Credit: en.wikipedia

ビーズのような黒い目、ほんのり紫色の触覚、ピンク色のほっぺ、ふわふわの羊毛に見える緑色の突起。

この激かわな生き物は「テングモウミウシ」と呼ばれるウミウシの一種です。

その見た目が羊にそっくりなことから英名では「葉っぱの羊(Leaf sheep)」だとか、海世界の「ひつじのショーン(Shaun the Sheep)」と呼ばれたりしています。

また可愛いだけではありません。

彼らは藻類から葉緑体を盗んで、光合成をするスーパー能力を持っているのです。

目次

海世界の「ひつじのショーン」はどこにいる?葉緑体を盗んで「光合成」ができる!

海世界の「ひつじのショーン」はどこにいる?

ウミウシは世界に数千種類が知られている軟体動物の「後鰓類(こうさいるい)」の一群です。

種によって様々に異なる鮮やかな体色模様を持っていることから、しばしば”海の宝石”と呼ばれています。

その数多いるウミウシの中でも、ずば抜けた可愛さを誇っているのが「テングモウミウシ(学名:Costasiella kuroshimae)」です。

テングモウミウシは白い顔に小さな黒目が2つ付いており、頭部からは2本の触覚が生え出ています。

これらは「嗅覚突起(rhinophore)」と呼ばれる器官で、海水中の化学物質を感知して餌を見つけるのに役立っています。

また彼らの全身は「セラタ(cerata)」と呼ばれる綺麗な緑色の突起で覆われています。

これは体内のガス交換のための表面積を大きくする役割があるという。

こうした全体の見た目からテングモウミウシはよく羊に例えられ、特に海外では、英国アードマン・アニメーションズの大人気キャラクターである「ひつじのショーン」に似ていると言われています。

しかもラッキー(?)なことに、テングモウミウシは日本の海に生息しているので、サンゴ礁近くの浅い海でダイビングをすれば直接彼らに会えるかもしれません。

そもそもテングモウミウシは1993年に沖縄県の八重山諸島にある黒島沖で初めて発見された種であり、その後、フィリピン、インドネシア、シンガポール、タイでも報告されています。


テングモウミウシの分布域(青)/ Credit: en.wikipedia

このように、テングモウミウシは”海世界のひつじ”と呼ぶにふさわしい生き物ですが、彼らの体長は大人でも8ミリ前後しかなく、実際の羊に比べると全然大きくありません。

それでも彼らには羊にはないスーパー能力が秘められているのです。

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葉緑体を盗んで「光合成」ができる!

テングモウミウシは主に藻類を食べて生きています。

彼らはただ藻類をむしゃむしゃ食べるだけでなく、藻類に含まれる「葉緑体」を吸収して自分のものにするのです。

藻類から葉緑体を盗んで自らの体の組織に保存できる能力を「クレプトプラスティ(Kleptoplasty、ギリシャ語で泥棒を意味する)」と呼びます。


藻類から「葉緑体」を盗む/ Credit: en.wikipedia

テングモウミウシが盗んだ葉緑体は全身を覆うセラタの中に保存されます。

これが彼らのセラタが綺麗な緑色をしている理由です。

葉緑体によって得られた緑色は単純に、テングモウミウシを環境中に溶け込ませて、天敵から身を隠すのにも役立っています。

そして葉緑体は上空から差し込む太陽の光を受けると「光合成」を行い、デンプンを含むエネルギーを体内で作り出すのです。


葉緑体で光合成ができる/Credit: en.wikipedia

フィリピン・バタンガス州立大学(BSU)の海洋学者であるミグエル・アズクナ(Miguel Azcuna)氏は、次のような例え話をしています。

「私たちがサラダを食べて、その葉緑体を消化器系に保存できたとしましょう。すると太陽の下で日差しを浴びるだけで、栄養素が自然に体内で作れるのです。

これは厳しい自然界でのサバイバルに有利に働くでしょう」

このようにテングモウミウシはただ藻類を食べるだけでなく、藻類から受け継いだ葉緑体で光合成をするという、2つの方法で栄養を得ているのです。

羊にもそっくりですが、どこかクリスマスツリーのようにも見えて、この時期にぴったりですね。

参考文献

Leaf sheep: The adorable solar-powered sea slug that looks like Shaun the Sheep
https://www.livescience.com/animals/leaf-sheep-the-adorable-solar-powered-sea-slug-that-looks-like-shaun-the-sheep

Exploring the Life of a Leaf Sheep, Nature’s Tiny Phenomenon
https://www.boredpanda.com/leaf-sheep-sea-slug-costasiella-kuroshimae/

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部