日本人女性が担った革新的なレガシー戦略―パリ2024大会がもたらしたインパクトとは

パリ2024大会では、サステナブルな大会として、さまざまな新しい試みがなされた。大会組織委員会がフランス国内外9人の専門家を「インパクト&レガシー戦略評価監督委員会」に任命したこともそのひとつだ。そこで、9人のメンバーの1人、日本スポーツ振興センター(JSC)副主任研究員の山田悦子氏に、改めてオリンピック・パラリンピックにおけるレガシーと、パリ2024大会が残したインパクトについてお話を伺った。
※本シリーズ「パリ2024大会とボランティア」は、日本財団ボランティアセンターとのコラボレーション企画です。

今の時代だからこそ必要なレガシー戦略


エッフェル塔のふもとには仮設のスタジアムが設置され、オリンピックではビーチバレー、パラリンピックではブラインドフットボールが行われた(写真はパリ2024パラリンピック、ブラインドフットボールの試合の様子) photo by AFLO SPORT

オリンピックでレガシーという言葉が使われるようになったのは、1956年のメルボルン大会からだと言われているが、オリンピック憲章に文章として明記されたのは2003年のこと。では今回、山田氏たちが託されたレガシー戦略とは、どういったものなのだろうか。

「オリンピック・パラリンピックにおける開催国、開催都市の第一の役割は、選手たちが4年間トレーニングしてきたことを十分に発揮できるような舞台をしっかりと準備し整えることだと思います。とは言っても、開催には莫大な資金が投入されるというのも事実です。それなのに、スポーツが好きな人、開催国の人だけでなく、大会に何の関わりもない人、スポーツに全く関心のない人に、どういった利益が還元されるのかということは、なかなか重要視されてきませんでした。どこかの一企業が行うのであれば選手ファーストや商業的な利益だけを追求してもいいのですが、国費も投入するわけですから、単に選手や関係者たちだけの大会であるべきではないという点が、最近は重要視されてきています」(山田氏、以下同)

過去には大会を開催することでその地域が発展する、経済的な利益がもたらされるということで、招致に積極的な国や都市が多かった。しかし時代が移り変わり、最近ではオリンピック・パラリンピックの招致に手を挙げる国や都市が少なくなってきたのも事実であり、そのため異なる視点から大会の意義を見出すことが必要だと山田氏は言う。
「経済効果だけではなく、社会的、環境的にどういった利益があるのか、市民にとってどんなメリットがあるのかということをしっかり打ち出していこうとしているのが、レガシー戦略となります」

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パリ2024大会の大きな2つの柱


ペットボトル削減のため、パリ市内に1200ヵ所も設置された無料給水スポット photo by Shutterstock

競技場の近くでは大会のマスコット、フリージュのウォーターサーバーも見られた photo by AFLO SPORT

パリ2024大会で打ち出されたレガシー&サステナビリティ戦略の中には、大きな2つの柱があったそうだ。

「1つは『より持続可能で革新的な大会の実現』、もう1つは『パリ大会の社会的・環境的レガシーの構築』です。前者は気候変動への対応やサーキュラーエコノミー(循環経済)といった、環境や経済、社会開発などが開催地域の住民の生活向上に資するような大会にしていこうというもの。後者は身体活動やスポーツの重要性を人々に認識してもらい、スポーツへのアクセスを増やしていきながら、教育の中でスポーツも用いていくこと。あるいはスポーツをインクルージョンとか連帯平等促進のために活用していき、環境に配慮したイノベーションを加速させる機会を作っていくというものです」

この2つを柱として、実にさまざまな試みが実施された。

サステナブルな会場:競技施設の95%は既存または仮設の建物を使用。100%再生可能エネルギーを使用した。

ジェンダー平等:出場選手、ボランティアスタッフなど関係者の男女比率を50%ずつにするという目標を掲げた。

観客も環境に配慮:使い捨てプラスチックの削減のため、マイボトルに無料で給水できるスポットが1200ヵ所以上設置された。また、観客の移動手段を公共交通機関・自転車・徒歩に限定し、移動による二酸化炭素の排出量を削減した。

これは、目に見えるわかりやすい事例だが、その他にもレガシー&サステナビリティ戦略に基づく多種多様な試みがなされた。