日夜、埼玉県草加市の獨協大近くにある小さな公園が、千人を超えるとみられる公明党支持者に埋め尽くされた。同党の宣伝カーの上には石井氏と並んで岸田文雄前首相が立った。
「こんなにも多くのみなさまにお集まりいただき、率直に申し上げてなじみの薄かった石井啓一をこんなにも押し上げていただいた友党、自由民主党のみなさん、本当にありがとうございます。
情勢は誠に厳しい。日に日に厳しくなって、遂に本日は完全に逆転をされているところではあります。しかし、さらに再逆転をできない差ではありません。最後の一日で、是非とも石井啓一を国政に送り出して頂きたいと思います!」
石井氏に先立ってマイクを握った西田実仁・公明党幹事長の訴えは最後には絶叫に近くなった。
公園の周囲の木の上には数千羽にも見える鳥の大群が棲んでおり、時折一斉に騒ぎ始める鳥たちの鳴き声でスピーカーから流れる演説が聞きづらくなった。
首都圏のベッドタウンの三郷市や草加市で構成される埼玉14区は、選挙区の「10増10減」で区割り変更が行われた地域に当たる。
今回衆院選から県内の選挙区が1つ増えて計16区になった埼玉県では、これまで草加、三郷市を地盤にして当選してきた自民の前職二人がいずれも別の区から出馬。新たな候補者を自民党が模索していたところに、公明党が昨年3月、石井氏の出馬を決めた。
「自民党の地元は寝耳に水だと反発しました。当時、公明党幹事長だった石井氏は、自公の選挙区を巡る調整が難航した昨年5月に、自民党との信頼関係は『地に落ちた』と発言し、東京都内の選挙区での選挙協力の解消を通告し揺さぶりをかけた当事者でもあり、自民党支持の中に不信を生みました。
しかしその後、石井氏は今年9月に公明党代表に就任しました。全国で公明党の票なしでは闘えない自民党としては石井氏を落とすわけにはいかず、今回選挙で東京からのテコ入れが続きました」(社会部記者)
しかし石井氏には埼玉14区の環境は厳しかった。
「14区は新興住宅地が多いベッドタウンで、組織票が期待できないんです。石井代表は2000年以降、比例北関東ブロックでの当選が続いており、埼玉は初めての挑戦で、名前も覚えられてない。
さらに今回の選挙は短期決戦。党代表も前任の山口(那津男)さんから9月に代わったばかりですし…。でも仕方ないんですよ、ウチは定年制もあるのでここで代わらないといけなかった。タイミングはここしかなかったんですよね」(公明党関係者)
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「石破さん、小泉進次郎さん、小池百合子知事が来て…」
その石井氏を脅かしているのが国民民主党の前衆議院議員、鈴木義弘氏だ。過去3回、衆院選では小選挙区で落選しながら比例復活してきた。それ以前は自民党に所属して県議を4期務めており、地元での知名度は高い。
公明党が1000人超を集めた集会を開いた25日、鈴木氏は数人のスタッフらと街角での演説会を重ねた。通り過ぎる人が時折、手を振る程度だ。こうした最小規模の演説会を一日に10か所程度行なってきたという。
JR新三郷駅前で演説の準備をしていた鈴木氏に話を聞いた。
「ここの地区は(国民民主党の支持基盤の)大手の労働組合はほとんどありません。中小、零細企業が多い町です。私は県会議員の時から回ってきました。
あいさつ回りとか会合に呼んでいただいて人に会う時、仕事の話をしてくれる方もいれば、通り一遍で『ああ、結構です』と言われることももちろんある。やっぱり、1回、2回と選挙でお世話になっていかないと。人間関係っていうのかな。今回は駅で立つと20代くらいの若い人がけっこう声をかけてくれます」
選挙区の事情をこう話す鈴木氏。自公連立政権の一方の柱を相手にしていることには「ここは(首相の)石破さんが来て、小泉進次郎さんが来て、小池百合子知事が来て、斎藤健さんが来て、今度は岸田前総理でしょ。ずいぶん偉い人が来るんだなー、この選挙区は。
まあ覚悟してこの選挙臨みましたけど。私は去年から“ゾウさんとアリンコの戦い”と言ってきたんですよ」と話し、「オール与党」に肉薄している自分の戦法に自信を持っていることをうかがわせた。