「ボールを持ったら何かをしてくれる」BL東京を16点差の逆転劇に導いた司令塔モウンガの存在感【リーグワン】

 苦しい時こそ大物の出番だ。

 ラグビーのニュージーランド代表として56キャップを獲得のリッチー・モウンガは、12月22日、入団2年目の東芝ブレイブルーパス東京の10番をつけて神奈川・日産スタジアムにいた。昨季優勝とMVPを得た国内リーグワン1部にあって、新シーズンの初戦に臨んだ。

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「少しお腹が痛くなるくらいの緊張は、ありました。ただ、(今年は代表活動に帯同せず)プレシーズンが長かったので、そこでの頑張りの成果を出せる点は嬉しいことでした」
  昨季まで2季連続4強の横浜キヤノンイーグルスに、前半37分までに0—16とリードを許した。

 ただ、劣勢を挽回し、結果的に28—21と勝ち切るまで、底力を発揮した。

 0—10だった同23分には自陣ゴール前で、相手スクラムハーフのファフ・デクラークが抜け出すのをストップ。南アフリカ代表58キャップのライバルは「あの時、自分は他に何ができたかなと考えています。ただ、あれはハイタックル…」と苦笑しつつ、こうも続けた。

「大一番を経験する分だけ、ギブアップしない気持ちを常に持っておかなくてはと思います。だからこそ、トップ選手は毎週、いい試合をするんです」

 21—16と勝ち越していた後半21分頃にも、モウンガは自陣ゴール前で身を挺した。オーストラリア代表31キャップで身長2メートル超のロック、マシュー・フィリップのフィニッシュを防いだ。

 2度のトライセーブ! 本人の謙遜する言葉が、かえって神々しく響く。

「たまたま私がその位置にいただけ。そこにいたら、誰だって同じことをしたはずです。何とか相手の勢いを止め、自分たちの勢いを取り戻そうとしただけです」

 ピンチをしのいだのは足技も然り。自陣の深い位置から陣地脱出の好キックを披露すること2回。イーグルスの後衛の薄くなった箇所を見透かしたようだった。

 攻めては組織に己を溶け合わせた。

 一時、責任企業の不振で低迷した古豪のブレイブルーパスは、分社化する2季前の2019年度にトッド・ブラックアダーヘッドコーチを招聘している。

 いまも続く現体制にあって、コーチングコーディネーターを担うOBの森田佳寿は独自の布陣、球の動かし方を編んで爆発力を生む。

 その仕組みを運用すべく、モウンガは試合翌日のオフにも練習に向けた事前打ち合わせを森田とおこなうという。

 この午後、最初にその成果をにじませたのは前半36分頃か。グラウンド中盤の接点へ接近しながら球をもらい、防御の裏側を通すパスで味方を突破させた。

 続く39分には、似たエリアで味方の陰に隠れるような位置でパスを捕球。するりと防御の死角をえぐった。

 継続した。

 波状攻撃を引き出し、わずかな防御のひずみをこじ開けた。

 ロックのジェイコブ・ピアスがラインブレイクを決め、日本代表4キャップのフルバックである松永拓朗を走らせた。前半唯一のトライと自らのゴールキックで、7―16と逆転の下地を作った。
  14—16と2点差を追っていた後半15分には、飛び出すイーグルスの防御をコンビネーションでいなした。

 ニュージーランド代表とフィジー代表でキャップを持つセンターのセタ・タマニバルが、イーグルスの飛び出す防御の裏へキック。モウンガはその弾道に追いつき、拾い上げ、そのままインゴールを割った。ゴール成功で21―16。
 「セタの判断で声をかけてくれた。そこに反応した」

 21―21だった後半24分には、イーグルスのコンバージョンゴールへ必死にプレッシャーをかけてもいた。名手のかくも泥臭い働きぶりに、あるクラブ関係者は自軍の戦いぶりが「モウンガ頼み」に映ってしまう点を懸念してしまうほどだ。

 ナンバーエイトで日本代表87キャップのリーチ マイケル主将は、ジョークを交えて言った。

「彼(モウンガ)は、ボールを持ったら何かをしてくれる。ただ、そこに頼り過ぎるのはよくないと思います。チームとして勝つ。…きょう、久々にリッチーがバテた顔を見られて、よかったです」

 21日からの2日間、各地でのリーグワン1部開幕節6試合のうち、何と4試合が10点差以内の接戦。前年度の順位で近い者同士がぶつかったのもあり、シーズンの過酷さを対外的にアピールできた。

 殊勲のモウンガについて冗談めいた談話を残すリーチは、80分全体を通して「理想通りの戦いじゃなかったけど、勝ててよかったです」。前半にかさんだ反則を減らすべく、仲間のタックル後の起き上がりを意識させて規律を修正。組織としての逞しさに手応えを掴めた。

 これから続くいばらの道へ、「どんなチームもいいアタック、ディフェンス(の形)を持っていて、いい選手もいる。そのなかで、試合の流れをどう読むかに力を入れていきたいです」。持ち前の感性を磨き、仲間意識の強い豪華客船を前進させる。

取材・文●向風見也(ラグビーライター)
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