今回は“デコボコ”グリップテープにスポットを当てます。オバサマたちに絶大な人気を誇るデコボコグリップテープですが、実はあれ…日本特有のもので、海外では販売されていません。
ですがテニス専門店のスタッフに伺うと「一度、デコボコグリップにしたお客さんは、それ以降、まず普通のには戻らないですね」と言います。
そんなにいいわけ? 一般プレーヤーの間では「あれは邪道」と揶揄されるじゃないですか。でも、もしかしたら、食わず嫌いなだけかもしれません。
ツアープロでデコボコグリップテープが巻かれているラケットを使う人はいませんが、本当にコーチやプロプレーヤーには使えないのでしょうか? 実際にプロコーチに使ってもらうと「あれっ、意外にイイですね!」という声も聞かれます。
あの不格好なデコボコグリップのメリットとは、いったいどこにあるのかを考えてみました。
デコボコグリップテープは、ボコっとした盛り上がりが螺旋状にグリップを周回しており、それが指に引っ掛かる感じで「握り」をサポートします。
その仕組みは、テープの裏側に幅5ミリ程度の紐状スポンジが貼り付けられているだけ。これを普通にグリップに巻けば、あのデコボコが生まれるのです。
巻き方や、プレーヤーの手のサイズにもよりますが、デコボコの間に指が収まることで、指とグリップとの接触面積が大きくなります。そうすると、くっつく感覚が増して、ちょっとしたオフセンターショットでも、グリップを回されにくくなります。つまりグリップ力が上がるってことですよね。
その効果は、単純に回されにくいだけでなく「疲労感軽減」にも役立つといいます。普通のテープでは、グリップが回されないためと、力強いインパクトにしようという狙いで、当たる瞬間にギュッと強く握りしめるものですが、デコボコグリップは回されにくい特性があるため、そんなに強く握り締めなくてもいいんです。
ということは「試合後の手に残る疲労感が違う」ということですね。これは上級者にとってもメリットがあり、長い試合になった時など、「疲れにくい」グリップは相手よりも有利な状態を作ってくれるのではないでしょうか。
さらに「グリップが回されにくい」⇒「強く握りしめなくてもいい」ということから、「スイングスピードが速くなる」と言う人もいます。本当にそうなの?
運動生理学の本を読むと「筋肉を強く収縮させると、その周辺の関節の動きが遅くなる」とあります。確かに関節をクイクイッと動かす時は、力は抜けていますよね。関節を柔軟に動かすためには、できるだけ筋肉を弛緩させるのが好ましいのです。
手の指や腕の筋肉にギュッと力を入れると、関節は動きにくくなります。つまり、できるだけ楽にグリップを握る方が、手首の関節を効果的に使うことができて、スイングスピードは速くなるということなんです。
つい逆のイメージが持たれがちですが、グリップを軽く握るのがスイングを速くするコツであり、軽く握ってもフィットするデコボコグリップは、スイング高速化に役立つと言えるかもしれません。
最初に話した通り、デコボコグリップテープは、普通のテープの裏側に紐状スポンジが貼り付けてあるため、通常の握り感覚よりも全体的にフワッとした握り心地になります。これが「クッショングリップ」の役目も果たしてくれて、ラケットフレームから手に伝わる衝撃や振動を和らげてくれる効果もあるんです。フィーリングとしては、振動止めよりも効果があるように感じるでしょう。
そんな日本独自のスペシャルグリップは、現在5ブランドから発売されています。構造はほぼ同じ感じですが、細めの紐状スポンジを2本にして、より多くのデコボコを作る「ツイン」とか「ダブル」というタイプもあります。
また、ほとんどがウェットタイプのテープですが、「ドライタイプはないのか?」というユーザーの要望に応えて、最近はセミウェットタイプも発売されています。
「カッコよりも効果だ!」という方は、試してみる価値アリですね。
文●松尾高司(KAI project)
※『スマッシュ』2023年6月号より抜粋・再編集
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