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イライラ棒が一番うまいのは誰だ?/ Credit: Tobin Joseph et al., BMJ(2024)

金属製のコースに電極棒を接触させないよう慎重にゴールまで進め、接触してしまうとブザーが鳴ってOUTになるこのゲーム。

これは海外では「バズワイヤー(buzz wire)」、日本では「イライラ棒」として知られており、皆さんも市販のおもちゃで遊んだことがあるかもしれません。

しかし英リーズ大学(University of Leeds)はこのほど、英国の権威ある医学雑誌『
ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)』のクリスマス特集号として、医療従事者の中でどの専門が最もイライラ棒に優れているかを実験しました。

その結果、外科医がずば抜けてうまかったのですが、その反面、外科医はゲーム中に悪態をつく回数もダントツだったようです。

研究の詳細は2024年12月20日付で医学雑誌『BMJ』に掲載されています。

目次

医療従事者の中で「イライラ棒」が一番うまいのは誰?外科医がトップだったが「悪態をつく回数」も断トツ

医療従事者の中で「イライラ棒」が一番うまいのは誰?

日本における「イライラ棒」は1990年代に放送されていたバラエティ番組「ウッチャンナンチャンの炎のチャレンジャー これができたら100万円!!」の人気企画として始まりました。

ただイギリスでは類似のゲームが1950年代から存在しており、こちらは「バズワイヤー」の名前で広く知られています。

どちらも金属製のコースに棒が触れるとOUTになる点では同じですが、主に2パターンに分かれます。

1つは並行に並んだ金属製のコースの「間」に棒を通していき、左右のコースに当たらないようゴールを目指すパターン。

もう1つは棒の先端が輪っか状になっており、それを1本の金属製コースに通していく形でゴールを目指すパターンです。

パラエティ番組などではコースに触れると電流がビリッと流れたり、火薬が爆発するなどのギミックが用意されていましたが、市販で遊べるものは基本的にコースに触れるとブザーが鳴るのが主流になっています。


実験で使用した「バズワイヤー」/ Credit: Tobin Joseph et al., BMJ(2024)

そして英リーズ大学の医療研究チームは今回、BMJのクリスマス特集号として、医療スタッフの中でどの部門が最もイライラ棒がうまいのかを検証することにしました。

医療スタッフの部門というと、内科医、外科医、看護師、臨床には携わらないスタッフなど様々あります。

その中で研究主任のマイケル・ドロースト(Michael Drozd)氏は「日頃から外科医がその器用さを自慢していることを誰もが知っていましたので、それが本当に正しいのかを試すことにしました」と冗談めかして話しています。

この実験では、イギリス国民保健サービス(NHS)で働く職員254名(内科医60名、外科医64名、看護師69名、非臨床スタッフ61名)を対象としています。

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外科医がトップだったが「悪態をつく回数」も断トツ

ここでは先の画像に示したように、先端が輪っか状になっている棒を金属製のコースに通してゴールを目指すタイプを使いました。

内容はごくシンプルで、棒がコースに触れてブザーが鳴ったらスタートからやり直し、ゴールできるまでのタイムを競います。

その結果、イライラ棒が最もうまいのは事前の予想通り、外科医であることがわかりました。

5分以内にゲームをクリアできた率は、内科医で57%、看護師で54%、非臨床スタッフで51%だったのに対し、外科医では84%だったのです。

また成功した人の平均タイムを見ると、内科医は120秒、看護師は135秒、非臨床スタッフは161秒だったのに対し、外科医は89秒となっていました。


上:5分以内の成功率(左から外科医・内科医・看護師・非臨床スタッフ、下:成功タイムの速さ(外科医が断トツ)/ Credit: Tobin Joseph et al., BMJ(2024)

これは研究者の仮説通り、高度で繊細な技術を要する外科手術によって器用さが鍛えられたことが一番の要因だと見られています。

その一方で、奇妙な結果も見られました。

研究者たちはゲーム中に「悪態をつく回数」も密かにカウントしていたのですが、悪態をついた人の割合を比べてみると、内科医は25%、非臨床スタッフは23%、看護師は30%に対し、外科医は50%でした。

悪態とはゲームに対して「クソッ!」とか「このヤロゥ」のような攻撃的な言葉遣いを指します。


悪態をつくのは外科医が断トツだった/ Credit: Tobin Joseph et al., BMJ(2024)

ただこれに関して研究者らは、過去の調査から「外科医が悪態をつくのは強度のストレス環境(つまり外科手術中)にさらされている中でも高い技術と集中力を維持するための対処法である可能性が示されている」と説明しています。

要するにこれは外科医の性格が悪いのではなく、イライラ棒の難所を切り抜けるために集中力を高めているのではないかと考えられます。

このように医療界でのイライラ棒選手権は外科医が1位でしたが、世の中のあらゆる職業でも検証し、外科医よりもイライラ棒がうまい職種を探してみたいものですね。

参考文献

Surgeons (thankfully) may have better hand coordination than other hospital staff
https://www.scimex.org/newsfeed/surgeons-thankfully-may-have-better-hand-coordination-than-other-hospital-staff

Surgeons Best at Dexterity Game, but They Swear More
https://www.medpagetoday.com/surgery/generalsurgery/113447

元論文

Dexterity assessment of hospital workers: prospective comparative study
https://doi.org/10.1136/bmj-2024-081814

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部