今年7月に厚生労働省が公表した「2023年国民生活基礎調査の概況」によると、単独世帯、つまり1人暮らしは1849万5000世帯。全国の世帯総数5445万2000世帯の34.0%を占め、最多の割合。かつその単独世帯のうち、約半数となる855万3000世帯は、65歳以上の高齢者という結果が出ている。なかでも気になるのは、LGBTQの人たちの実態だ。自身も当事者で現在はシェアハウスで暮らしているという「NPO法人コラルト」の代表者・たいこんさんこと山田泰輔さんに話を聞いた。
LGBTQが集まるシェアハウス
単身だけでなく、パートナーがいたとしてもパートナーシップ制度の採用などには地域差もあり、老後のロールモデルが少ないため、将来の不安にかられている人は多いだろう。
そんな、LGBTQ当事者たちが多く集まることで知られている東京・新宿二丁目。
そこで「認知症サポーター養成講座」などを開催し、「多様性を包摂(ほうせつ)し、いろんな立場の人同士で助け合う」ことを目的としている団体が、「NPO法人コラルト」だ。
代表者の「たいこん」さんこと山田泰輔さん(57)は、自らがLGBTQ当事者であり、シニア世代に足を踏み入れた立場として、実体験を踏まえ、よりよいコミュニティの作り方について発信している。
たいこんさんは、2005年から都内の一軒家にLGBTQ当事者の男性のみでシェアハウス生活をしている。現在の住人は4人で、最大時は6人が共同生活をともにする。これまでで20人ほどが入れ替わりで住んでいたんだとか。
「やはり家賃の負担が減ることがありがたいということで、同じ考えの者同士で住み始めました。だんだん手狭になり、現在の一軒家に移ってきたのが2009年。
リアリティーショーの『テラスハウス』みたいな恋愛要素はほとんどなくて(笑)、年齢も職業もバラバラだし、干渉し合わない関係を保てる人たちがこれまで住んできました」(たいこんさん、以下同)
「みんないい歳の人間ばかり」と笑いながらシェアメイト(同居する人たち)を語る彼は、シェアハウスで得られる安心について話しを続ける。
「シェアハウスを始めたころは私も30代で、ギラギラしていましたし(笑)、ゲイって自由気ままに生きたいという人が多いから“シェアハウスをする、している”といったら、“なにそれ!?”なんて奇異の目で見られたりしていたものでしたね。でも、今は反対に羨ましがられています。
この年齢になった今、大切なのはお金より安心感ですから。
生活のリズムもバラバラではありますし、深く踏み込まないけれど、ここにいると、『いってらっしゃい』『おかえり』という、言葉のお守りを渡し合うことができる。本当にありがたいです」
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共同生活のおかげで生きていられた
なにより、本当の家族に話せないことを、理解している人たちの集まりというのが、心強いという。
「以前住んでいた子が、30代で脳内出血を起こしたことがあって、異変を感じ救急車を呼び、病院まで付き添いました。
島根のご両親に連絡し、ほどなく上京してこられたのですが、東京に知り合いもいなかったみたいで、彼が入院している半年間、ご両親はうちで寝泊まりしていましたね」
同居人ながらはがゆいことや、親族でないからこそのエピソードが。
「一緒に暮らして、かつ病院に付き添ったのに、私達は親族ではないので、彼の容体をお医者様から直接聞くことができませんでした。
あとでご両親にうかがったら、私たちの早い対応があったから、最悪の事態にならなかった、と。
結局、彼は高次脳機能障害が残ってしまい、両親とともに帰郷するのですが、ご両親に私たちの対応にはとても感謝されましたね。
彼の入院中、あまりにも人が多い東京で不安を抱えたご両親の日常品の買い物に付き添ったこともありました。
また、ご両親が彼の部屋に寝泊まりすることが決まったとき、住人たちであわてて彼の趣味のものを片付けたのも、いい思い出です(笑)」
このシェアハウスを出た人たちも、折に触れて「帰って」来るという。
「家業を継ぐことになって地元に帰って結婚した、なんて子も。子どもの写真なんか送ってくると、孫みたいな感覚で嬉しくなりますね。心の実家みたいな感じなのかもしれません」
たいこんさんも、シェアハウスの同居人には大いに助けられている。
「1998年に十二指腸潰瘍になったときも、2020年に倒れたときも、ひとり暮らしだったら発見が遅れて孤独死をしていたと思います。みんなに本当に助けてもらいました」
2020年に倒れた際は、これでもかという壮絶な出来事が重なった。
「私の母が認知症になってしまい、同居人たちの了解のうえ、シェアハウスで母の介護をしていました。
そんな矢先、私が原因不明の肺炎による敗血症で意識不明になってしまったんです。エクモ(人工心肺)のお世話になるほど重篤な状態でした。
私が入院している間、シェアハウスの同居人たちが母を介護してくれて…。
徘徊や排泄処理など、大変な苦労をかけてしまいました。その当時は私にまだ認知症に対する理解も知識もなかったので、ただ戸惑いと絶望感だけでしたね」
この件があり、同居人たちへの感謝と申し訳ない思いを抱えた彼は、認知症や介護、そしてさまざまな立場の人たちの老後について、真剣に考えるようになったのだった――。
※後編では、たいこんさんの現在の活動の実態について深掘りする。
PROFILE たいこん(山田泰輔)●1968年生まれ、東京都新宿区出身、新宿区在住。NPO法人コラルト理事、発起人。新宿区の認知症サポーター養成講座講師。
NPO法人コラルト https://colalt.com/
取材・文/木原みぎわ