世界一の名将の誉れ高いマンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督がもがき苦しんでいる。2008年にバルセロナの監督に就任して以来、これほど苦悩する姿を目にすることはなかった。バルサ寄りのスポーツ紙『スポルト』は、「ペップ・グアルディオラの知られざる顔」と表現している。
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チームは10月末から公式戦1勝2分け9敗と苦しんでいる。グアルディオラ監督はもともと喜怒哀楽がはっきりしており感情表現が豊かなため、悲壮感がそれだけ目立つが、負けが込むにつれて、その色がさらに濃くなっている。
発言においてもそれは同様で、「自分の力不足」という言葉は現在の心境を表わしているが、その一方で“ブレ”も見られる。例えば、ロドリの怪我による長期戦線離脱を受けての「ロドリはバロンドールに輝いた選手だ。我々は昨シーズンの世界最高の選手抜きで戦っているわけだ。もちろん問題だよ。シカゴ・ブルズはマイケル・ジョーダン抜きで、何回NBAを制覇したんだ」という発言だ。
これは、「ペップの言葉にはこれまでチームファーストの姿勢が貫かれていたはず。これではスタープレーヤーこそがすべてと言っているようなものだ」とバルサのコミュニケーションエリアのディレクターを務めた経験があるアルベル・モンタギュ氏がスペイン紙『ムンド・デポルティボ』のコラムで指摘するように、常に組織力重視を掲げてきたグアルディオラ監督とは相容れないものだった。
モンタギュ氏はさらに、「ペップほど豊富な経験と高いレベルの自信、自尊心を持った人物が、どうして今回の事態に対し、もっと冷静に対応することができないのだろう」と首をかしげる。
グアルディオラ監督が追い込まれているのは明らかだが、モンタギュ氏は元幹部の経験を基に、その背景として「ペップを見ていると、ひとりで戦っている感が否めない。発言にしても、大した準備もせずに会見に臨んでいるように見える。おかげでこれまで以上に、その場に適した言葉、ジェスチャー、振る舞いを選択する努力をしなければならなくなっている」と孤軍奮闘を挙げる。
スペイン紙『アス』のアリツ・ガビロンド記者も、グアルディオラ監督がひとりで苦労を背負っているというモンタギュ氏の意見に同調する形で、「ペップの意識の矢印が、チームよりもクラブに向いている印象を受ける。誰も予想していなかった中、契約を延長し、完全にクラブの顔として振る舞っている」と主張する。
勝負事は勝つこともあれば負けることもある。シティを常勝軍団に変えたグアルディオラ監督ももちろん例外ではないが、「観衆は、負のスパイラルから抜け出そうと悪戦苦闘するグアルディオラ監督が、今度は何を見せてくれるのか期待をもって見守っている」とスペイン紙『エル・パイス』のディエゴ・トーレス記者が皮肉るように、これまで築き上げてきた完全無欠のイメージとのギャップの大きさが、人々の好奇心を煽っている。
そんな中、『エル・パイス』紙のラモン・ベサ記者は、グアルディオラ監督は自分自身と戦わなければならないと力説するコラムを寄稿したが、ジャーナリスト兼作家のルシア・タボアダ氏は、さらにその範囲を“過去のグアルディラ”に限定。偉大な業績を成し遂げてきた人物だからこその、過去の自分と戦うことの難しさを強調する。
モンタギュ氏は最後に、グアルディオラ監督にアドバイスを送っている。「サッカーはとても重要なものだが、死活問題では断じてない。人は挫折や失敗をバネに成長すると言われる。だからペップも今回の事態を、自らの過ちを知るためのセラピーとして利用するくらいの気持ちで対処すればいい。逆に言えば、その自己分析なくして今の状況を変えることは難しいだろう」
文●下村正幸
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