『機動戦士ガンダム』のジオン公国は戦争の初手でスペースコロニーを地球へ落としていますが、冷静に考えれば自分たち宇宙移民の生存圏を自らの手で減らす狂気の沙汰です。なぜそこまでしなければならなかったのでしょうか。



「コロニー落とし」をめぐる激戦が繰り広げられた。「U.C.ガンダムBlu-rayライブラリーズ 機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ

【比較画像】えっ、ガンダムが豆粒に見える…こちらがデカさに言葉を失う『0083』の「ノイエ・ジール」です(11枚)

一撃で敵を屈服させるという幻想

 いまに続く「ガンダム」シリーズの物語は、「ジオン公国」による「コロニー落とし」で開幕しました。

 関連資料によれば、スペースコロニー1基あたりの人口は2000万人から5000万人で、大きさは直径6.4km×全長30km以上です。日本の人口が1億2000万人ですから、いかに巨大かが分かるでしょう。

 いわゆる「宇宙世紀」シリーズの映像化作品で、コロニーは4回、落とされました。

●『機動戦士ガンダム』第1話:宇宙移民の独立を目指すジオンが「アイランド・イフィッシュ」を落とし、オーストラリア南東の形が変わった。

●OVA『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』:ジオン残党の「デラーズ・フリート」がコロニーを北米大陸に落とし、食料自給率が落ちた。

●『機動戦士Zガンダム』第25話:宇宙移民を弾圧する「ティターンズ」が、月面都市「グラナダ」へのコロニー落としを狙うが、実際には離れた場所に落ちた。

●『機動戦士ガンダムZZ』第35話:ジオン再興を目指す「ネオ・ジオン」が、アイルランドのダブリンに落としたコロニーは地面に刺さり、塵芥が降り続けた。

 しかし、その戦略的効果については疑問符が付きます。食らった側は1発でKOされたわけではないからです。

 単に地球に被害を与えるなら、『機動戦士ガンダム』第35話「ソロモン攻略戦」で使われた、岩石にロケットを取り付けただけの、いわゆる「遊星爆弾」のようなものを繰り返し落とす方が安上がりです。なぜそうしなかったのでしょうか。

 ティターンズを除きコロニーを落とした各勢力はいずれも、戦う相手に比して戦力や国力(生産力)に劣るため、とにかく一撃必殺で勝負を決めたかったのだと思われます。

 継続的に隕石落としをするには、コツコツと大きな岩石を運び続けなければなりません。迎撃されないよう、制空権や制宙権を掌握する必要もあるでしょう。そこまでの財力もマンパワーもないから、一撃必殺の早期決着を狙うわけです。そして、手持ちのなかでも一番大きなブツがコロニーであり、相手の心をくじこうとした心理作戦でもあったのではないでしょうか。

「誰がコロニーを落としたか」も重要といえます。宇宙移民が独立を求め、弾圧者である地球の人々と戦うはずが、コロニーを落としたのは『Zガンダム』のティターンズを除いて宇宙移民側なのです。

 しかもジオン公国の例では、コロニーを落とすのに邪魔な住人2000万人を虐殺しています。いくら連邦側についたとはいえ、同じ宇宙移民の同胞を殺し、自分たちの大地を武器にするのでは、共感を得にくかったのではないでしょうか。

 連邦の人々を団結させる効果もあったはずです。『Zガンダム』の「ロザミア・バダム」は、コロニー落としを目撃したトラウマを利用されて「強化人間」になり、宇宙移民の弾圧に手を貸しています。

 インパクトは抜群ですが、百害あって一利なしといっても過言ではないのがコロニー落としなのです。

 コツコツやることができないから一発逆転を狙うのは、ギャンブラーがよくやる破滅への一本道でもあります。こうしたジオンのバクチ体質は、「ビグ・ザム」をはじめとした巨大兵器「モビルアーマー」や、少数で多大な戦果を挙げる「ニュータイプ」利用などにも表れており、ジオンを敗北させた一因は、そうした一撃必殺という甘い幻想だったのかも知れません。