禁止薬物検出で無罪となったシナーを待ち受ける、「妥協を許さない男」として恐れられるドーピング紛争のスペシャリスト<SMASH>

 テニスファンが選ぶ「最も好きな選手」に2年連続で選出された若き世界王者ヤニック・シナー(イタリア/23歳)。2024年シーズンは四大大会のうち全豪と全米オープンを含む全8大会でタイトルを獲得。しかもデビスカップ(男子国別対抗戦)では、エースとしてチームをけん引して母国イタリアの連覇に貢献した。

 そんなテニス界のスーパースターが今、一番心配しているのがスポーツ仲裁裁判所(CAS)で審議されている自身を対象としたドーピング問題の行方だ。

 既報の通りシナーは3月に行なわれたドーピング検査で、禁止物質「クロステボル」に2度にわたり陽性反応を示した。だがシナーには「ITIA」(テニスの不正行為を監視する第三者機関)による暫定的な出場停止処分が科されたものの、異議申立てが認められすぐさま処分は解除。その後の調査でも、違反が故意ではなく過失もなかったと判定され、シナーの資格は停止されずに決着した。

 ところが世界反ドーピング機関「WADA」は、シナーを無実と裁定した「ITIA」に対し、「過失がないという判断は適用規則と照合した上で正しいものではない」として、9月28日に不服申し立てを決行。これについて現在CASで審議が行なわれている。
  一時は無罪となったシナー。その行く手を阻もうとしているのが、WADAが選出した仲裁人のケン・ラロ氏(イスラエル)だ。2011年からCASの仲裁人リストに加わっているラロ氏は、ドーピング問題に関して妥協を許さない男として知られる存在で、イスラエル馬術連盟の現会長で国際馬術連盟の名誉会長も務めるスポーツ界の重鎮の一人でもある。

 WADAはシナーに下された無罪の裁定に不満を抱いており、最大2年間の出場停止処分を求めている。よって現在進行中のCASにおいてラロ氏が手腕を発揮した場合、シナーは非常に厳しい立場に追い込まれることになる。

 なお、シナー側の仲裁人を務めるのはアメリカのジェフリー・ベンツ氏。元アイスダンスの選手だったベンツ氏は現役引退後に大学で法律を学び博士号も取得。スポーツメディア『スカイスポーツ』によると、米国オリンピック委員会の法務部長を務め、IOCの法務部門にも所属。アスリートに対して非常に気配りがあり敬意を払う専門家とみなされており、CASを含む紛争でアスリートの弁護を依頼されることも多い。ちなみに最近では、シモナ・ハレップのドーピングによる失格期間を、4年から9カ月に短縮させたことでも知られている。

 その道のスペシャリストによるシナーを巡る紛争は、果たしてどのような結末を迎えるのか。『AFP』通信社のインタビューによれば、WADAのオリビエ・ニグリ事務総長は「(CASによる)裁定が年内に出る見通しはない」としている。

構成●スマッシュ編集部

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