大宮などでもプレーし、地元の群馬で昨季限りでの引退を決めたGK清水慶記が第2の人生に選んだのは、興味のあった菓子作りの道だった。現在は群馬でクラブアンバサダー、アカデミーのGKコーチを務めながら、「株式会社JOYNOTE」を立ち上げ、「よろこびをしるす。」というブランド名でチョコ作りに励む毎日である。
大きな不安もあったという。しかし、勇気を持って行動した先には クラブ、スポンサー企業ら温かいサポートの手が待っていたという。メッセージ性に富んだ清水のセカンドキャリを紹介する(全2回/2回目)。
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引退をリアルに感じ、自らの新たな目標を周囲へ語ることで道を切り開いた清水慶記だが、そこにはやはりクラブやスポンサーの力強い後押しが不可欠であった。
それこそ地元のクラブである群馬の温かいサポートがあったからこそ、第2の挑戦につながったとも言えるだろう。
「僕も『自分の立場になって、早くから引退後の準備をしておいたほうがいいよ』って多くの方からアドバイスをもらっていましたが、なかなか実感が湧かないものなんですよね。
当事者になって、切羽詰まって、ようやく動き出すことができた。でも話した通り、動き出せるなら早いに越したことはない。それはやっぱり伝えたい部分ですね。
それに僕は運よく地元のクラブに帰ってくることができ、お菓子作りにチャレンジしてみたいとクラブに相談したころ、前向きな返事をもらうことができた。そこはすごく恵まれていたと思います。
例えば契約上、選手の(公式試合・公式イベントに関する)肖像権ってJリーグが持っていたり、もし現役時代に何か活動をした際にクラブとの話し合いで利益を何割か渡す必要性が生じるかもしれないなど、ハードルがあったりするんです。
そこは僕らクラブに雇ってもらっている身なので、仕方ない部分があるのですが、アスリートって必ず引退が訪れ、そのあとの人生のほうが長いなかで、サッカーに全力で真摯に取り組むのは当たり前として、Jリーガーであることが、次の準備を進める際の支障になってしまうかもしれないことにどこか疑問も感じていました。
でも僕の場合、思い切って群馬に話をした時にクラブは個人事業主としてやっていいよって言ってくれたんです。そこがまず大きかったのと、スポンサーの方々にこういうことをやっていきたいっていう話をした時に、カインズさんが興味を持ってくださって、カフェブリッコというカインズフードサービスさんが運営するカフェで、共同でオリジナルマフィンの商品開発をする話をいただけました」
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2022年、2023年の引退までの2シーズン、清水は試合にほぼ絡むことができなかった。それでも練習で決して手を抜かなかったのは周知の事実で、それと同時に、チョコを作って、試合前のVIPルームで配ったりしてアピールしていたという。
そのなかで清水の言葉通り、オリジナルのマフィンのプロデュースという話が浮かび、菓子作りのノウハウも学ばせてもらったという。そのマフィンはクラブハウス内にある「カフェブリッコ」でも販売されている。
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各クラブに事情があり、その地域の環境によるところも大きいだろう。ただ、清水は改めて自身の歩みが、今後へのひとつの指標になってほしいとの願いを抱える。
「スポンサーの方々も、選手と連係しながら何かやりたいっていう想いがあると思うんです。そこで一番良いのはウィンウィンの関係と言いますか、スポンサーの皆さんに還元ができ、なおかつ選手のセカンドキャリアにつながる形だと考えています。
だからこそ、個人的には、サッカーに全力で取り組みつつも、セカンドキャリアの準備をしていくのが当たり前だよねっていう環境になってほしいという願いがあります。
僕だってサッカーしかやってこなかったので、エクセル、ワードは上手く使えない、請求書の作り方だって分からない、メールの文面に苦労するなど、それだけで時間が過ぎてしまう。ほとんどの選手がそういうところから入ると思うんですよ。
僕は38歳で引退しましたが、その年齢で何も分からない社会人っていないじゃないですか。同級生を見ていると、この歳になればある程度の役職に就いていたりしますが、自分はサッカーがなくなってしまうと選択肢が極端に狭くなる。
監督やコーチ、解説者などの選択肢もありますが、今は、その席も争奪戦になっています。しかもGKコーチになったとしても60歳、70歳まで身体を動かすのは辛いはず。そうすると、そこで道がなくなるよりは、今、他の選択肢を持っておくべきとも考えました。
でもそうなった時に、Jリーガーになった選択が本当によかったのか、引退後に夢がないっていう感覚になってしまう。だって先の人生のほうが長いですからね。
となると、人生トータルで考えた時に普通に就職して、安定して給料をもらったほうがよかったんじゃないかと思う選手もいるはずなんです。そう考えると、今、僕はアカデミーの指導もさせていただいていますが、子どもたちにJリーガーになりたい、コーチになりたいって言われた時に、自信を持って推すことができない部分もある。引退後の大変さを今、身にしみて感じているので。
だからこそ、やっぱり引退後も安心できる形を少しずつ作っていかないと、Jリーガーを目指したい人が減ってしまうかもしれない。今は情報化社会ですからJリーガーになったら不安だよねっていう意見を目にする機会も増えていると思うんです。
プロになるには親御さんのサポートが必要ですが、その親御さんを不安にさせてしまう。だからこそ、Jリーガーになったら色んなことにチャレンジできるよね、っていう世界がより広まってほしい。真の意味では、そこで初めて僕ら夢を売る職業が成り立つのかなと感じます。そうすれば、三笘(薫)選手のような才能がある人材も、どんどんサッカー界に入ってきてくれるかもしれません。
だからこそ、僕みたいにそこまでネームバリューのない選手でも、こういう風にできるんだぞっていうことを証明したい。16年現役をやって、150試合ぐらいのキャリアの選手でも、行動を起して自分のやりたいことを見つければ、支援してくださる方、見てくださる方がいっぱいおり、そのうえで、クラブ、スポンサーの方々と連係を取れる存在になっていけるって発信をしたいと、その目標へ向けて頑張っているところです。
そうやってクラブ、選手、スポンサーの方々、みんなが幸せになれる形になれば良いと願っています」
今年、最新設備を整えた新クラブハウスと練習場が完成した群馬だが、リーグ戦では苦戦を強いられ、残念ながらJ3降格という現実を突きつけられてしまった。
「僕も、長くザスパに在籍させてもらい、地元の高校のグラウンドで練習して、シャワーがなかったので、ポリバケツに氷水を入れて、そこにみんなで代わる代わる入って練習着のまま車で帰る環境も経験してきました。
資金力に恵まれたクラブではなかったからこそ、スポンサーの方々と手を取り合いながら進んできた背景もあります。そこの原点は大事にしたいですし、そういうストーリーを伝えていかなきゃいけないとも感じています。昔から応援してくださる方々やスポンサーの方々が、一度離れてしまうと、戻ってもらうのはかなり大変なはずです。そういう意味でもクラブの魅力発信にも貢献していきたいです」
改めてすぐに物事が良くなるのは難しいだろう。だが、清水の想いが少しでも広がれば、状況は前に進むはずである。
ちなみにチョコを作ると言っても「商標登録の問題や、保健所の許可を取った施設で作る必要性があった」などとやってみないと分からない壁もあったという。そのなかで「よろこびをしるす。」では、濃厚な風味が楽しめる5本のチョコレートが入っている商品や、サクサクの波紋型のヴァッフェルなどのレパートリーが提供されている。前述のマフィンなどを含め、一度、食してみてはいかがだろうか。それをキッカケに多くの人がセカンドキャリアについて話し合う機会になってくれることが、清水の願うところだろう。
改めて現役や引退した選手たちと、クラブ、スポンサーが連係し、互いのメリットを生み出していく。そんな明るい未来に期待したい。
■プロフィール
しみず・けいき/1985年12月10日生まれ、群馬県出身。183㌢・75㌔。FC前橋Jrユースー前橋商業高-流通経済大-大宮-群馬-秋田-大宮-群馬。地元の群馬で2023年限りで現役を引退したGK。
取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
■「よろこびをしるす。」
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