〈西新宿タワマン刺殺事件から半年〉「オレ結婚する」愛車とバイクを手放し猛アタックも拒否され暴走したストーカー男…玄関前にシャインマスカットを置き「一回くらい、いいだろ」

今年5月、大都会・新宿のタワーマンション。新潟から上京してガールズバーの経営に成功した25歳の女性は、手にした安住の地であるはずの摩天楼の下でストーカー男に刺され、絶命した。ガールズバーで“わくちん”と呼ばれた迷惑客がおこした事件をあらためて振り返る。
 

1本目の刃が折れて使い物にならなくなると2本目を取り出し…

5月8日未明、東京都新宿区西新宿の地上60階建ての超高層マンションの敷地内で、住人のA子さん(当時25)がナイフで首や腹などを刺され、搬送先の病院で外傷性ショックにより死亡した。

通報で駆けつけた警視庁新宿署員が、現場にいた和久井学容疑者(同51)=川崎市=を殺人未遂の現行犯で逮捕した。容疑を殺人に切り替えて送致を受けた東京地検は同月28日、和久井容疑者を殺人罪などで起訴した。

和久井被告はA子さんが経営するガールズバーの元客で、つきまとい行為を繰り返し2度の注意を受けた末に2022年5月、ストーカー規制法違反容疑で逮捕された。

釈放後には同法に基づく接近禁止命令も出ていたが、有効期限が切れた昨年6月、A子さんの希望もあって解除されていた。男はかつてA子さんと交際していたと自称し、ガールズバーの開店資金として1千万円以上を提供、その資金は所有していたレーサー仕様の大型バイクや国産スーパーカーを売って工面したと主張していた。

「大事にしていた車とバイクを処分してまで貢いだのに相手にされなくなり、ストーカーとして逮捕までされた和久井被告の逆恨みの激しさを物語るような凄惨な現場でした。A子さんはタワマン1階のコンビニで買い物をし、自室に戻ろうとしたところを待ち伏せしていた和久井被告に声をかけられ、逃げ出したが数十メートル追いかけられ背中から切りつけられました。

凶器は持参した果物ナイフ2本で、腹や胸などをメッタ刺しにし、1本目の刃が折れて使い物にならなくなると、2本目を取り出しさらに攻撃を加えた。数十ヶ所に及ぶ傷の多くは臓器まで達し、出血多量のうえ外傷性ショックで亡くなったのです」(警視庁捜査1課担当記者)

そもそもつきまといの警告文書を警視庁に示された時点で、和久井被告は最寄りの神奈川県警川崎署を訪れ、「相手の女性に多額の現金を渡している。それを返してもらうために待ち伏せをしていただけで、被害者は私のほうだ。なぜストーカー犯扱いされなければならないのか」と憤慨していたという。

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年の瀬に和久井被告の実家を訪れると…

和久井被告の父親も、そんな息子の言い分を信じていたようだ。A子さん刺殺事件の取材に訪れた記者に、父親はこんなふうに証言していた。

「事件が起こる前日、学はふだんどおり、昼ごろに『仕事行ってくるわ〜』と告げて出ていったよ。あいつは運送関係の仕事をずっとしてて、会社に属したり委託でやったりしてるからね。だからべつに違和感もなかったし、いつも通り見送ったの。

それで翌日の朝にテレビをつけたら、『和久井学容疑者』なんて映ってるもんだから『まさかな…』と思ってたら、こんなことになっていて…。もちろんショックだし、今朝からイタズラ電話もかかってきてて、電話に出たら『おい、人殺し!』なんて罵声を浴びせられるもんだから参ってる。

もちろん学がやったことは許されることではない、わかっているけどアイツにも思うところがあったんじゃないのかなって…」

息子がA子さんと出会った経緯についてはこう語っていた。

「3〜4年前くらいかな? ある日突然、『今年の秋に家を出るから』と言い出したから『どうして?』と聞くと『オレ、結婚するから』って言ったんだよ。それで詳しく聞いてみると、どうやら相手の女性に『本気で結婚するなら車とかバイクを処分してお金にしてくれ』と言われたそうで、『なんだそれ?』と、聞いていて違和感はあったよね。

だっておかしいでしょ? 結婚するためにお金を持ってこさせるなんて普通じゃないし、学はA子さんを一度もウチに連れてきたこともなかったから『やめといたほうがいいよ』と反対したんだ。でも『A子はかわいくて素直でいい子なんだよ』と聞く耳持たずって感じで。

それで学は20年くらい乗っていたホンダの『NSX』って車と『NR』ってオートバイを売って1000万円をつくってA子さんに渡したみたいなんだ。でもその年の終わりごろに『A子とケンカした』って言い出したの。どうやら結婚はダメになったらしいんだわ。

その女性にはお金を渡したあと、一方的に冷たくされたみたいで、それで学も『だったらお金を返してくれ』とお願いしたんだけど、まったく相手にされなくて揉めるようになった。
そのうちに警察に通報されて、学は逮捕されたってわけ。

でも、そのころには学は『オレは詐欺罪でA子を訴える』とも言っていたよ。そうした言い分も、警察はまったく聞いてくれなくて、『警察が全然動いてくれない…』と不満をこぼしていた」

父親がきいた言い分通りなら、情状酌量の余地はありそうだが、その後の捜査機関の取り調べで主張は一方的なものと裏付けられていったのであろう。

「集英社オンライン」も店舗関係者や友人から「A子は色恋営業もせず、好意がないことを伝えていた」「そもそも和久井は店で大金をつかっていなかった」「暴走した和久井はA子の自宅に押しかけシャインマスカットを玄関前に置いたり、電話をかけ『どんだけ貢いだと思うんだ、一発やらせろ』と迫ってたりしていた」といった証言を得ている。

寒風吹き荒ぶ年の瀬に川崎市の和久井被告の実家を再び訪れたが、父親は取材の申し入れにも黙するだけだった。

※「集英社オンライン」では、今回の事件について、情報を募集しています。下記のメールアドレスかXまで情報をお寄せください。
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取材・文/河合桃子
集英社オンライン編集部ニュース班