森永卓郎(C)週刊実話Web
自民、公明、国民民主の3党の幹事長が12月11日に国会内で会談し、年収103万円の壁について、「178万円を目指して、来年から引き上げる」ことで合意した。
あくまでも目標を示しただけで、減税の対象や規模、具体的な手法は、これから詰めることになっているのだが、この決定に明確な不快感をあらわにしたのが、宮沢洋一自民党税制調査会会長だった。
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「正直びっくりしたことは事実であります。一歩一歩前進をしてきたところでこういう話が出てくることについて言えば、釈然としない感じは正直ございます」と不満を隠さなかったのだ。
もちろん、その理由は自分たちの権益が侵されたからだろう。
日本の税制は、自民党の税制調査会が完全に握ってきた。
総理大臣でも口を出せない聖域と呼ばれ、絶対権力を誇ってきた。
長期間、自民党税調会長を務めミスター税調と呼ばれた山中貞則氏は、「政府税調を軽視しているのではないか」という質問を受けて、「軽視しているのではない。無視しているのだ」と豪語したほどだ。
自民党税調の中でも、「インナー」と呼ばれる幹部は大きな力を持っており、その人数は内規で9人と定められている。
インナーは、国会議員であることが条件で、閣僚との兼務ができない。
そのため、メンバーが落選したり、閣僚になると入れ替えが行われる。
現在のインナーは、税調会長の宮沢洋一、税調顧問の森山裕、税調小委員長の後藤茂之、税調小委員長代理の石田真敏、税調副会長の小渕優子、同齋藤健、税調幹事の福田達夫、同小林鷹之、同上野賢一郎の9人となっている。
さらに、その中で宮沢、森山、後藤、石田が「コアインナー」と呼ばれ、重要な税制改革は、この4人の合議で決まる。
つまり、密室の中で、税制が決まる習わしになってきたのだ。
国民の不満が爆発!
ところが、今回の壁引き上げでは、彼らの頭越しに178万円への所得控除引き上げが決まってしまった。
財務省は大きなショックを受けたに違いない。宮沢と後藤は元大蔵官僚、森山は財務副大臣経験者。つまり、自民党税調は財務省と一心同体の存在なのだ。
その自民党税調の権力が衰えれば、財務省は自由に税制をコントロールできなくなってしまう。
実際、それが起きたのが「103万円の壁」の引き上げだった。
私は、自民党税調は調子に乗りすぎたのだと考えている。
何しろ、国民向けの最後の本格減税が行われたのは、小渕内閣時代の定率減税だったからだ。
つまり自民党税調は、四半世紀にわたって増税一辺倒の路線を堅持してきたことになる。
そこまで国民を追い詰めたら、いくらおとなしい日本人でも、不満が爆発するのは当然のことだ。
ただ、わずか数人の密談で税制が決まることは、どう考えてもおかしい。
国民生活に直結する税制は、オープンな場で議論すべき。今回の103万円の壁論争が、そうした方向への第一歩となるのであれば、たとえ壁の引き上げが178万円に届かなくても、国民民主党が果たした功績は、大いに評価されるべきだろう。
「週刊実話」1月9・16日号より